濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」第74回カンヌ映画祭コンペで脚本賞 独立賞でも3つの栄冠

2021年7月18日 05:01


日本人、日本映画での受賞は同映画祭史上初
日本人、日本映画での受賞は同映画祭史上初

濱口竜介監督の最新作で、村上春樹の短編を映画化した「ドライブ・マイ・カー」が、第74回カンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞した。脚本賞は、コンペティション部門に出品された全24作のうち最も優れた脚本に贈られる賞で、日本人、日本映画での受賞は同映画祭史上初となり、濱口竜介監督と共同脚本の大江崇允氏へ贈られた。

濱口監督作品としては、「寝ても覚めても」が2018年に同映画祭コンペティション部門に出品されており、今回、2作品連続3年ぶりの出品にして見事、脚本賞受賞の快挙となった。受賞を受け、濱口監督は「最初にお礼を申し上げなくてはならないのは、この物語を我々に与えてくれた原作者の村上春樹さん。そして、役者のみなさんが、この物語を自分の体で素晴らしく表現してくれた」と喜びのスピーチ。大江氏は、脚本のアイデアを生み出すだけでなく、撮影時の前半部では監督補としても参加し、演劇パートのリアリティを濱口監督と共に突き詰めた。また「世界の人々の共感を呼んだのは本当に素晴らしい事」と主演の西島秀俊をはじめ、共演の三浦透子岡田将生霧島れいかも歓喜のコメントを寄せた。

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映画は、濱口監督が、村上氏の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に所収された作品にほれ込み自ら映像化を熱望した作品。西島が演じる舞台俳優であり演出家の家福が主人公。福家の妻が、ある秘密を残し突然この世を去る。2年後、広島の演劇祭で、ある過去を胸に秘める寡黙な専属ドライバー・みさきと出会う。行き場のない喪失感に苛まれる家福は、みさきと過ごすなかで、これまで目を背けていたあることに気付かされていく……という物語。日本公開は8月20日。

さらに、コンペティション部門とは別に、同映画祭の独立賞のひとつである国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)とAFCAE賞、エキュメニカル審査員賞にも選ばれた。

国際映画批評家連盟賞は、FIPRESCI(国際映画批評家連盟)によって選ばれ、1946年から授与されている賞で、日本映画としてはこれまで小栗康平監督「死の棘」(90)、諏訪敦彦監督「M/OTHER」(99)、青山真治監督「EUREKA」(00)、黒沢清監督「回路」(01)、が受賞。日本映画の受賞は、黒沢清監督「回路」以来20年ぶりの快挙。AFCAE賞はフランスの独立興行主たちの連合組織AFCAEにより選ばれ授与される賞、エキュメニカル審査員賞は「人間の内面を豊かに描いた作品」に贈られる。

濱口監督の過去の作品では、5時間17分の長編「ハッピーアワー」(15)が、ロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞。その後、商業映画デビュー作「寝ても覚めても」(18)が、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、短編集「偶然と想像」(21)はベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)、そのほか脚本を手掛けた黒沢清監督作「スパイの妻 劇場版」(20)でもベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞している。

濱口竜介監督授賞式スピーチ全文

ありがとうございます。脚本賞、この物語に対していただいた賞ですが、最初にお礼を申し上げなくてはならないのは、この物語を我々に与えてくれた原作者の村上春樹さんです。共同脚本家の大江崇允さんという脚本家がいらっしゃいます。

大江さんと僕の関係は奇妙なもので、大江さんは僕にひたすら書かせるタイプの脚本家です。大江さんはいつも読みながら「本当に素晴らしい。このままやりなさい」と彼がいつも言ってくれました。この作品は、3時間近くあり壮大な物語。単純にわかりやすさだけを考えたらそうはいかなかった。彼がずっと励まし続けてくれたから、この物語を最後まで映画として書ききることができたと思っています。脚本賞をいただいたが、脚本は映画には映っていない。それを素晴らしいと思っていただけたのは、表現する役者たちが本当に素晴らしかったと。役者たちこそが物語だという風に思っています。

主演の西島秀俊さん、三浦透子さん、岡田将生さん、霧島れいかさんパク・ユリムさん、ジン・デヨンさん、ソニア・ユアンさん、ペリー・ディゾンさん、アン・フィテさん、安部聡子さん、すべての出演者、役者のみなさんが、この物語を自分の身体で素晴らしく表現してくれた。もしよろしければ、海の向こうにいる役者、それを支えてくれたスタッフの皆さんに大きな拍手を送っていただけたらと思います。

▼コメント全文
西島秀俊

濱口監督、大江崇允さん、カンヌ国際映画祭脚本賞受賞、心からお祝い申し上げます。
監督が村上春樹さんの原作を問いとし、過去と真摯に向き合う事で人は絶望から再生することが出来るという答えを示したこの作品が、世界の人々の共感を呼んだのは本当に素晴らしい事だと思います。監督の、人への深い洞察と愛情の力です。これからも沢山の傑作を作って下さい。楽しみにしています。おめでとうございます!

三浦透子

濱口監督、作品に関わった全ての皆さん、本当におめでとうございます。
皆さんと仕事ができたこと、自信を持って届けられる作品が完成できたこと、カンヌ映画祭で上映できたこと、そしてこれから日本の皆さんに観ていただけること。もう十分嬉しいことばかりなのですが、やはり、こうして賞という形で評価をいただけることは、本当にありがたいです。みんなでお祝いできる時を楽しみにしています!

岡田将生

濱口監督、カンヌ国際映画祭脚本賞受賞、本当におめでとうございます。そしてこの作品に関わった皆さん、本当におめでとうございます。
こんな幸せなことがあっていいんでしょうか。監督の作品の現場で過ごさせて頂いた日々は宝物です。この映画が世界の方々に通じた事が何よりも幸せです。早くスタッフキャストとこの気持ちを分かち合いたいです。そして、日本の方々にもこの映画をスクリーンで是非観て頂きたいです。この映画は僕にとって本当に宝物です。

霧島れいか

私はこの作品を家族や親友のように大切に想っています。今回その作品が素晴らしい賞を頂けたこと、今、撮影当時のことを振り返りながら感動と感謝で胸がいっぱいです。濱口監督の作品に対する真っ直ぐな心と深い想いが伝わったカンヌでの上映後の拍手は忘れられません。この感動をキャストと関係者の方々と早く共有したいです!濱口監督おめでとうございます!

■共同脚本・大江崇允

19世紀末に誕生した『映画』という芸術は今後、何百年先にも残ることが確定したと僕は思っています。21世紀の文明が情報をアーカイブ化し、昨日生まれた映画の隣に色のない名作映画が並ぶ、なんてことが当たり前になりました。時間が失われた感覚すら覚えます。スマホの向こう側にあらゆるエンターテイメントが残り、遠い未来までなくなることはないでしょう。

図書館の本棚のように綺麗に整った装いですが、しかし畑の作物のようにそれは同じ顔にも見えます。これが現実だと思います。困難な時代と取るか、新しい世界の種が撒かれたと受け止めるのか、それは自分次第だと思います。「ドライブ・マイ・カー」では、ゴドー(神)を待ちながら、同時にアーストロフの台詞のように、数百年後の未来へと奇跡に似た『祈り』を投げています。

それが今の作家にできる、映画という可能性だと僕は考えています。そして、今映画を作ることは百年後にも残ることを想定しなければならないのではないのか、と身が引き締まる思いです。濱口竜介監督、山本晃久プロデューサー。お二人の素敵な企みの仲間になれたことを光栄に思います。ありがとうございました。

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