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「映画 イチケイのカラス」は、連ドラ映画化の新たな判断指標となるか?【コラム/細野真宏の試写室日記】

2023年1月14日 09:00

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「映画 イチケイのカラス」
「映画 イチケイのカラス」
(C)浅見理都/講談社 (C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


今週末の1月13日(金)から「映画 イチケイのカラス」が公開されますが、この作品で注目すべきは、フジテレビ映画ということでしょう。

テレビ局が幹事会社となり映画事業において大きく注目されるようになったのは、1998年に公開され興行収入101億円を記録したフジテレビ映画「踊る大捜査線」からだと思います。

この時は、関係者も含め、このようなメガヒットをするとは考えていなかったのです。同作は、フジテレビが幹事会社であるだけでなく、100%を出資して作られているのです。

そして、2003年に公開され、興行収入173.5億円を記録し、今なお「邦画実写1位」の地位を築いている「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」。この続編は現時点でも日本の歴代興行収入ランキングベスト10に入っています(ちなみに、「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」を抜き、現在、日本の歴代興行収入ランキング9位になっている「ONE PIECE FILM RED」もフジテレビ映画です)。

このように“連ドラの映画化の大成功”を最初に導いたフジテレビ映画は、今なお注目に値すると私は考えています。

フジテレビ映画の強さの1つは、連ドラを作り続ける際にセンスが磨かれた有能な監督が社内に多くいることでしょう。

そのため、作品のクオリティーが高い状態を維持できているケースが少なくないのです。

しかし、近年は、この「連ドラの映画化」が、それほど効果を生み出せていない状況が出ています。

画像2(C)2022横幕智裕・モリタイシ/集英社・映画「ラジエーションハウス」製作委員会

2022年4月29日に公開された「劇場版 ラジエーションハウス」は、「HERO」などで有名な鈴木雅之監督作で、出来も良かったと思いますが、興行収入9億円台で、10億円は突破できていないと思われます。

画像3(C)2022「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」製作委員会

また、2022年6月17日に公開された「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」も、「容疑者Xの献身」など「ガリレオ」シリーズで有名な西谷弘監督作でしたが、こちらは5億円台で終った模様です。

この2作品に共通するのは、フジテレビの連ドラを象徴する「月9」作品の映画化でしたが、フジテレビの実績のある監督をしても、新規の「連ドラの映画化のヒット」は難しいという結果になっているのです。

さて、そんな中で映画化された「イチケイのカラス」ですが、こちらも「月9」の連ドラで、平均視聴率が12.6%(関東地区・世帯、以下同)となっています。

実は、この平均視聴率は「月9」では、2017年の「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命 THE THIRD SEASON」の14.8%以降では1番高いもので、今年の秋に映画版が公開予定の「ミステリと言う勿れ」よりも上なのです。

このように考えると、本作の映画化には必然性があり、期待できる面があります。

画像4(C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会

そして、本作で注目すべき点は、「コンフィデンスマンJP」シリーズでフジテレビ映画のヒットメーカーに加わった田中亮監督がメガホンをとった作品だということ。

そもそも、この「コンフィデンスマンJP」は、「月9」の連ドラの際には平均視聴率8.9%となっていて、これが映画化すると興行収入30億円くらいのポテンシャルを持つまでになっています。

視聴率は1つの指標に過ぎない、というのが本当に判断の難しい点となっています。

そのため、「映画向きな作品かどうか」「映画化する際にキチンと“映画としてのクオリティー”に仕上げられるか」といった点も大きな判断材料になっていると思われます。

画像5(C)浅見理都/講談社 (C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会
画像6(C)浅見理都/講談社 (C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

「イチケイのカラス」は、日本の民放の連ドラ史上初の「刑事裁判官」を主人公にしている設定に独自性があります。型破りな「裁判官」は、型破りな「検察官」を描いた木村拓哉主演の「HERO」と似た雰囲気も醸し出しています。

そして「コンフィデンスマンJP」シリーズでわかるように、田中亮監督はユーモラスなシーンを描くのも上手い。そのため、緩急を併せ持つスケール感のある映画のクオリティーに仕上がっています。

私は連ドラは見ずに映画から見始めましたが、割とすんなりと「イチケイ」(「東京地方裁判所第3支部の第1刑事部」の略称)の世界観に入り込むことができました。

さらには、公開に合わせて、「イチケイのカラス 井出伊織、愛の記録」というスピンオフドラマが1月10日~14日に5日間連続でフジテレビの深夜に10分間放送されています。

これを見ると「なるほど、そういう人物関係だったのか」と、より世界観が広がります。

画像7(C)浅見理都/講談社 (C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

公開日翌日の1月14日(土)に土曜プレミアムで放送される「イチケイのカラス スペシャル」では、連ドラと映画の間の期間を描いているので、まずはこの番組を見ることから始めてもいいのかもしれません。

このようにテレビ局で出来る援護射撃はキチンと用意されています。あとは連ドラのファン層を中心にどれだけの関心を集めることができるのかが勝負でしょう。

竹野内豊が演じる型破りな裁判官・入間みちおと、黒木華が演じる裁判官・坂間千鶴との化学反応は面白く、ヒットする素地はあります。

画像8(C)浅見理都/講談社 (C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

ただ、ここ最近の「月9」作品の映画化の結果を見ると、安泰とまでは言えません。興行収入10億円を突破できるかどうかが成功か失敗かの分かれ目になると思います。

もし、この作品も興行収入10億円を突破できないとなると、「連ドラの映画化」という手法に厳しさが増すことになるでしょう。つまり本作が、連ドラ映画化の際の「新たな判断指標」になるのかもしれません。それぐらい考察材料の多い作品と言えます。

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