第78回ベネチア映画祭終盤、コンペはポール・シュレイダー監督&オスカー・アイザック主演作やNetflix作品が高評価
2021年9月9日 15:00
9月1日から開催されている第78回ベネチア国際映画祭も終盤に入り、さまざまな話題作が披露された。コンペティションで評価が高いのは、ポール・シュレイダーがオスカー・アイザック主演で、イラク人捕虜の拷問を担当した元アメリカ兵士でいまはギャンブラーの主人公を描いた「The Card Counter」。政治的な主題とエンターテインメントがうまく融合した見どころあふれる作品だ。アイザックは今回のベネチアで、「Duneデューン 砂の惑星」、ジェシカ・チャスティンと共演したHBOドラマシリーズ「Scenes from a marriage」(U-NEXTで配信予定)と、3本も出演作が並ぶ活躍ぶりで、その存在感を示した。
ジェーン・カンピオンとパオロ・ソレンティーノの両Netflix作品も、期待に違わぬ力作である。カンピオンの「The Power of the Dog」は裕福な家の出身でありながら、西部で牧場を経営する兄(ベネディクト・カンバーバッチ)とその弟(ジェシー・プレモンス)の物語。性格の異なる兄弟の確執と、アメリカン・ウェストに対する郷愁が交差する。脇を固めるキルステン・ダンストを含め、鮮烈な役者の魅力が楽しめる。ソレンティーノの「The Hand of God」はマラドーナがナポリに移籍した80年代半ばを背景に、ナポリ育ちのこの監督の私的ノスタルジーが反映されている。エキセントリックな家族に囲まれながら、思春期から大人へと移行する少年の変化を描く。
フランソワ・オゾンの「Summer of 85」に主演したバンジャマン・ボワザンはじめ、グザビエ・ドラン、バンサン・ラコストなど若手俳優が勢ぞろいしたバルザック原作、グザビエ・ジャノリの「Illusion Perdues」と、堕胎が許されなかった60年代前半の女子学生たちの苦悩を描いたオドレイ・ディワンの「L’Evenement」の、2本のフランス映画も高評価だ。
マギー・ギレンホール初監督作「The Lost Daughter」と、クリステン・スチュワートがダイアナ妃に扮したパブロ・ララインの「スペンサー(原題)」も、欧米の批評家には高評価だった。ただしスチュワートの演技や、4文字言葉を発するダイアナ妃像は、やや賛否に分かれた印象だ。またオープニングを飾ったペドロ・アルモドバルの「Madres Paralelas」は、病院で新生児を取り違えられた母親の心情を、ペネロペ・クルスが抑制の効いた演技で表現し、賞賛された。
アウト・オブ・コンペティション部門では、エドガー・ライトがアニヤ・テイラー=ジョイを起用し、60年代のSOHOの闇の世界を描いた「ラストナイト・イン・ソーホー」が話題に。ゴージャスなミュージカルのような幕開けから徐々にホラーへと変化していく演出に引き込まれる。(佐藤久理子)
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ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
ハングルを作り出したことで知られる世宗大王と、彼に仕えた科学者チョン・ヨンシルの身分を超えた熱い絆を描いた韓国の歴史ロマン。「ベルリンファイル」のハン・ソッキュが世宗大王、「悪いやつら」のチェ・ミンシクがチャン・ヨンシルを演じ、2人にとっては「シュリ」以来20年ぶりの共演作となった。朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。第4代王・世宗は、奴婢の身分ながら科学者として才能にあふれたチャン・ヨンシルを武官に任命し、ヨンシルは、豊富な科学知識と高い技術力で水時計や天体観測機器を次々と発明し、庶民の生活に大いに貢献する。また、朝鮮の自立を成し遂げたい世宗は、朝鮮独自の文字であるハングルを作ろうと考えていた。2人は身分の差を超え、特別な絆を結んでいくが、朝鮮の独立を許さない明からの攻撃を恐れた臣下たちは、秘密裏に2人を引き離そうとする。監督は「四月の雪」「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」のホ・ジノ。