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【ネタバレ考察】「ミッキー17」ポン・ジュノ監督が愛する日本映画「CURE」「天国と地獄」「赤い殺意」との共通点を探る

2025年4月18日 11:00

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画像1(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

TENET テネット」のロバート・パティンソンと初タッグを組んだ映画「ミッキー17」(公開中)を引っさげて、3月下旬に来日を果たしたポン・ジュノ監督。来日時には、大好きな日本の漫画3作品&お気に入りの映画6作品を明かしている。本記事では、新作「ミッキー17」と、ポン監督がセレクトした“日本の傑作映画3本”との共通点を探っていく。

●来日したポン・ジュノ監督に質問!「大好きな日本の漫画&映画は?」→悩んだ末に出した答えは……

5年ぶりに来日したポン監督に聞いたのは「大好きな日本の漫画3作品と、日本映画トップ5作品」。「漫画3作、映画5本?……これはものすごく残酷ですね。これは難しいなぁ…3つと5つだなんて、制約が多いですね」と悩ましげな表情を浮かべつつも、まずは漫画作品として「松本大洋の『Sunny』、古谷実の『行け!稲中卓球部』、浦沢直樹の『20世紀少年』です」と回答。続いて、日本映画は、以下のように答えてくれた。

「次は映画……黒沢清の『CURE』、阪本順治監督の最近の作品『せかいのおきく』、黒澤明の『天国と地獄』、今村昌平の『赤い殺意』ですね。また、5位タイという意味で最近の2人の若手監督の作品を入れたいです。濱口竜介の『寝ても覚めても』と、三宅唱の『きみの鳥はうたえる』です」

画像2(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
●「ミッキー17」との繋がりを見出した「CURE」「天国と地獄」「赤い殺意」とは?

2021年、ポン監督は米IndieWireの依頼で「お気に入りの映画35作品」リストを公表している。今回の6選でも筆頭に挙がった「CURE」(黒沢清監督)は、ポン監督が最も影響を受けた作品のひとつだ。主演を務めたのは、日本が誇る名優・役所広司。役所が演じる刑事・高部が猟奇殺人事件を追うが、連続して起こる犯行と容疑者たちに関連性が見つからない。捜査が続くある日、記憶をなくしたという謎めいた青年・間宮(萩原聖人)が現れて事態は一変する……といった内容のサイコサスペンスだ。

黒澤明監督がエド・マクベインの原作を基に映画化した「天国と地獄」は、スティーブン・スピルバーグ監督が「シンドラーのリスト」でオマージュを捧げた作品。横浜の高台に暮らす靴会社重役の権藤(三船敏郎)に「子を誘拐した」と電話がかかってくる。程なく発覚したのは、自分の息子ではなく運転手の子がさらわれたということ。犯人の要求は「3千万円を3種類の紙幣で用意しろ」というものだった。企業経営をめぐる役員たちのきなくさい会話で幕を開ける冒頭から続く前半は、長回しを交えた緊迫の室内劇が展開。後半では一転、仲代達矢が演じる刑事が率いる捜査の進捗を仔細につづり、山﨑努が演じた犯人像を不気味にあぶり出していく。

赤い殺意」は、今村昌平監督が藤原審爾のベストセラー・サスペンスの映画化に挑んだもので、平凡な主婦・貞子(春川ますみ)を主人公にした物語。図書館に勤める主人(西村晃)が出張したその夜、寝入った貞子は強盗(露口茂)に襲われる。一度きりの過ちのはずが、突然姿を現す男と逢瀬を重ねる羽目に。「殺してしまえばいい」……彼女の胸にこみ上げる「殺意」は「自死」に向かうが、やがてその矛先は男へと変わっていく。

画像3(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
●失われた記憶、繰り返される言葉、いつ鳴るかわからない電話

「あなたの話を聞かせて」――これは「CURE」に登場する青年・間宮が人に繰り返す言葉だ。自分のことを聞かれても「覚えていない」と言う彼は「あなたの話を聞かせて」と相手に囁く。その問いは、尋ねられた者の中に潜在的に眠る狂気を覚醒させる導火線となっていく。

天国と地獄」では、言葉ではなくいつ鳴るかわからない電話の着信音が鍵を握る。犯人からの要求がいつ届くか分からない。少年を救い出すために犯人からの要求を待つ。犯人と権藤をつなぐ唯一の接点はいつ鳴るかわからない電話だけ。後半、電話は犯人を追う刑事率いる捜査陣の警察無線へとつながっていく。

赤い殺意」では、貞子に対して「妾の子」という言葉が繰り返される。義母と息子は自分たちの優位性を保つために妾の子と蔑む。そして、貞子の胸中に浮かんでは消える「なんでこんなに不幸せなんだろう」という素朴な問い。今村監督は、心の吐露を丹念に積み重ねていく。

