感想を述べるのが“怖くなる”――瀧内公美×河合優実「由宇子の天秤」を巡る対話
2021年9月17日 12:00
「必見」という言葉を、多用・乱用してしまえば、本来の意味合いが薄まってしまう。だからこそ、その2文字を極力避けながら「見てほしい」と感じた作品を世に広めていく。これが、私の仕事だと思っている。だが、1年に数回、作品から放たれたエネルギーにあてられてしまい、鑑賞直後、放心のまま「必見」という言葉しか紡ぐことができない時が訪れる。さて、何が言いたいのか。「由宇子の天秤」は、「必見」を使うに値にする傑作だということだ。
「かぞくへ」の春本雄二郎監督が長編第2作として世に放った「由宇子の天秤」。企画の発端となったのは、2014年の出来事。春本監督は、あるいじめ自殺事件から派生した「特異な事件」を報じた記事を目にする。そこに記されていたのは、加害少年の父親と同姓同名の“事件と無関係な人物”がネットリンチを受けていたというもの。「事件の当事者ではない一般人が、一体何を“真実”として、自らを絶対的な“正しいポジション”において、正義を振りかざすのか?」という点に強い興味、そしてある種の危うさと幼さを感じとったのだ。
現実から生まれた物語は、「女子高生いじめ自殺事件」を追うドキュメンタリーディレクター・由宇子を生み出した。テレビ局の方針と対立を繰り返しながらも事件の真相に迫る彼女は、学習塾を経営する父の衝撃的事実に直面し、究極の選択を迫られていく。「“正しさ”とは何なのか?」。この答えのない問いかけに、世界が熱狂した。第71回ベルリン国際映画祭(パノラマ部門正式出品)、第25回釜山国際映画祭(ニューカレンツアワード受賞)といった世界各国の映画祭での高評価を携え、「由宇子の天秤」は遂に日本凱旋を果たすことになった。
由宇子を演じたのは、「彼女の人生は間違いじゃない」「火口のふたり」の瀧内公美。本作への参加は、俳優としての新境地……いや、最早「脱皮」と称してもよいのだろう。スペインのラス・パルマス国際映画祭での最優秀女優賞獲得という結果も納得のものだ。
そんな瀧内とともに、注目せざるを得ない人物がいる。キーパーソンとなる女子高生・小畑萌を演じた河合優実だ。「佐々木、イン、マイマイン」(苗村役)、「サマーフィルムにのって」(ビート板役)でも注目を集め、今後は「愛なのに」(監督:城定秀夫、脚本:今泉力哉)にも出演。前述の作品に加え、「由宇子の天秤」での芝居に触れれば「逸材」という言葉が口をついて出るに違いない。
インタビューの時間、横並びに座った瀧内と河合。互いが発する言葉に頷き、時に微笑みかける。和やかな雰囲気を保ったまま、「由宇子の天秤」を巡る対話は進んでいった。(取材・文/編集部 岡田寛司、写真/掘修平)
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