新「007」“次のジェームズ・ボンド”より先に決めるべき重要人物【ハリウッドコラムvol.361】
2025年3月29日 12:00

アマゾンMGMスタジオが「007」シリーズの新章を担うプロデューサーとして、エイミー・パスカルとデヴィッド・ヘイマンを正式に起用したと発表した。
これは「007」シリーズのファン、そして、映画ファンにとってもとてつもなく大きなニュースだ。なにしろ、60年以上にわたり「007」シリーズをコントロールしてきたのはプロデューサーのアルバート・R・ブロッコリとその子供たち、バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソンだった。彼らがクリエイティブ面でコントロールを握り、監督やジェームズ・ボンドの役者、ストーリーを指揮してきた。
2021年にアマゾンがMGMを85億ドルで買収して以来、スタジオの企業価値35~40億ドルの中核を「007」シリーズが占めていたにもかかわらず、決定権はブロッコリとウィルソンの製作会社が握っていた。
シリーズ25作目にして、ダニエル・クレイグの卒業作にあたる「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のあと、双方では方向性を巡って意見が対立。それがようやく、アマゾンが創造的統制権を完全に掌握する方向で落ち着いた。知的財産がなによりもものを言う現代において、必然の流れだったといえるかもしれない。
「007」シリーズは言ってみれば、究極のインディペンデント映画だった。それが、ついにスタジオに掌握される。これは、ディズニーによるルーカスフィルムの買収と似ている。かつての「スター・ウォーズ」も、クリエイターにしてプロデューサー、ジョージ・ルーカスによるインディペンデント映画だった。だが、2012年にディズニーが買収すると、2015年の「スター・ウォーズ フォースの覚醒」をきっかけに、ディズニーは続編やスピンオフを連発していった。

そして、いままさに「007」でも同様のことが起きようとしている。アマゾンが指揮官に起用したのは、エイミー・パスカルとデヴィッド・ヘイマンという2人の大物プロデューサーだ。エイミー・パスカルは長年にわたりソニー・ピクチャーズを率いた重鎮で、現在は「スパイダーマン」シリーズやアニメの「スパイダーバース」を手がけている。
一方、ヘイマンは「ハリー・ポッター」「ファンタスティック・ビースト」「ウォンカとはじまりの旅」などを手がけているイギリスの有名プロデューサーである。イギリスを代表する「007」というIPをアメリカのスタジオが手がけるにあたり、米英のトッププロデューサーにタッグを組ませるあたり、なかなかスマートだ。
ディズニーによる「スター・ウォーズ」展開から学ぶべき教訓は少なくない。
「スター・ウォーズ フォースの覚醒」からの新三部作が批判を浴びた最大の理由は、統一されたビジョンの欠如だ。監督が入れ替わるたびにストーリーの方向性が変わり、一貫性が損なわれた。一方で、スピンオフの「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」や、テレビシリーズ「マンダロリアン」という成功作品も生まれた。作風もクオリティもバラバラで、あたりはずれが多かったのだ。
エイミー・パスカルはソニー時代に「007 カジノ・ロワイヤル」や「007 スカイフォール」の配給を手がけ、「007」の世界に精通している。また、「スパイダーマン」シリーズでは俳優の交代を乗り越え、トム・ホランド版で新たな成功を収めた。「スパイダーバース」では革新的なアニメーション表現を取り入れるなど、伝統を尊重しながらも挑戦を恐れない姿勢が示されている。
一方のヘイマンは「ハリー・ポッター」全8作を通じて一貫したビジョンを維持し、原作の世界観を忠実に映像化することに成功。「ウォンカ」では過去の名作にリスペクトを払いながらも、新たな視点を加えた前日譚を生み出した。彼のイギリス映画界における地位と経験は、イギリスを代表するキャラクターであるジェームズ・ボンドには特に適任といえるだろう。
ただし、2人とも大作映画に精通した敏腕プロデューサーに過ぎず、ストーリーテラーではない(パスカルが「スパイダーマン」で成功を収めることができたのも、マーベル・スタジオのケビン・ファイギ社長が絡んでいるおかげだ)。この点ではルーカスフィルムを率いるキャスリーン・ケネディと同じ。つまり、「007」も同様のリスクを抱えていることになる。
いまの2人に必要なのは、ダニエル・クレイグに変わる新たな007でも、新監督でもなく、新シリーズを構築する優秀なストーリーテラーだ。アマゾンはテレビシリーズやスピンオフなどへの展開も期待しているだろうから、複数の脚本家を束ねるテレビドラマのショーランナーのような存在が必要だ。
はたしてそんな人間がいるだろうか? 実績と実力を考えれば、クリストファー・ノーラン監督がベストだが、人気監督だけにスケジュールが空くとは思えない。

となると、「ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング」のクリストファー・マッカリー監督がいいのではないかと思う。彼はシリーズ第4弾「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」の脚本のリライトとして参加し、シリーズ第5弾から8弾まで、脚本と監督を手がけている。彼ほどこのジャンルに精通している人はいないし、「トップガン マーヴェリック」をみてもわかるように、脚本家としてもピカイチだ。ただし、トム・クルーズが手放すかどうかはわからない。
ヘイマンと2度ほど仕事をしているアルフォンソ・キュアロン監督は面白い選択だが、脚本家としては疑問が残る。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で組んだタランティーノ監督は伝統をないがしろにしてしまいそうだ。

と、ここまで書いて1人適任を思いついた。クリストファー・ノーランの弟ジョナサン・ノーランである。「ダークナイト」や「インターステラー」の共同脚本家であり、「パーソン・オブ・インタレスト」「ウエストワールド」「Fallout」といったドラマを手がけている。おまけに、アマゾンMGMとオーバーオール契約を結んでいたはず。
とたんに楽しみになってきた。
執筆者紹介

小西未来 (こにし・みらい)
1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi

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