2023年の映画界はコロナから完全復活? 豪華スター出席&異例の登壇があったシネマコンで実感【ハリウッドコラムvol.330】
2023年5月10日 13:00
ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
今年もシネマコンに行ってきた。シネマコンとは、毎春ラスベガスで行われる劇場関係者のためのコンベンションで、各スタジオによるラインナップ発表会が目玉となっている。俳優や監督たちがつぎつぎ登壇し、劇場主に新作をアピールしていくのだが、2023年の顔ぶれの豪華さは、コロナ以前と比較してもまったくひけをとらなかった。
トム・クルーズやジェームズ・キャメロン監督らはビデオのみの登場だったものの、レオナルド・ディカプリオをはじめ、ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、リアーナ、オプラ・ウィンフリー、クリストファー・ノーラン監督、マーティン・スコセッシ監督までやってきたのだ。
もっとも象徴的だったのは、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのデビッド・ザスラブCEOが舞台に立ったことだ。スタジオのプレゼンテーションといえば、宣伝や配給のトップが司会を務めるのが一般的だ。たまにスタジオのトップが挨拶に登場することはあるが、スタジオの親会社のトップ、いわば大ボスが登壇するなど前代未聞の出来事だ。
スターのみならず、メディア企業のトップまでがシネマコンに参加したのには理由がある。映画スタジオにとって劇場公開が再び重要になっているためだ。
新型コロナウイルスは、興行界に深刻なダメージを与えた。感染予防のために閉鎖や制限を余儀なくされたばかりか、それまでは劇場に独占的に与えられていたコンテンツが配信サービスに流されるようになったためだ。
コロナ以前は、映画スタジオと劇場とのあいだでは、劇場公開開始から二次使用開始までの期間(シアトリカル・ウィンドウ)は90日前後と決められていたが、緊急事態を理由にスタジオはルールを破るようになった。映画ファンは自宅にいながら最新映画を視聴できるようになったため、暗がりのホールで一緒に映画を見る文化も廃れるのではという見方が大勢だった。
だが、そんな悲観論を「トップガン マーヴェリック」が吹き飛ばした。劇場公開にこだわり、上映延期をくり返していた同作は、ようやく2022年に封切られた。完成度の高さもあいまって、「トップガン マーヴェリック」は爆発的なヒットを記録。世界総興収は15億ドル近くにまで到達し、100年以上の歴史を誇るパラマウント・ピクチャーズにとって史上最高のヒット映画となった。
「トップガン マーヴェリック」の最大の功績は、従来の映画配給モデルが健在であると示したことだ。実際、シアトリカル・ウィンドウを設けたほうが、スタジオはずっと儲かるのだ。
2020年、MGMがシリーズ最新作「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」を配信サービスへの販売することを模索した時期がある。製作費2億5000万ドルの同作に対し、6億ドルという値付けをしたが、いずれのサービスも獲得を見送っている(同作は2021年10月に劇場公開され、世界総興収7億7400万ドル。その後、アマゾンが経営難のMGMをまるごと買収している)。
このことから分かるのは、動画配信サービスのコンテンツ予算がいかに潤沢であっても、超大作に見合う金額は提示できないことだ。
さらに、もうひとつ興味深いデータがある。非営利団体シネマ・ファウンデーションの報告書によると、動画配信サービスの人気映画ランキングは以下のようになっている。
いずれも劇場で公開された作品が上位を占めており、動画配信で映画選びをする際、ユーザーは劇場公開された作品を優先して再生することが明らかになっている。劇場公開作品にはそれなりの宣伝費が投下されるから認知度が高いし、玉石混交のコンテンツのなかで品質保証になるからかもしれない。
つまり、収益を最大化するためには、劇場で一定期間独占公開したあとで、二次使用を許可するという従来のパターンが正解となる。劇場と配信はライバルではなかったのだ。
だからこそ、自らオリジナル映画を制作する配信会社も劇場優先にシフトしている。アマゾンはもともとPrime Video向けのオリジナル映画として準備していた「AIR エア」の劇場公開を決定。4月からワーナー・ブラザースを通じて世界配給されている(5月12日からは、Prime Videoにて独占配信がスタート)。
そして、アップルも、リドリー・スコット監督の「ナポレオン」とマーティン・スコセッシ監督の「キラーズ・オブ・フラワー・ムーン」の劇場公開を決定。前者はソニー、後者はパラマウントが劇場配給を行う(いずれもシネマコンでプレゼンが行われている)。
ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのデビッド・ザスラブCEOに話を戻そう。大ボスがわざわざシネマコンにやってきたのは、一言で言えば、旧経営陣が犯した過ちを劇場関係者に謝罪するためだ。
ワーナーといえば、2021年のラインナップ全17作品を、劇場公開と同日に同社の配信サービスHBO Maxで配信する暴挙を行い、劇場関係者のみならずクリエイターを激怒させた(クリストファー・ノーラン監督はこれをきっかけにワーナーを離れている)。
その後、親会社のワーナーメディアをディスカバリーが買収し、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが発足。旧経営陣を一掃したザスラブCEOは、劇場重視の姿勢をアピールするためにラスベガスまでやってきたのだ。「映画を急いでMAX(旧HBO Max)で配信することはない」と宣言すると、まるでロックスターのように喝采を浴びた。
ちなみに、2022年の北米総興収は75億3000万ドル。コロナ前の2019年の114億ドルと比較するとだいぶ差があるように映るが、実は2000スクリーン以上で上映される大作映画の平均興収は9000万ドルと、同レベルに到達している。問題は2000スクリーン以上で公開される作品数で、2019年は112本だったのに対し、2022年は71本だった。だが、2023年は各社が劇場を最重視していることもあって現時点で107本を予定している。
今回のシネマコンレポートは業界話ばかりになってしまったが、はじめて一般公開された「ザ・フラッシュ」が噂通りの傑作であったことや、20分のフッテージが公開された「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」が最高だったことを記しておく。
2023年の映画界はコロナからの完全復活を果たしそうだ。
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