わたし達はおとな
劇場公開日:2022年6月10日
解説
「菊とギロチン」の木竜麻生と「のさりの島」「空白」の藤原季節が初共演した恋愛ドラマ。テレビドラマ「俺のスカート、どこ行った?」の脚本や、自身が主宰する「劇団た組」で注目を集める演出家・劇作家の加藤拓也がオリジナル脚本を基に映画監督デビューを果たし、20代の若者たちの恋愛の危うさと歯がゆさをリアリズムに徹底した演出で描き出す。大学でデザインを学んでいる優実には、知人の演劇サークルのチラシ作成をきっかけに出会った直哉という恋人がいる。ある日、優実は自分が妊娠していることに気づくが、お腹の子の父親が直哉だと確信できずにいた。悩みながらも直哉にその事実を打ち明ける優実。しかし直哉が現実を受け入れようとすればするほど、2人の思いはすれ違ってしまう。
2022年製作/108分/PG12/日本
配給:ラビットハウス
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2022年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
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木竜麻生が演じる女子大生・優実は、親の仕送りで家賃の高そうなメゾネットタイプのマンションに住んでいて、好きになった男性には甲斐甲斐しく食事を作ったりして尽くし、押しに弱い面もある。藤原季節扮する演出家志望の直哉は、卒業後は就職せずに自分の劇団を旗揚げすると夢を語るが、優しい口調のモラルハラスメントで(時にはDV一歩手前の行動でも)女性をコントロールしようとする。
男女の人物設定は又吉直樹原作・行定勲監督の「劇場」に似ている要素もあるが、あちらの純粋すぎるほどの恋愛は容易に感情移入できたのに対し、「わたし達はおとな」の身勝手な男女の恋愛模様は大半の部分において苛立たしく感じられた。本作を見せられることが、ひょっとしたら作り手による洗練されたサディスティックなプレイに付き合わされ、ソフトな精神的拷問を受けているようなものではないかと妄想したりもした。
直哉は同棲相手(といっても彼の場合、女性の部屋に転がり込むのが常套手段らしい)の前の彼女(山崎紘菜)が中絶して寝込んでいる間に、新しい彼女=優実と一泊旅行に出かけるようなクズ度高めの自己中男で、優実と直哉の関係がうまくいかないのは9対1ぐらいの比で直哉が悪いのだが、優実にも若干の問題がある。付き合う気のない男子学生から高価そうなプレゼントを(一応断る姿勢は見せるが)何度も受け取るし、直哉に振られた直後でさびしい時期に合コンで知り合ったばかりの相手を自宅に招き入れてセックスし、その男が避妊しなかったことで新たな問題を抱えることになる。
本作はメ~テレと制作会社ダブのタッグによる「ノットヒロインムービーズ」の第一弾と銘打たれている。「“へたくそだけど私らしく生きる”、等身大の女性のリアルをつむぐ映画シリーズ」だそうだが、比較的若い世代にはこの恋愛がリアルに映るのだろうか。もしかして自分が加齢のせいで共感能力が衰えているのかとも考えてしまうが、ふと、自分の過去の身勝手な恋愛、その忘れてしまいたい記憶が意識下で刺激されるからかもしれないと思ったりもした。
2023年4月25日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
「わたし達はおとな」という題の「達」だけがなぜ漢字なのだろう。
そこにこの監督のこだわりがあるような気がしてならない。
友だちという言葉一つとっても、普通友達とは書かない。逆におとなは、普通「大人」と書くだろう。
「私たちは大人」 普通はそう書くような気がする。
この違和感は、過去と現在がめまぐるしく変わる映像で、さらに加速していく。
最近の映画にありがちな、「1年前」「1年後」といったテロップがない。
男と女の付き合い始めの初々しい笑顔の呼応と、子供を産む産まないの怒号と号泣。
幸せそうなふたりと修羅場のふたりがせわしくオンオフする。
ふたりでひとつとは思えない。大人のようで、実はなんちゃっておとな。
時間差を無視した冷徹な映像がすべて現実。
この現実は、避妊しとけばすべてすんだ話?
この現実は、誰の子かDNA鑑定すれば、父親になってた話?
この現実は、単なる夢見がちな男の逃げとリアルな女の現実直視の話?
この現実は、彼氏以外の男と寝たという女の子同士の下ネタを軽く吹き飛ばす話?
