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「ANORA アノーラ」「リアル・ペイン」、エルトン・ジョンのドキュメンタリーも! 今年のニューヨーク映画祭で注目した5本を紹介【NY発コラム】

2024年11月10日 09:00

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「ANORA アノーラ」
「ANORA アノーラ」
(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures

ニューヨークで注目されている映画とは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。


毎年、オスカー候補となる優れた作品が選出されるニューヨーク映画祭。第62回は世界各国から32作品が出品され、9月27日~10月14日に開催された。今年はこれまで開催されていたリンカーン・センター以外にも、スタッテン島の「Alamo Drafthouse Cinema」、ブルックリンの「BAM(Brooklyn Academy of Music)」 、ブロンクスの「The Bronx Museum」、 クィーンズの「MOMI(Museum of the Moving Image)」などでも上映が行われた。今回は数々の秀作の中から、筆者が注目した5本を紹介したい。

まずは、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得したショーン・ベイカー監督の新作。iPhoneで撮影した映画「タンジェリン」、ニューヨーク映画祭に出品された「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」、元ポルノスターの男を主人公にした「レッド・ロケット」など、常に刺激的な作品を観客に提供してきたベイカー監督。新作の主人公としたのは、ニューヨークのブルックリンにあるブライトン・ビーチ出身のウズベキスタン系アメリカ人であり、ストリッパー兼セックスワーカー、タフな23歳のアノーラ(ニックネームはアニー)だ。

ロシア語が堪能なアニーは、彼女が働くストリップ・クラブにやってきたアイヴァンと彼の友人を対応することに。お金持ちの息子で、能天気なお調子者のアイヴァンは、常に後先何も考えずに行動する人物だ。意気投合したアニーを、短期滞在している父親が所有するゲート付き邸宅に連れ出し、さらに勢い余って1万5000ドルで“1週間の専属ガールフレンド”となるように要求する。

思いつくままにパーティーをしては金をばら撒き、セックスや買い物もやりたい放題だったアイヴァンと、まるでシンデレラのような暮らしを与えられたアニーは、ラスベガスで挙式する計画を立ち上げる。それを知ったアイヴァンの家族は、その結婚を無効にするため、2人の屈強な男を派遣。彼らの脅しによって、アイヴァンがアニーを放置して失踪してしまう。

アイヴァンを探すために躍起になる2人の男と、家族の実態と現状に戸惑うアニーのやり取りが秀逸だ。感情むき出しのアニーと、やりきれない男たちのストレートな言葉のやり取り――これが、まるで絶叫マシーンに乗ったような没入感で繰り広げられている。2時間20分近い作品だったが、あっという間に鑑賞できた圧巻の一作だ。

ベイカー監督作品の主人公は、ほぼ全員がティーンエイジャーのような精神年齢で、まるで子どものように行動するという点が一貫している。そこが落ち着いた“大人の価値観”を持つ人々には刺激的だろう。反対に、ティーンエイジャーの精神を持つ人々にとっては“共感”が得られるという“リアルな映画”になっていると感じた。

画像2(C)2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

今年のサンダンス映画祭で初披露され、観客の間で好評だったことから、サーチライト・ピクチャーズが1000万ドルで買いつけたという話題作。「ソーシャル・ネットワーク」「グランド・イリュージョン」シリーズのジェシー・アイゼンバーグの監督第2弾でもある。

数週間違いで生まれた従兄弟のデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)とベンジー(キーラン・カルキン)は、幼少期はまるで兄弟のように過ごしていたが、大人になってからのある出来事をきっかけに疎遠になっていた。だがある日、ホロコーストの生存者である最愛の祖母の死後、デヴィッドはベンジーのポーランドへの旅に同行することを決意し、祖母の故郷と第二次世界大戦の大虐殺にまつわる場所を巡礼しながら、2人は関係を修復させていく。

家族を持ち生真面目な暮らしをしてきたデヴィッドと、思ったことを悪気もなくすぐ口にするものの、周り惹きつける魅力を兼ね備えたベンジーのやり取りが秀逸で、自分たちの思い通りにいかない旅路が、いつしか心に刻みつくような特別な旅路になっていく。長編映画では、実際のアウシュヴィッツ収容所で撮影された初めての作品となっている。全体的にはライトでコメディ調な作品だが、アウシュヴィッツ収容所内で重要なシーンが展開し、その後2人が疎遠になったきっかけをデヴィッドが旅の仲間に語るロングショットが涙を誘う演出に繋がっていく。

共演者には、ジェニファー・グレイウィル・シャープカート・エジアイアワンといった俳優たちが脇を固め、良質な脚本によって、見事な作品に仕上がっていた。今年のニューヨーク映画祭で最も感動させられた作品となった。

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「ぶれない男」でカンヌ国際映画祭ある視点部門のグランプリを受賞、「悪は存在せず」でベルリン国際映画祭最高賞の金熊賞に選ばれたイラン注目のモハマド・ラスロフ監督の新作。ラスロフ監督が注目される理由のひとつは、イラン政府の体制に疑問を投げかける撮影を続けていること。強気な姿勢は海外での評価は高いものの、逆にいえば、常に危険と隣り合わせの状況でもある。イラン国内で起きた抗議運動に対する政府の弾圧を批判し、逮捕され、一度は恩赦を受けるものの、1年の懲役と2年間の国外渡航禁止を宣告されている。

