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アニメ表現の可能性とは? 手描きアニメの良さとは? 原恵一監督、片渕須直監督らが語り合う

2023年10月30日 09:00

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濃密なトークが繰り広げられた
濃密なトークが繰り広げられた

第36回東京国際映画祭のアニメーション部門のシンポジウム「アニメーション表現の可能性」が10月29日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで行われた。「かがみの孤城」の原恵一監督、「北極百貨店のコンシェルジュさん」の板津匡覧監督、「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の片渕須直監督、「ロボット・ドリームズ」のパブロ・ベルヘル監督ら本映画祭アニメーション部門で上映された各作品の監督陣が一堂に会し、表現の可能性について話し合った。モデレーターは、東京国際映画祭プログラミング・アドバイザーでアニメ評論家の藤津亮太氏が担当した。

世界では長編アニメーションの制作が盛んになり、扱われる題材や主題も広がりを見せている。そこでアニメーション監督たちは、自作に取り組むにあたり、いかなる発想で題材を選び、どのようにアニメーションとして成立させるよう考えたのか。それぞれの監督のアニメーションへの向き合い方と、その先にある可能性について話し合う場となった。

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2013年に実写映画「はじまりのみち」を監督するなど、実写とアニメ、両方の現場を経験した原監督は「それぞれにいいところ、悪いところはありますけど、その時に思ったのは、実写は引き算なんだということ。画面から不要なもの(映っては困るもの、必要のないものなど)をなくしていく。対してアニメーションは、何も描かれてないところに線を描いて、色を塗って。どんどん足し算をしていく。その違いがあるなと感じましたね」と語る。

その流れで、シンポジウムのトピックは“手描きの良さ”に。アニメ制作では、監督らがつくった絵コンテをもとに、どの位置にキャラクターを配置するか、背景はどうするか、カメラの動きをどうするか、といった画面構成を決める「レイアウト」と呼ばれる行程がある。原監督が「最近の若いアニメーターってレイアウトが描けない人が多くなったんです。なぜかというと、レイアウトを3Dでやることが多くなったから。ちゃんとした背景の原図を描けない人が多くて、当たり前のように『これ3Dでやるんですよね』と言ってくる。でもそれはこっちが決めることなんです」と近年のアニメ制作の現場の変化について指摘すると、「やはり3Dでレイアウトをつくると絵コンテに近いアングルを表現することができて正確なんですよ。ただアニメーターってキャラクターだけを描いていればいいというものでもないから。(原監督の『百日紅 Miss HOKUSAI』でキャラクターデザイン・作画監督を務めた)板津くんはレイアウトも描けるんですよ。リアルなものも、シンプルなものも描ける。それも含めてアニメーターの仕事だと思うんですが、そういうところがどんどん失われている気がします」と吐露する。

板津監督も「アニメーターがレイアウトをつくる意味というのは、カットの印象を決めようということなんです。正確であるとか、パース(遠近法など)が合っているということではなくて、絵コンテで描かれているものを、色を塗ることができる素材にする。まずは感覚からはじまって、(具体的に)素材に落とし込んで、次の人に渡せるものにするというのがアニメーターの大きな仕事なんですけど、まずは絵コンテに込められたその感覚を読み込めないといけない。今、いちばん鍛えなきゃいけないのはそこかな」と語ると、原監督が「やっぱり手描きのレイアウトって微妙に正確じゃないんですよ。でもそれが味になる。まさにアニメーションって、嘘ですからね」と補足した。

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それに対して片渕監督も「でもそんなことができる人って、やたらといるわけではなくて。そういう人は限られるというのは、どうしてもある。3Dでレイアウトをやると、絵としての面白さが抜け落ちてしまうんですが、でもそれ(レイアウトの訓練)をみんなにやってくれと言う時間はたぶんないんですよ。みんな食べていかなきゃいけないし。ただそれをやらないと、将来、仕事で大成はしないよ、ということを若い人が理解することが大事だと思うんです。だからうちのスタジオではタブレットは使わないで、紙に描くことを徹底している。真っ白な紙に鉛筆を走らせる方が、絵を描いているという実感が湧くんじゃないかと思うんです」と訴えると、原監督も「手描きの伝統的な技術が失われていくとAIでいいじゃないかということになるので、そこは守った方がいい。片渕さんが言う通り、劇場映画で大切なシーンを任せられるアニメーターって、本当に少ないんです」と付け加えた。

さらに自身の作品で手描きスタイルを採用したパブロ監督も「日本のアニメ業界は手描きのスタイルが主流という意味で、すごく特別な国だと思う。でも西洋は3Dアニメが主流なので、手描きのクリエーターを集めるのがとても大変だった。自分はマンガ、コミックが好きなので、(手描きにしたのは)その影響はあると思う。キチンとした線があるような、だけどそれは精密ではないというような絵をつくりたかったし、すべてのコマでマンガのアーティストが描いたような絵をつくりかった」とその思いを明かした。

そして板津監督が「自分がアニメーションの肝だと思うのは身体性かなと。アニメーターが絵を描くときは、最初にイメージがあって、印象があって。そこからいろいろなものを見てから、そこから一回、自分の身体に入れてから、こんな感じだよと描く。そしてそれを見た人が、その体験に共鳴するというか、それがアニメーションを見て気持ちいいと思うことだと思う。そしてそれはどんなものでも変わらないかなと。写実的じゃないからこそ、伝わりやすいものがあるんじゃないかなと思っている」と語ると、片渕監督も「身体性って大事。絵で描いているのに”身体”がそこに現れてくるんですよ。アニメーションってどこかパントマイムのようなものだと思っていて。実際には目の前に壁がないのに、まるで壁があるように感じる、というのがあると思います。あれと同じで、実際に身体はないのに、目の前に身体があるように感じて、身体の重さを感じることができる。それがアニメーションの究極の魅力だと思うんですよね」と説いた。

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そんなクリエーターたちの創作の話を聞いていた観客から、「これまで映像表現の可能性について話があったが、声優の表現の可能性については?」という質問が寄せられると、片渕監督がアニメーター出身の板津監督に「(アニメーターとして)声に関してはどうイメージしていました?」と質問。根津監督は、「絵コンテの時はSE(効果音)と一緒。だからセリフというより、完全に音として意識していた。でもアフレコ現場に行くと、それを生ものにしてくれる人がいて。今の日本の声優はレベルが高いなと感じます」と明かす。

片渕監督も「作り方がデジタル化してからは、全部の作品が完成していない状態でアフレコをすることが多くて。口パクくらいなら後で直したりもするんですよね。はみ出すならはみ出してもいいし、それで面白い表現が出てくるなら、あとでこっちで直すからと。昔は絶対に(アニメの口の動きに)合わせますという声優さんのプロの仁義みたいなものがあったんですが、でも僕は合わせなくても構わない。われわれがそこまでしか思いつかなかっただけだし、それで作品が豊かになるからということで、こっちが口パクを直しますと。そう言って自分たちの首をしめているんですけどね」と笑ってみせた。

そのやり取りを聞いていたパブロ・ベルヘル監督が「その意見に追加したいことがあります」と語ると、「ヨーロッパの監督として、日本の声優の演技を見て本当にすばらしいなと思うんです。より奥行きがあって自然だと思う。ヨーロッパやアメリカの場合、全部というわけではないんですが、時にちょっとオーバーかな、ちょっとやりすぎかなと思う事もある。日本のアニメ、例えば宮崎駿監督や、高畑勲監督の作品などを見ると、感情の機微がある。日本の声優は本当にすばらしい」と称賛するひと幕もあった。

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