「怪物」でカンヌ脚本賞を受賞した坂元裕二、凱旋会見で「もうカスカス」宣言?
2023年5月29日 22:35
第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された「怪物」(6月2日全国公開)の是枝裕和監督、脚本を担当し脚本賞を受賞した坂元裕二が5月29日、羽田空港第三旅客ターミナル内のホールで凱旋記者会見を行った。
会見冒頭、一足先に帰国していた坂元は、是枝監督からトロフィーが受け取ると、「重みですか? 実感は正直ありません」と冷静な様子。それでも「この重みは、作品に対する責任感だと感じている。手にも背中にも背負った重み」としみじみ語り、受賞直後に現地に送った「たった一人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」というメッセージについては、「特別な誰かを指しているわけではなく、どこかにいるであろう孤独な誰かが、この映画を受け止めてくると信じていた」と振り返った。
改めて受賞の喜びを問われると、「おめでとうと言われると、初めてうれしくなる。不思議ですが」と明かし、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督から祝福のメッセージが届いたと報告。「タクシーの中で、涙が出ました。うれしかった。人の命を救う映画になっていると言ってくれた」と思いをかみしめていた。
受賞を予測していたかという質問に対しては、「まったく考えていなかった」と即答し、「参加したチームの一員として、好きになれた作品だったので、評価されたら、うれしいなと。それくらいの気持ちだったので、本音ですけど、まったく自分のことは、考えていなかった」とも。30年以上前にも、カンヌ国際映画祭に足を運んだことがあるといい、「カンヌで上映できたこと。私にとって30年来の願いが、ここにあったんだと思った」と話していた。
無事にトロフィーを手渡した是枝監督は、「ちょっとホッとしています」と安どの表情。「自分が褒められると、本当かなと疑問が湧きますけど、こういう形で、関わってくれた役者さんやスタッフが褒められると、本当にうれしい。会場にいて、とても幸せな気持ちになりました」と喜びを語った。
坂元の脚本については、「まるで読んでいる自分が批評されているような、自分にはない語り口。いただいたプロットを半分読んでも、一体何が起こっているのかわからない。ある種の居心地の悪さが持続し、エンターテインメントとしても面白い。チャレンジしがいのある脚本だと思った」と敬意を新たにし、「年齢は少し違うが、同じ時代を生きて、同じ空気を吸って、でも、吐き方が違った二人。今回は息を合わせて作ったという感じです」とコラボレーションへの手応えを示した。
会見では、坂元が脚本執筆に対する姿勢を語る場面もあり、「結構なベテランなので、もうカスカスで(笑)。絞っても何も出ないので、日々学び、助けられながら、書いている。正直、これから何が書けるのかは、見えておりません」と本音を吐露。「日々、締切に追われ、パソコンに向かう日々で、達成感が生まれる仕事じゃない。ただただ真面目に文字を書くしか、何も得られない。インスピレーション? 皆無ですね、何も思いつかないので、日々、頑張って椅子から立たないだけで。万歩計も日々12歩とか(笑)。大晦日、元旦以外はそんなことをしている」と語り、「愚痴ばかりになってしまって……」と恐縮しきりだった。
カンヌでは「お腹を壊して、2日間寝込んでおりました」と悲しい報告も。「でも、優しいスタッフが持ってきてくれたクッキーとウエハースがとてもおいしかったので、カンヌに来て良かったなと。あれよりおいしいお菓子を食べることは、一生ないはず」と笑いを誘った。
一方、是枝監督は、現地のレッドカーペットに登場した際、「菊次郎の夏」(北野武監督)のメインテーマである、久石譲作曲の「Summer」が流れた件について、「きっと(映画祭スタッフが)何かを間違った」と説明。事前に、故坂本龍一さんが担当した音楽を流してもらうよう、依頼をしていたとも明かし「当然、そうだろうと思ったら、久石譲だったんですよ(笑)。もちろん、いい曲なんですけど。僕も『たけし!』って声をかけられた」と驚きのエピソードを披露していた。
また、ビム・ベンダース監督の「PERFECT DAYS」で、主演の役所広司が最優秀男優賞を受賞した瞬間は、「僕と安藤サクラが一番叫んで、歓声をあげていた。あの場所で評価される役所さんが、カッコ良くて、うれしくて」と日本勢の躍進に目を細めていた。
最後に、再タッグの可能性を問われると、是枝監督は「チャンスがあれば、ぜひお願いしたい」と意欲満々。坂元は「是枝監督とお仕事できることは、簡単なことだとは思っていないが、もう1回と言われるのが、一番うれしい。2回目という必然があれば、こんなにうれしいことはない」と願いを語った。
とある郊外。息子を愛するシングルマザー(安藤サクラ)、生徒思いの学校教師(永山瑛太)、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っていたある日、学校で子ども同士(黒川想矢と柊木陽太)のケンカが起きた。ささいな出来事に思えたが、彼らの食い違う主張は次第に大人や社会、メディアを巻き込み、一大事に発展。そしてある嵐の朝、子どもたちが忽然と姿を消してしまう。
これまで、「誰も知らない」(2004)で主演を務めた柳楽優弥が最優秀男優賞、「そして父になる」(13)で審査員賞、「万引き家族」(18)では最高賞であるパルム・ドールに輝いている。今回、是枝監督作品がカンヌ国際映画祭でコンペティション部門に選出されるのは、エキュメニカル審査員賞と最優秀男優賞(ソン・ガンホ)を受賞した韓国映画「ベイビー・ブローカー」から2年連続、7回目となる(カンヌ国際映画祭への出品自体は9回目)。
「東京ラブストーリー」「Mother」「最高の離婚」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「anone」など、数多くの名作ドラマの脚本を手がけ、「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004)では行定勲監督、伊藤ちひろと共同で脚本を執筆。21年には、自身初となる映画オリジナル脚本作「花束みたいな恋をした」を興行収入38.1億円の大ヒットに導くなど、常に時代をリードし続ける。是枝監督は、これまで自らメガホンをとる作品は脚本も兼ねてきたが、今回はファンであることを公言してきた坂元の脚本に全幅の信頼を寄せ、監督に専念した。日本映画の脚本賞受賞は2021年の「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介、大江崇允)以来2年ぶり2度目となる。
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