ほえる犬は噛まない
劇場公開日:2003年10月18日
解説
「殺人の追憶」が大ヒットを記録し、一躍注目を集めたポン・ジュノの劇場長編初監督作。とあるマンションを舞台に、連続小犬失踪事件をめぐる騒動を描いた異色コメディ。中流家庭の住むマンションに暮らすユンジュは、うだつの上がらない大学の非常勤講師で、出産間近の妻ウンシルに養われながら教授を目指している。近頃マンションでは飼うことが禁止されているはずの犬の鳴き声が頻繁に響き、イラついていたユンジュは、たまたま見かけた犬を地下室に閉じ込めてしまう。一方、マンションの管理事務所で働くヒョンナムは、団地に住む少女の愛犬がいなくなったことを知り、迷い犬のビラ貼りを手伝うことに。その犬は手術をしているため吠えないというのが特徴で……。正義感の強いヒョンナムを、本作をきっかけにブレイクしたペ・ドゥナを演じた。
2000年製作/110分/韓国
原題:Barking Dogs Never Bite
配給:ファイヤークラッカー
スタッフ・キャスト
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2019年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
ポン・ジュノの初長編にあたる本作は日本公開を迎えるまでに3年もの歳月を要した。つまるところ、彼の真の凄さが咀嚼されるまでにはそれだけの熟成、発酵期間が必要だったということになる。なるほど、それもそのはず。この映画はこちらが追いついたと思ったら瞬時に手のひらからすり抜けていく。犬泥棒の追跡劇、女同士の友情、大学講師の悲哀、夫婦間に吹きすさぶ冷たい風など、描かれるエピソードはとにかくジャンルレス。日常生活から浸み出したリアルな描写の一部始終がとにかく効果的に炸裂するのも見どころだ。あと何と言ってもヒロイン役のぺ・ドゥナの「私はここにいます!」と主張するかのようなまっすぐな存在感にはまらずにいられない。彼女が勇気を振り絞る場面に登場する「黄色」もまた鮮烈だ。あれほどの心理描写をアナログで、しかも手応えたっぷりに描けるところも、ポン・ジュノという男が全くもって只者ではないことの証左と言えるだろう。
2022年12月17日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波
動物愛護でペットを食べるのはタブーなんだろうけど、そんなことお構いなしで衝撃を受けた前半戦。
そんな余韻を残しつつ、大学教授の椅子と学長への賄賂とか、妊婦は会社に残れない、そんな韓国の社会性を遠慮なく表現しつつストーリは展開する。韓国の国民性とか社会事情の描写はこの監督の持ち味。その後の成功の片りんを感じる。
主演のペ・ドゥナは、観客を爽やかな気持ちにさせる演技だった。
2022年9月1日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
過去数回鑑賞
監督と脚本は『グエムル 漢江の怪物』『パラサイト 半地下の家族』のポン•ジュノ
ポンジュノ監督の長編映画初作品
犬を飼うことが禁止されている団地で犬の鳴き声が聞こえる
規則を破り犬を飼う住人がいるのだ
大学の非常勤講師はそれが許せなくて犬をこっそり盗み殺そうとしたが殺せず地下室の家具に閉じ込めてしまう
飼い主の少女から犬探しの相談をうけたペ・ドゥナ演じる団地の管理事務所職員は少女の代わりに迷い犬を探しているというポスターをあちこちに貼った
そんなある日に双眼鏡で団地を監視していると黒い小犬を屋上から落とす大学の非常勤講師を目撃してしまう
なんやかんやで非常勤講師は妻が飼い始めた犬を散歩中にはぐれてしまい管理事務所経理と共に探すハメに
犬が好きで好きでたまらない人にはおすすめできない
犬死にとかお犬様を蔑称として使うなんて許さないと日頃お怒りの人にもこの作品はおすすめできない
犬を虐待する惨いシーンが多い
犬鍋には卒倒してしまい最悪嫌韓になるかもしれない
コメディーならばと気軽に観ない方が良い
現代劇で犬食文化を扱えるのは韓国映画ならでは
邦画でも『花よりもなほ』で貧乏長屋の人々が犬鍋を食べていたけどあれ江戸時代を舞台にした時代劇だし
犬食は野蛮だから懲らしめようという考えは西洋人の感覚であり日本人が加担してはいけないしむしろそういう独善的な考えの方が野蛮
映画comによると原題は『Barking Dogs Never Bite』だがそれは間違いで韓国語を直訳すると『フランダースの犬』が本当の原題らしい
なぜそのタイトルにしたのかポン・ジュノ監督の説明でもよくわからない
監督が子供の頃に観た日本のアニメ『フランダースの犬』とこの映画の内容にどんな関連性があるのか
犬が数匹ほど登場し大学の非常勤講師がカラオケで『フランダースの犬』の主題歌を歌うのだが釈然としない
ダリほどちんぷんかんぷんではないが見た目に似合わず奥深いクリエイターだなと
2000年の作品
ペ・ドゥナの出世作
この作品でペ・ドゥナの存在を知る
当時20歳くらいの若手
初鑑賞はタイトルにも惹かれたがほぼジャッケットのペ・ドゥナの表情だけで鑑賞することを決めた
彼女に一目惚れしたのだ
