【「ゴジラ-1.0」評論】異例ずくめのゴジラは「山崎戦記映画」として高精度な着地を遂げる!
2023年11月3日 19:00

「山崎貴、やりおったわ!!」というのが、終映後に自然と口を衝いて出た称賛だ。正直、レジェンダリーの米「GODZILLA ゴジラ」(2014)そして庵野秀明が主導した「シン・ゴジラ」(2016)を経た後では、同フランチャイズに表現の余白など残っていないのでは―? そんな懸念を一蹴する重量感に満ちた手応えを、この最新作は自分にもたらしたのだ。
前回から約7年ぶりとなる久々の和製実写ゴジラ長編は、戦後の混乱期に物語の足場を置き、日本が防衛において丸裸な状況下、核が生んだ巨大怪獣の本土上陸を迎えるというバッドテイストを描いている。製作時より遥か以前を主舞台とするシリーズ希有な試みであり、また「シン・ゴジラ」がパーソナルな人間ドラマを排し、未曾有の危機にひたすら対処していく群像シミュレーションだったのとは異なり、ゴジラと戦うことで人生の負い目を払拭しようと立ち上がる帰還兵(神木隆之介)の葛藤がドラマの導管となっている。
しかもタイトルキャラクターのプロダクションデザインは「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2007)のアヴァンタイトルやライド・アトラクション「ゴジラ・ザ・ライド」など、監督自身がこれまでに傍系の領域で手がけたプロトタイプを進化させるという、独自の開発手順を踏んでいる。こうしたゴジラの常道を逸れ、またどの過去作とも距離を置く異端性も、冒頭の「やりおったわ!!」にリバーブをかけるのである。
だが対照的に、山崎貴作品としてはため息が出るほどの精度で軌道に沿ったものだ。「三丁目の夕日」トリロジーで見せた昭和期のランドスケープ再現力を筆頭に、「永遠の0」(2013)で厭戦と使命のアンビバレントに苛まれる主人公像や、「アルキメデスの大戦」(2019)で習熟を得たCGIの海域表現など、自身が培ってきた方法論と技術的な達成の基に今作は成り立っている。そういう意味で異例ずくめのゴジラは、「山崎戦記映画」の理想的な着地を遂げたと断じて過言ではない。
なにより監督がキャリアを通じて取り組んできた「家族の物語」として、このゴジラ映画はホットな集大成にあたるだろう。これは広い層に支持を得てきた大衆作家ならではの、誇るべき到達点だ。しかも最初の「ゴジラ」(1954)が特殊効果の世界的なレベルに至ったように、ハリウッドに真っ向から挑んで引けをとらない、VFXのハイクオリティにも息を呑む。次のゴジラ映画に挑む者よ、飛び超えるべきバーはより高く掲げられたと覚悟するがいい。
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