ポーラX
劇場公開日 1999年10月
解説
「ポンヌフの恋人」のレオス・カラックスが、「白鯨」で知られるアメリカ人作家ハーマン・メルビルの「ピエール」を映画化。才能に溢れた小説家ピエールは、豊かなノルマンディの自然に囲まれた城に住み、美しい婚約者を持つ青年。しかし、ある日姉と名乗る長い黒髪のジプシー女に惹かれた彼は、すべてを失っていくのだった。出演は、ギョーム・ドパルデュー、カトリーヌ・ドヌーブ、カテリーナ・ゴルベワほか。
1999年製作/135分/フランス・ドイツ・スイス・日本合作
原題:Pola X
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2022年4月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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初演当時の1999年では未見であったものの、2022年のユーロ・スペースでの「WE MEET LEOS CARAX!」で鑑賞した。鑑賞前はあまり乗り気ではなかったものの、これが思いのほかよかった。レオス・カラックスの映画は、彼の思いが強すぎて、筋があってないがごとくの作品が多いが、これはメルヴェルの原作に基づいているので、カラックスの映画としては物語が一番わかりやすい。
よく「アレックス三部作」はカラックスの自叙伝的映画と言われるが、この『ポーラ X』もやはりカラックスの自叙伝的な映画である。カラックスが、メルヴェルの原作を自分にとって大切な作品であって、映画化するつもりはなかったと言っていることはその証左である。その点で、本作の主人公のピエールは、ジュリエット・ビノッシュと別れた後のカラックスの分身である。すなわち『ポーラ X』は、「アレックス三部作」により「恐るべき子供」(l'enfant terrible)と褒めはやされていた自分が、実際には単なる普通の意味での「困ったちゃん」(l'enfant terrible)だったと自覚する映画であったともいえる。その点で、ピエールの転落のさまは、『ポンヌフの恋人』後のカラックスの落込み具合とも重なり合う。
そんなカラックスを救うのが、本作のヒロインのイザベラを演じるカテリーナ・ゴルべワである。この映画の彼女が魅力的ではないとか、なぜピエールが小汚いイザベラに惹かれたのか分からないという声があるが、とんでもない。イザベラが小汚い難民でなければ、カトリーヌ・ドヌーブの支配する『光の中で』の住民であったピエールにとっての la femme fatale にはなりえなかった。あのイザベラの「小汚さ」のなかにこそ、男を地獄(それとも極楽?)に引きずり込むカテリーナの美しさが映えるのである。仮にジュリエット・ビノッシュが(リシューであればともかく)イザベラを演じていたとしたら、それこそ目も当てられない「喜劇」になってしまう。その点で、この映画はカラックスにとっての「運命の女性」であるカテリーナ・ゴルべワがいて初めて成立した映画であり、ポスト「アレックス3部作」の正統なカレックスの自叙伝的映画である。『汚れた血』と『ポンヌフの恋人』が当時の恋人であったジュリエット・ビノッシュのための映画であるのに対し、『ポーラX』は伴侶となるカテリーナ・ゴルべワのための映画である。違いがあるとすれば、そこだけである。
2022年4月11日
Androidアプリから投稿
引き付けられる映像美はさすがカラックスだなぁ~。内容は難解、何度も見て漸くこう言う事なのかなぁ~と思いつつ社会の構造ってコインの裏表に感じられた。深く考えずに生活していたら何不自由なく生きられたのに・・でも本当の自分は何なのか・・核心を追及する事で破滅に向かう。うーん難しい。でもカラックス作品に魅力された事でこれまでの自分の思考が破滅している。結構悪くない。好きな作品です。
2022年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
ユーロスペース渋谷のカラックス監督特集上映にて鑑賞。
寡作のカラックス監督作品群で、長編の未見作は本作を残すだけであった。
本作は、イメージ溢れる映像に圧倒されながら、大音響の音楽にも叩きつけられる感を受けた。
ただ、全体的に暗い場面が極端に暗かったのと、白いスクリーンに白文字スーパーインポーズ(日本語字幕)が読みづらかったのは、ちょっと惜しかった。
そもそも、2時間14分の物語展開を理解しづらいのは、レオス・カラックス監督作品だから仕方ない……と諦めるしかない(笑)
覆面作家として出版した本が売れた小説家ピエール(ギョーム・ドパルデュー)は、綺麗な母親(カトリーヌ・ドヌーヴ)と広い屋敷に暮らしていたが、謎の黒髪女性イザベル(カテリーナ・ゴルベア)が現れる。
イザベルは「姉」…という設定で、ピエールとは「姉 弟」と呼び合うのだが、その後、真っ暗な中で交わっちゃうんだけど、「いいのかなぁ…?」とか「本当は血縁じゃないのかも…?」などと謎の関係。
カトリーヌ・ドヌーヴも浴槽内でヌードを披露しているが、こういう雰囲気は前半ぐらいまで。
中盤以降は、ピエールが満ち足りた生活を捨てて、イザベルと共にさすらいながら、なんか暗闇に落ちて行くような雰囲気が漂いながら、破滅への道を……といった感じ。
特筆すべきは、女が服を脱ごうとしている途中でピエールが服の裏側からキスするシーン、そして見事なイメージ映像の“血の川”を二人が流される場面はレオス・カラックス監督ならではかも知れない。
物語の細部までを理解するのは難しかったが、映像芸術としてのカラックス映画は、やはり凄いものがある!
2022年3月20日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
≪WEMEETLEOSCARAX!≫
落ちたメイクが黒い涙にNortonで疾走するカトリーヌ・ドヌーヴが圧巻で、火花を散らし回転するバイクに衝撃的な末路をイメージするしか無い、唐突にオーケストラみたいに大所帯で奏でられるドラムやギターの音が破壊的で迫力満点、序盤に映し出される空爆の映像と夢であろう血の河で溺れる地獄絵図??
一人の女性に愛されながら違う女性に惹かれ、また同時に愛そうとしているようで実らない関係性、身勝手ながら苦悩して葛藤する男女の三角関係を一貫して描いているように思うレオス・カラックス、強い愛情が歪み切って変態的なものを感じる。
ハーマン・メルヴィル原作の仏語訳から頭文字を取ったPolaに、本作で使われた10番目の草稿を示すローマ数字Xを加えて『ポーラX』ってタイトル、映画の内容と同様に難しさが際立つ。
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