稲垣吾郎の生涯ベスト映画、最近感銘を受けた作品は?【あの人が見た名作・傑作】
2022年11月3日 11:00
映画を見に行こうと思い立ったとき、動画配信サービスで作品を鑑賞しようとしたとき、何を見れば良いのか分からなかったり、選択肢が多すぎて迷ってしまうことは誰にでもあるはずです。
映画.comで展開する新企画「あの人が見た名作・傑作」は、そんな皆さんの映画選びの一助として、映画業界、ドラマ業界で活躍する著名人がおすすめする名作、傑作をご紹介するものです。第21回は、「窓辺にて」に主演した稲垣吾郎さんです。
稲垣:過去にも同じ作品を挙げていますが、それでもいいですか? 結局、初めて受けた衝撃が一番になってしまうんですよね。僕にとっては、レオス・カラックス監督の「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」「ポンヌフの恋人」という、アレックス3部作と形容される3作品です。
もともと大道芸人だったドニ・ラバンがカラックスに見出され、“アレックス”という役を演じ続ける3部作なのですが、衝撃でした。ああいう映画は観た事がなかったですから。18~19歳くらいの頃、渋谷のパルコ前にあったシネマライズで「ポンヌフの恋人」の公開を記念して上映された「汚れた血」を観たんです。
カラックスはゴダールの再来と言われていたのですが、当時の僕はゴダールすら知らないわけです。それまではハリウッドの王道的な作品ばかり観て来ていたので、その衝撃たるや尚更ですよね。
「汚れた血」の終盤、ドニ・ラバンがジュリー・デルピーとバイクで疾走する光景がずっと残っているんです。理由なんて必要ないですよね。あと、ドニ・ラバン演じるアレックスが、デビッド・ボウイの「モダン・ラヴ」という楽曲をバックに夜の街を走るシーンも印象的。100メートルくらいレールを敷いて、並走しながら撮ったらしいんですが、若者の疾走を表現していて見事でした。
僕にとって、ボウイを知るきっかけになったのも、「汚れた血」。ボウイの楽曲は「ヒーローズ」などは他の映画でも使われていますが、あえて「モダン・ラヴ」をピックアップしたところにグッときたんでしょうね。あれは、もはや“未知との遭遇”と言って良いのではないでしょうか。ビートルズを初めて聞いた人がそうだっていうじゃないですか。良いとか悪いとかじゃなくて、“未知との遭遇”を身を持って体感してしまったという。今でも、時おり観返したりしますからね。
仏パリ郊外のシュレーヌ出身。16歳で高校を中退し、17歳で初短編「La Fille Aimee(原題)」を撮る。18歳で「カイエ・デュ・シネマ」に映画評を執筆。24歳の時「ボーイ・ミーツ・ガール」(83)で長編映画監督デビューを果たすと、カンヌ国際映画祭のヤング大賞を戴冠する。続く「汚れた血」(86)でベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞を受賞。この2作で映像表現の新しさと多彩な映画史の引用でジャン=リュック・ゴダールの再来と目され喝采を浴びる。ドニ・ラバン演じる青年を主人公に据えた上記2作と「ポンヌフの恋人」(91)は主人公の名前を取ってアレックス3部作と呼ばれる。以降の監督作に「ポーラX」(99)、日仏韓合作のオムニバス映画「TOKYO!/メルド」(08)、「アネット」(22)など。
レオス・カラックス監督が手がける、「ボーイ・ミーツ・ガール」から始まり、「ポンヌフの恋人」へと続くアレックス3部作の2作目で、カラックスにとっては長編で初めてのカラー作品。愛のないセックスで感染する死の病「STBO」が蔓延する、近未来のパリが舞台。行方知らずだった父の死を知ったアレックスは、父の借金を背負うことになった男・マルクから、製薬会社が開発したSTBOの特効薬を盗む話すを持ちかけられる。アレックスをドニ・ラバン、マルクの愛人アンナをジュリエット・ビノシュ、アレックスの恋人リーズをジュリー・デルピーが演じている。
稲垣:去年観た「燃ゆる女の肖像」が素晴らしかったですね。18世紀のフランスの田舎が舞台で、望まない結婚を控える貴族の娘エロイーズと肖像を描くよう依頼を受けた画家マリアンヌという、女性同士のラブストーリーなんです。
脚本も良いし、ふたりが初めて心を通わせるシーンでマリアンヌが口ずさむ、ビバルディ協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」が作品をグッと引き立たせるんです。ラストシーンは、長い1カットなんです。そこでは「夏」がオーケストラによって奏でられていて、それが圧巻でした。
その1カットのシーンで、主人公のマリアンヌを演じたノエミ・メルランさんの演技は素晴らしかったですね。僕は、本当に大好きな作品です。
18世紀フランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の鮮烈な恋を描き、第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したラブストーリー。画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、孤島に建つ屋敷を訪れる。エロイーズは結婚を嫌がっているため、マリアンヌは正体を隠して彼女に近づき密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを批判されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちに、激しい恋に落ちていく2人だったが……。「水の中のつぼみ」のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、エロイーズを「午後8時の訪問者」のアデル・エネル、マリアンヌを「不実な女と官能詩人」のノエミ・メルランが演じた。
稲垣:「燃ゆる女の肖像」で1カットのシーンについてお話ししましたが、「窓辺にて」でも1カットのシーンを幾つか撮ったんです。妻(中村ゆり)とのシーンだったのですが、俳優にとって1カットって特別な体験なんです。
今回は自分の心と体が、うまくハマったかな……という実感があります。それに、今泉力哉監督もすごく喜んでくださったというのも嬉しかったですね。
順撮りで進行してのクライマックスだったので、俳優としては一番やりやすい環境を提供してもらった事になります。ずるいですよね(笑)。でも俳優というのは、そういう事に助けられているんですよね。取り敢えずセリフを言えといわれれば出来ますけど、良い芝居をするって何か特別な力が働くものなんです。俳優だけでは出来ません。
今泉監督って現場では寡黙で、端っこに座っていたりするのですが、現場にいる誰もが監督の事を好きなんですよ。穏やかだし、声を荒げる人もいない。撮影は3週間くらいでしたが、不思議な時間を過ごす事が出来ました。
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