“自分”の範疇を超えていく――木竜麻生&藤原季節に訪れた、カメラの存在を完全に忘れた瞬間
2022年6月9日 18:00
20代の“等身大の恋愛”の危うさと歯がゆさを描いた「わたし達はおとな」は、独特の視点を含んだ“新しい恋愛映画”だ。例えば「花束みたいな恋をした」「ボクたちはみんな大人になれなかった」「ちょっと思い出しただけ」といった作品にグサッときた人は、劇場へと足を運んでほしい。
同作は、「勝手にふるえてろ」「寝ても覚めても」「愛がなんだ」「本気のしるし」を手掛けたメ~テレと、制作会社ダブがタッグを組み、“へたくそだけど私らしく生きる”女性のリアルを紡ぐプロジェクト「(not) HEROINE movies」(ノット・ヒロイン・ムービーズ)の第1弾公開作品。「平成物語」「俺のスカート、どこ行った?」といった話題のテレビドラマの脚本を手掛けるだけでなく、NHKドラマ「きれいのくに」では、第10回市川森一脚本賞を受賞した演出家・脚本家の加藤拓也が監督を務めている。
加藤監督がテーマとして掲げたのは「私達の生活を非日常で俯瞰して体験する」というもの。これを表現するべく「覗いている感」にこだわる形で撮影が行われている。カメラアングル&レンズにもこだわった「覗き見」――これが劇中世界への没入感を強調しているのだ。
観客がこっそりと見ることになるのは、大学でデザインの勉強をしている優実と、演劇サークルの演出を担う直哉の生活。彼らの幸福な日々に触れていく……ということであれば、心は穏やかなままだろう。しかし、そうはいかない。幸せだった「過去」と対比するような、苦しみが続く「現在」が活写されていく。
微細な出来事に端を発した衝突、互いへの無理解、元恋人が絡んだいざこざ、成りゆきのセックス、予期せぬ妊娠。緊張感と切迫感、人間らしさと感情のグラデーションが心に突き刺さる。この「覗き見」は、息の詰まるクライマックスまで徹底されており、きっと「この場から逃げ出してしまいたい!」という思いに駆られるはずだ。
主人公の優実を演じるのは「菊とギロチン」「鈴木家の嘘」で知られる木竜麻生。そして、優しそうに見えて、実はとてつもなく無責任な一面を持つ恋人・直哉を「佐々木・イン・マイマイン」「his」「空白」の藤原季節が体現している。
初共演となった木竜と藤原。加藤監督が「生活の映画」と言い表した本作で、彼らはどのように生きたのか。2人の対話は、やがて自分たちの存在が「何処かに行ってしまった」という忘れ難き瞬間へと結実していく。(取材・文/編集部 岡田寛司)
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