そんな状況下で作られたのが「The Seed of the Sacred Fig」だ。今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、ラスロフ監督が特別賞を受賞している(なお、ラスロフ監督は、イラン当局によって、8年の禁錮刑、鞭打ち、財産没収が確定したことで国外に脱出。その後、カンヌでのプレミアに姿を現したことも話題となった)。

主人公は、革命裁判所の裁判官に任じられた亭主関白な男イマン。テヘランやその他地域で起こる抗議運動にとてつもない不安を抱いていたことで、身を守るために拳銃を所持することになる。ところが、ある日、その拳銃が紛失。妻や娘たちを疑うだけでなく、周囲までも信じられなくなっていく。そんななかで社会の規則が崩壊していくことに気づき、家族にまで過酷な対応をし始めていく。

映画の魅力は、なんといっても、イマン役を演じたミサグ・ザレ。家族を威圧する挑発的な演技が圧巻だ。イランのテヘランに住んだことのある筆者にとっても、前半部分ではイランの典型的な家長制度を彷彿させるシークエンスが繰り返されていたが、進歩的な価値観を持つ2人の姉妹やそれまで夫に迎合していた妻が、父親の姿勢に反旗を翻していく姿が興味深く描かれている。上映時間も2時間48分という長尺だが、鑑賞後は重厚な社会派映画としての印象を植え付けられた。

●「Emilia Perez
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真夜中のピアニスト」ではセザール賞8部門を獲得し、「預言者」ではカンヌ国際映画祭のグランプリを収めたジャック・オーディアール監督の新作は、優れた女優陣の演技でカンヌのアンサンブル賞と審査員賞を獲得した話題作。

ストーリーは、メキシコの麻薬カルテルのボスが、危険な過去を捨てて、性別適合手術を受けて女性エミリア・ペレスに生まれ変わるところから始まっていく。やがて“麻薬カルテルのボスは亡くなった”という設定の処理を女性弁護士に頼んだことから、さまざまな展開が巻き起こる犯罪ミュージカル映画となっている。

まず、フランス人監督が全編スペイン語で作品を手掛けているという点も挑戦的で興味深い。なんといっても元麻薬カルテルのボス役のカルラ・ソフィア・ガスコンの圧倒的な存在感がこの映画の魅力だ。弁護士役のゾーイ・サルダーニャと妻役のセレーナ・ゴメスの歌唱力も見逃せない点のひとつだろう。

映画は、サスペンススリラー調のミュージカルでありながら、メロドラマもあれば、ド派手なアクションも含まれていて、ジャンルにこだわらないクロスオーバーな演出を施したオーディアール監督の手腕が見事。ちなみに、オーディアール監督によると、今作は全てスタジオで撮影したそうだ。全くそれを感じさせないプロダクションデザインと、わざとらしくなく、シームレスにミュージカルシーンが繰り広げられていくのも興味深い。

さらに、ゾーイ・サルダナカーラ・ソフィア・ガスコンセレーナ・ゴメスアドリアナ・パズが、これまで彼らが出演した作品のイメージを裏切るような、大胆不敵な演技を披露している。だからこそ、今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞と女優陣がアンサンブル賞を分け合ったのも納得がいく。近年見たミュージカル映画の中でも、最もインパクトを与えてくれた作品となった。

●「Elton John : Never Too Late」
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最後に紹介するのは、長編映画「イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所」、近年は「BELUSHI ベルーシ」「ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている」などの話題ドキュメンタリー映画を手がけてきたR・J・カトラーが、歌手エルトン・ジョンのパートナーのデヴィッド・ファーニッシュと共同監督を務めた作品。ド派手なコスチュームでステージに立っていた若き日のエルトン・ジョンの足跡、引退前にドジャースタジアムでコンサートを開くための準備に取り掛かっている“2つの時間軸”を中心にストーリーが展開していく。

見どころは、エルトン・ジョンのヒット作に欠かせない人物、盟友バーニー・トービンとの関係性、楽曲「タイニー・ダンサー」の制作過程、トービンとの決別からの不遇の時代にアルコールや薬物依存症などによって死にかけた体験まで赤裸々に語っている。さらに才能のある若手歌手に希望の言葉を投げかけたり、あまり知られていないジョン・レノンとの交流もしっかり掘り下げて描かれている。

特に注目したのは、デヴィッド・ファーニッシュとの間にいる2人の子どもとの対応。70代を過ぎてから授かった子どもに、愛情を込めて電話越しに接する姿や、子どもたちの出来事に耳を傾ける姿が微笑ましく鑑賞できる。もちろん、本人が出演しているために、これまで扱われていない未使用のアーカイブ映像も満載。エルトン・ジョンのファンは必見だが、彼のファンではない人でさえも、充分に楽しめる良質なドキュメンタリーだ。

執筆者紹介

細木信宏 (ほそき・のぶひろ)

アメリカで映画を学ぶことを決意し渡米。フィルムスクールを卒業した後、テレビ東京ニューヨーク支社の番組「モーニングサテライト」のアシスタントとして働く。だが映画への想いが諦めきれず、アメリカ国内のプレス枠で現地の人々と共に15年間取材をしながら、日本の映画サイトに記事を寄稿している。またアメリカの友人とともに、英語の映画サイト「Cinema Daily US」を立ち上げた。

Website:https://ameblo.jp/nobuhosoki/


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