いや、白黒つけようとすると、男の言い分と女の言い分が、ただただ空中に舞うだけのような気がする。
白黒つけようとすると、呪われた感覚に襲われるだけのような気がする。
木竜麻生が妊娠した女子学生役を熱演。
「菊とギロチン」の純な相撲取りが、いつのまにか呪いを演じきる女優になっていた。
2023年1月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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(ネタバレですので鑑賞後に読んで下さい)
この作品は、思っている事と話している言葉とが、ズレてしまっているのを表現できているところに素晴らしさがあると思われました。
この点は、様々に議論されているのに肝心な内面は語られない映画『恋は光』にも通じていると思われました。(テイストはこの映画とは全く違いますが‥)
またこの映画は、現在(少し狭い画角)と過去(少し広い画角)で画面サイズが微妙に違っているのですが、映画の時間の流れと本来の時間の流れが違っているのを説明なしに行っているのは、映画『ちょっと思い出しただけ』にも通じているとも思われました。
人の思っている事と話している言葉とがズレている表現が出来ている作品は、邦画ではほとんどないと思われて、その表現が出来ているだけでもこの監督は才能あるな、と個人的には思われました。
今回は割と私小説的な監督にとって身近な題材だったかもですが、別の作品でも加藤拓也監督の人物描写は見てみたいとは思われました。
今作は題材的にはありがちかもで割と人間関係では狭い話かもですが、人物描写の方は広い視野で出来ている作品というのはなかなかないんじゃないのかなとは思われました。
その意味では、登場人物の本質は大人とは言えない部分はあるかもですが、描き方としては人間を捉えている意味で素晴らしく大人な作品と思われました。
加藤拓也監督の次回作も期待しています。
VODの概説に『大人に成り切れない若者たちの姿を圧倒的なリアリティで描いた恋愛映画』とありましたがリアリティをかんちがいしていると感じました。
この映画の「リアリティ」の根拠は①セリフの日常性と②単焦点風カメラと③Awkward(気まずさ)だと思われます。
①日常的ななにげないセリフにこだわっているせいで会話を聞き取ることができません。字幕がひつような映画でした。
②手持ちで隠し撮りのような視点と、物体がぼけることによって被写を浮かび上がらせる撮影方法が○○のひとつおぼえのように使われています。一眼レフを買ったばかりのような無邪気さでした。
③登場人物全員が気まずいオーラをまとっています。会話も言葉の選び方も考え方も態度も表情も気まずく、ぎこちなく、すれ違います。
英語でいうならAwkward、日本語でいうなら共感性羞恥の空気感がずっとただよいます。気持ち悪い人たちでした。
①②の日常感とドキュメンタリータッチカメラによってリアルへ寄せているのは明白ですが、③Awkwardが神経を逆なでします。その“痒さ”や“痛さ”を楽しんでください──という主旨の映画で、観衆の共感性羞恥耐性が試されます。
よって売り言葉が“圧倒的なリアリティ”なら看過できますが、作り手がリアリティを狙ったならかんちがいだと思った次第です。
観衆には、修羅場に対する耐性がある人と、ない人がいます。
日本のYouTubeでは、喧嘩やぼったくりバー潜入のような一触即発の空気感、底辺生活のぎりぎり感やブラック感、多忙やワンオペの辛苦が情陸風に語られるもの──などが好まれます。それらの“修羅場”動画はよく回ります。わたしは見たいと思いません。が、そういったものが好きな“修羅場耐性”がある人にはこの映画の“痒さ”や“痛さ”が面白いはずです。
ただし現実の人間関係はこの映画ほどAwkwardではありません。この映画にはメンヘラのような人物しか出てきません。わたしは大学へ行ったことがありませんが大学がこんなところだったら引きこもりになったほうがましです。が、それらの違和感・Awkwardをあえて顕示しています。ちなみにこの方法は日本映画ではものすごく普通です。いつもの日本映画でした。
なんども言っていることですが、クソな奴やクソなことを描いて、それがペーソスになりえる──という多数の日本の映画人が信じている方法論自体がかんちがいだと思います。多くの日本映画が映画というより自意識の吐露やAwkwardに着目していますが、そんなものが商業映画になってしまうこと自体がまちがいだと思います。
折りしもNHKの連ドラちむどんどんの破綻したキャラクタライズや胸糞な展開が国民感情を逆なでした──というニュースが放送当時連日あがっていましたが、Awkwardが観衆を楽しませるわけがありません。あたりまえの話です。
この映画のやりちんもやりまんも気になりません。若さとはそういうものだと思います。その非倫理がだめなのではなくて、こんな下らんもの見せられたくない──という話です。だいたい今どき「妊娠した」に固まっちゃう男の描写──昭和期でさえ鼻白むような痴話喧嘩描写をどうどうと商業資本に乗せてくるってどうかしてるだろ。おまえら全員けつあなにしとけよ。
あとひとつ言っておきたいのですが母親の死にストーリーとの有機的つながりがまったくありません。ただ悲愴感を醸成するためだけに母親が死にます。とても短絡的でした。
なおこれらは①によって聞き取ることができた半分ほどのセリフからとらえた感想です。ぜんぜんちがうことを言っている映画だったらすいません。