【「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」評論】超ド級シネフィルが語る傑作映画111本 ボーダーレスなセレクト&分析が面白過ぎる
2022年6月12日 17:30
これまで見た映画は1万6000作品以上、「365日毎日欠かさず映画を観ている」という人物が語る傑作――そんな前置きをされてしまったら、耳を傾けたくなるのは当たり前だ。話し手は、スコットランドのドキュメンタリー監督であり、超ド級のシネフィルでもあるマーク・カズンズ。彼が焦点を当てるのは、2010年~21年に公開された111作品。独自の視点と切り口で展開する、カズンズ流の“ガイド”。これがめっぽう面白い。
カズンズ監督が誘う旅は、「ジョーカー」と「アナと雪の女王」の接続からスタート。2作品に解放という共通点を見出し、まずは「映画言語の拡張」というテーマで走り出す。つまりは「慣習にとらわれずに製作された映画について」だ。
例えば、コメディでは、インド映画「PK」における最大のトーン転換、「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」のジャンプカット的構成の妙、そして「デッドプール」のオープニングを賞賛した後、ウガンダ映画「クレイジー・ワールド」へと飛躍。映画に国境線はない――その思いを表明するかのような、ボーダーレスなセレクトに頭が下がるばかりだ。
アクション(例「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」等)、ミュージカル(例「ベイビー・ドライバー」「銃弾の饗宴 ラームとリーラ」等)、ホラー(例「ミッドサマー」「イット・フォローズ」等)と横断し、さらにはペドロ・コスタ、ラブ・ディアスといった作家の作品を挙げつつ“スロー映画”の魅力も説く。カズンズ監督の語りは、鑑賞欲を常に刺激してくれる。例えば、ドキュメンタリーのパート。「これは、ドキュメンタリー映画監督の最高の標語」なんて言われたら、すぐにでも全編を見たくなるでしょう?(ちなみに、アナンド・パトワルダン監督作「理性」における一場面のこと)
第二部では「我々は何を探ってきたのか」という点を追求し、映画の中身だけではなく、技術革新も紹介。「リヴァイアサン」のGoPro、「ハッピーエンド」「タンジェリン」におけるスマートフォンの映像は、映画に一体何をもたらしたのか……。そして、ジャン=リュック・ゴダールによる3D撮影の再発明(「さらば、愛の言葉よ」)、ツァイ・ミンリャン監督作「蘭若寺の住人」が示すVR映画の可能性なんてものも語られるのだ。
果ては技術の進歩と演技、デジタル配信の登場によって変化した映画の供給元と受け手の関係性にも言及。話題は目まぐるしく転換していくのだが、カズンズ監督の“繋ぎ方”が巧いというのも、本作の特徴のひとつ。映画はどういう視点で見ればよいのか? 映画はどういう風に語ればいいのか? そんなことを一度でも感じた人に猛プッシュしたい作品だ。
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