ペ・ドゥナの表情を見ればコメディーかそうじゃないかわかる
他の韓国の役者とは一線を画す強烈な個性を放つ名優それがペ・ドゥナ
団地の廊下や階段で追いかけっこする赤い非常勤講師と黄色いペ・ドゥナが印象的
追いかけるペ・ドゥナが住人の開いた扉に衝突するという全員集合前半のコントでよく見た志村やいかりやみたいなシーンは好き
さらに管理事務所で鼻の穴に紙を詰めてるペ・ドゥナ大好物
非常勤講師に犬を渡すときの笑顔がとても可愛い
無闇に唾を吐くババアは印象的
ペ・ドゥナ演じるヒョンナムが慕うデブの姉貴分がよく着ているTシャツに大きくデザインされた数字の「5」も印象的
まるでストロンガー城茂TシャツのSのようだ
2022年6月5日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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ポン・ジュノ2000年の長編監督デビュー作。
約20年後、カンヌや米アカデミーを制す世界的名匠になろうとは、この時誰が思っただろうか。
だって本作を見たら、異色の監督が現れたと思わずにいられない。
本人も自分は変わってるからヘンな映画ばかり撮る…と、何かのインタビューで言っていた。
でも、全く理解不能の“ヘン”には非ず。後の『パラサイト』にも通じる片鱗はこの頃から。
巨大団地内で頻発する飼い犬失踪事件。
それを二つの視点、シュールな人間模様の中に描いていく。
団地の管理事務所で経理をしているヒョンナム。冴えない性格で、駄菓子屋を営む友人とボケ~ッとTVを見ながら、ニュースで取り上げられる一般人が活躍して強盗を捕まえるような“ヒーロー”になる事に憧れている。
そんなある日、団地に住む女の子から居なくなった飼い犬を探して欲しいと頼まれる。
真面目で正義感ある性格。団地中に貼り紙して懸命に探す…。
その犯人。
団地の住人、ユンジュ。
大学教授のポストを狙っているが、それには学長への多額の賄賂が必要で、そんな金はナシ。家では妊娠中の妻の尻に敷かれ、彼もまた冴えず、うだつが上がらず…。
その日も電話で働き口に繋がらず、意気消沈。おまけに、何処からかうるさい犬の鳴き声。
彼の中の何かが壊れた。
たまたま見つけた子犬(少女の飼い犬)を団地の地下室に隠す…。
それが団地を揺るがす(?)大(珍?)事件の始まり…。
この両者、ニアミスが続く。
ユンジュが別の子犬を屋上から投げ落とす。それを見ていたヒョンナム。団地内を猛ダッシュで、背中を目前に捉え、捕まえるまで後一歩!…の所で、ドアが突然開いて…。
お互い、各々の立場は知らない。ある時、ひょんなきっかけで知り合う。ユンジュはヒョンナムが子犬を探していると知るが、ヒョンナムはユンジュがその犯人とは知らぬまま…。
社会の縮図とでも言うべき団地。
様々な人間模様が蠢く。
冴えない仕事にうんざり。
仕事にあり就けず、家での立場も散々。
屋上で日干し大根を作る老女。
地下室では…
ユンジュが隠した子犬を見つけ、それを鍋のメインディッシュにしようとする老警備員。
いつの間にかこの団地の何処かに住み着き、やはり子犬を見つけ食べようとする浮浪者。
犬を食べるなんて残酷だが、ある世代では普通に食べていた事あったとか。私もリアルに高齢者からそんな話を聞いた事がある。
犬が虐げられる描写もあり、犬好きにはキツイかも…。
妻にこき使われ、さらに妻が勝手に子犬まで飼う。
生活は厳しく、こちらは金の工面に苦労しているのに、犬だと!?
遂に不満が爆発。
しかしある時妻の真意を知る。妊娠を理由に仕事を解雇。退職金から唯一の自分へのご褒美として飼った子犬。退職金の残りは、夫の働き口の為に当てようとしていた。
イライラさせる妻と思いきや、実は内助の功。
そんな妻が飼った子犬を、ユンジュは散歩中に失踪させてしまう。
飼い犬を失踪させていたユンジュは今度は自分が犬を探す立場に。
奇しくもそれに協力するのが、ヒョンナム。
皮肉と言うか、風刺たっぷりと言うか…。
ペ・ドゥナが可愛い。
本作で注目され、ドラマやコメディに変幻自在。その後もポン・ジュノ作品やソン・ガンホとの共演も多く、韓国を代表する女優に。
活躍は韓国内に留まらず、日本映画やハリウッド映画にも。
彼女の活躍はこの団地の子犬失踪事件から始まった…!
ユンジュの妻の犬は見つかった。でも、ただ良かった…には終われない。彼はそれ以前の子犬失踪事件の犯人である。
遂にヒョンナムがそれを知る時が。あの時と同じ“背中”。
警察に逮捕されるとか思ってたとは違うオチに意表付かれた。
その後の二人の明暗も。
ユンジュは金が工面出来、大学教授にあり就いたが…、何故か虚しい。
ヒョンナムは本来の経理の仕事そっちのけで子犬探しばかりして、解雇。人や社会の表裏をこの団地で目の当たりにしたが…、そこからの成長と新たな出発へ晴れ晴れと。友人と行く林の中の散歩の光が美しい。
ポン・ジュノが見つめる人間への変わった眼差し。
愚かで、滑稽で、哀れでもある。
でもそんな中にも人間への愛も滲み出る。
貧困層が閉じ込められたような団地は、それこそ“半地下”の原型だ。
登場人物の言動、物語の展開もこちらが思ってるとは別の方向へ行く。
ポン・ジュノはデビュー作の頃から“異才”だった。