ミッキー17」で、ポン監督は主人公ミッキーを「下層階級の人間にして、もっと“負け犬”感を強くしたいと思った」と語っている。パティンソンが演じるミッキーは、使い捨てワーカーとして地獄のような日々を送っている。心ない者たちは「死ぬってどんな気分だ」と問いかけ、ブラック企業のトップは契約書を楯にして「使い捨て」呼ばわりを連発するのだ。

画像4(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

CURE」では記憶を失った青年・間宮に問いかけられた刑事・高部の内面に狂気が滲み、「天国と地獄」の電話の主である犯人は要求を押し通すが、後半に現れる貧しい青年には台詞すら与えられない。「妾の子」として見下される「赤い殺意」のヒロイン・貞子は、心の中で「不幸せ」とつぶやき続ける。そして「ミッキー17」では「死ぬって…」「使い捨て」という言葉が反復される。

4作品に共通するのは、何度も繰り返される描写が蓄積されて、やがて大きな爆発点へと突き進んでいくことだ。「CURE」では問いかけられた刑事が現実と幻想の狭間に追い込まれ、犯人を沈黙させて緊張感を高めた「天国と地獄」では、身代金の鞄を燃やす煙の色が転換点となる。「赤い殺意」では、父が誰か分からない子を身籠った貞子の心に大きな変化が訪れる。「ミッキー17」では、手違いによって「もう一人の俺」=ミッキー18が出現。全くタイプの異なる18は、“死んでは生き返る使い捨て”を受け入れている17に「人間として生きること」とは何かという、新たな気づきをもたらすことになるのだ。

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●徹底した画角へのこだわりと画面の中に生まれるもう一つのフレーム

ポン監督が選んだ3作品には、共通する撮影の奥義が隠されている。凶悪犯罪を描きながらも、白基調の明るい画面が鮮烈な印象を与える「CURE」では、心を惑わせるライターの火を消す水滴までをも演出したかのようだった。権藤邸室内に複数のカメラを置き、貸し切った特急「第2こだま」号では8台のカメラで撮影に臨んだ「天国と地獄」は、シネマスコープのワイドな画面を余すところなく使い切っている。誰もいない部屋で強盗に襲われた貞子の顔をアイロンで写した「赤い殺意」は、上から見下ろす映像を巧みに織り交ぜ、周到に組み立てられた画角設計で息つく暇を与えない。

ミッキー17」の撮影監督は「オクジャ okja」も手掛け、“光の魔術師”と呼ばれるダリウス・コンジ。画角設計からカメラアングルにまでこだわったポン監督が描いた絵コンテをもとに、日陰の存在であるミッキーを際立たせる撮影手腕を披露している。

画角へのこだわりが際立つ4作品には大きな共通がある。窓や扉などを使って画面の中にもう一つの画面を作る「フレーム内フレーム」を活用していることだ。例えば、室外から室内に移動したカメラが窓枠の中にいる人物をとらえる。開け放たれた扉が作り出す縦長のフレームが、スクリーンの中に現れるもう一つの凝縮された画面となって、観客をさらに密度の深い世界へと誘ってくれるのだ。前述の「赤い殺意」で貞子が喘ぐ顔を写したアイロンもその一例と言えるだろう。

画像6(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
●あるときから“顔”が劇的に変わる

CURE」では、容疑者である青年・間宮に出会った後、刑事・高部の顔つきが激変する。「赤い殺意」では、6年ぶりに身ごもったことがわかった時、貞子と周辺人物たちは顔だけではなく態度までも変える。「天国と地獄」の劇的な変化は、ラストシーンに訪れる。被害者と刑事の会話で終わらせる脚本だったが、迷いに迷った黒澤監督は、権藤が犯人と面会するシーンで終わらせている。誘拐によって全てを失った男の“ゼロからの再出発”だと言う。その時、三船敏郎の顔には“生きる意志”が漲っている。

お人好しで優柔不断なミッキー17と勝ち気で喧嘩っ早いミッキー18。2人になったミッキーはクリーパーが群れをなす雪原へと突っ走る。続くクライマックスシーンでは、パティンソン演じるミッキー18が“極めつけの顔”を見せる。「死んでは生き返る」ことに対する逆襲がその一瞬に昇華された名場面だ。

黒沢清黒澤明今村昌平、日本の名匠たちの作品をこよなく愛し、映画術を学び続けたポン監督。「ミッキー17」は、3大傑作のエッセンスを注ぎ込んで作り上げた作品であり、映画館の大スクリーンで堪能してほしい内容となっている。

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