「国宝」あらすじ・概要・評論まとめ ~伝統に生きる者たちの栄光と挫折、そして再生~【おすすめの注目映画】
2025年6月5日 09:00

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、映画「国宝」(2025年6月6日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

李相日監督が「悪人」「怒り」に続いて吉田修一の小説を映画化。任侠の家に生まれながら、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げた男の激動の人生を描いた人間ドラマ。
任侠の一門に生まれた喜久雄は15歳の時に抗争で父を亡くし、天涯孤独となってしまう。喜久雄の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎は彼を引き取り、喜久雄は思いがけず歌舞伎の世界へ飛び込むことに。喜久雄は半二郎の跡取り息子・俊介と兄弟のように育てられ、親友として、ライバルとして互いに高めあい、芸に青春を捧げていく。そんなある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、2人の運命は大きく揺るがされる。
主人公・喜久雄を吉沢亮、喜久雄の生涯のライバルとなる俊介を横浜流星、喜久雄を引き取る歌舞伎役者・半二郎を渡辺謙、半二郎の妻・幸子を寺島しのぶ、喜久雄の恋人・春江を高畑充希が演じた。
脚本を「サマー・ウォーズ」の奥寺佐渡子、撮影をカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「アデル、ブルーは熱い色」を手がけたソフィアン・エル・ファニ、美術を「キル・ビル」の種田陽平が担当した。2025年・第78回カンヌ国際映画祭の監督週間部門出品。

その仰々しいタイトルと、3時間に迫る長大なランニングタイムに後ずさりしそうになるが、同時に感じられる傑作特有の匂いが足を食い止める。そして劇場の椅子へと誘導されるや、多くの者がその高いクオリティを眼前にするだろう。ただ予測と違うのは、それが傑作という程度のものではないことだ。
女形として歌舞伎界の頂点に立とうとする、ヤクザの遺児と名門の息子―。本作は高度成長期を起点に、この対照的な二人の栄光と挫折、そして再生のドラマを波打つように展開させ、超俗的な伝統芸能の、表と裏の舞台を垣間見せていく。比肩する古典として、激動の中国近現代を舞台に、京劇スターの愛憎に満ちた半生を描いた「さらば、わが愛 覇王別姫」(1992)を挙げたくなるが、それは単に設定の近似からくるものではなく、比較対象がこの「国宝」のレベルを保証するからだ。

ともあれ本作は、血筋と才能という呪縛に拘束されながらも、ライバルと切磋琢磨して技芸を極めていく者たちのサクセスストーリーであり、併せて歌舞伎の演目を入れ子にすることで、主要キャラクターの業や運命といったものを暗示していく構成が機能的だ。吉田修一による原作は歌舞伎を中心に広く日本芸能史を横断し、エンタテインメント小説としての表情を豊かなものにしているが、奥寺佐渡子の脚本は歌舞伎に絞ることで、テーマをより鋭敏で明確なものにしている。
また歌舞伎そのものが持つ様式美や表現が映画全体のアート性を高め、日本の伝統ジャンルに通じていない者を惹きつけていく誘導力がすさまじい。吉沢亮と横浜流星のダブルキャストも、従来の演技に加えて歌舞伎の所作までもが求められ、それをクリアすることで、普通では到達できない領域へ向かう者の精神性が見事に体現されている。

なにより、それら要素を総譜としてまとめ、壮々と奏でた李相日監督の手腕を最大限に評価したい。かつて彼は「オッペンハイマー」(2023)の劇場用パンフレットに寄せた作品考の中で 「理性の崩壊を理性的に描く」としてクリストファー・ノーランのアプローチを称揚したが、本作で監督は同様のステップを踏んでいる。主人公らが想像以上に行き詰まりを繰り広げる世界だが、それを捉える監督の感情任せでない視線が、迷いながらも芸道に打ち込む彼らの、ひたむきな姿勢をダイレクトに共有させてくれる。
執筆者紹介

尾﨑一男 (おざき・かずお)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。
Twitter:@dolly_ozaki
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