【コラム/細野真宏の試写室日記】ポスト「鬼滅の刃」とも謳われる「東京リベンジャーズ」。映画版の出来は?
2021年7月8日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末に300館以上で大規模公開される作品は7月9日(金)公開の「東京リベンジャーズ」の1本だけとなっています。
私がこの「東京リベンジャーズ」という映画の存在を知ったのは、もうだいぶ前のこと。配給のワーナーからリリース用のハガキが届いてからです。
当時は、題名と豪華なキャスト陣を見て、「これは日本のアベンジャーズでも狙っているのか?」というくらいの認識しかありませんでした。
その後、2020年10月に「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が公開され、凄まじい勢いで社会現象化すると、ポスト「鬼滅の刃」といった“次”を探す動きまで活発化していきました。
まずは、「呪術廻戦」という「週刊少年ジャンプ」作品がイチ早く候補に挙がっていました。
その後、しばらくして定額制動画配信系のランキングのトップが「鬼滅の刃」から「呪術廻戦」に変わったりもしていました。
そして、その「呪術廻戦」は、今年の12月24日(金)に「劇場版 呪術廻戦 0」として映画が公開予定となっています。
ところが、1カ月くらい前からは、名前に見覚えのある「東京リベンジャーズ」という作品が、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」を抑えて定額制動画配信系のランキングのトップに上がってきているのです。
そもそも、このポスト「鬼滅の刃」として挙げられる作品の共通点は何なのでしょうか?
それは、一言でいうと、「鬼滅の刃」と同様に、「原作マンガの売り上げがテレビアニメ化を機に跳ね上がっている現象がある」ということでしょう。
例えば「呪術廻戦」は、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の公開日の2020年10月16日に近い2020年10月3日から、2021年3月27日にわたってTBS系列でテレビアニメが放送されました。
そして、原作マンガの発行部数は、2020年10月2日には850万部だったのが、わずか半年近く後の2021年6月4日には5000万部にまで跳ね上がっているのです!
まさに、このような動きは、「鬼滅の刃」の際に見られた現象と同じです。
そして、ここ数週間で定額制動画配信系のランキングトップに上がってきているのが「東京リベンジャーズ」なのです。
2017年に「週刊少年マガジン」で連載が開始され2020年9月時点では約500万部だったのが、2021年4月11日からテレビアニメが放送されると部数が一気に跳ね上がります。放送はまだ途中ですが、6月の段階で約2500万部にもなっていて3000万部突破も見通せる勢いを示しています!
このように、テレビアニメ化を機に、原作マンガの勢いが出る動きが顕著になっているわけです。
そのため、このような現象を引き起こしている作品を、ポスト「鬼滅の刃」といった言葉で語る風潮があるようです。
ただ、これらの作品を見てみると、やはり「鬼滅の刃」とは作風が随分と異なりますし、あくまで「ポテンシャルのある作品」として捉えるのが正しい解釈のようです。
さて、そんな中、今週末公開の「東京リベンジャーズ」は、あくまで実写映画というのが、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」とは大きく異なる点でしょう。
そもそも今回の実写版「東京リベンジャーズ」は、2017年に連載が開始された当初からワーナーの岡田翔太プロデューサーが目を付け映画化に動いていたので、テレビアニメ化とはリンクしていないのです。
ただ、新型コロナウイルスの影響で撮影が2度にわたって中断となり、通算309日目にようやくクランクアップしたという「苦労の末に誕生した作品」でもあるのです。(一般的に邦画の撮影期間は、1カ月から1カ月半が標準的です)
当初は2020年10月9日に公開予定だったのですが、公開延期の間にテレビアニメで人気に火がつき、結果的に実写版「東京リベンジャーズ」には追い風が吹いている状況といえます。
私は、テレビアニメの方をリサーチで見てみましたが、作画のクオリティーはそれほど高いわけではなかったので、「東京リベンジャーズ」という作品の人気は「ストーリーが面白い」ということなのでしょう。
そのため、映画では実写版がアニメ版に劣るわけではなさそうです。
実際に今回の映画とテレビアニメを比べてみましたが、テレビアニメ版を見ながら「ここは切っても大丈夫そうだな」というシーンは映画版でもキチンと切っていたりと、脚本はしっかりまとまっていると感じました。
最大の注目点は、ワーナーの岡田翔太プロデューサーが「この人しかいない!」と白羽の矢を立てた英勉監督でしょうか。
これまで私は英勉監督作品はずっと見続けていますが、良くも悪くも作品の完成度にバラツキが見え、当たり外れが大きい印象を持っています。
詳しくは第57回で解説しているように、作品の完成度と興行収入が一致しないケースも散見されます。
例えば、興行収入24.3億円と英勉監督作品で最もヒットした「ヒロイン失格」は納得の完成度でしたが、興行成績は今ひとつだった「トリガール!」や「前田建設ファンタジー営業部」なども完成度が高かったと思います。
とは言え、本作は、英勉監督初の「ヤンキー映画」なのでリスクもあり、私がプロデューサーなら無難に「クローズZERO」「クローズZERO II」の三池崇史監督に依頼していたであろう案件でした。
そんな不安のようなものを感じながら映画「東京リベンジャーズ」を見てみましたが、結果的には杞憂に終わりました。
確かに「ヤンキー映画」ならではのバイオレンスシーンもありますが、そもそも原作の作風としても「クローズZERO」のように激しすぎるわけでもないので、バランスは良かったと思います。
中でも吉沢亮が演じる佐野万次郎(マイキー)のハイキックの映像は圧巻でした。
「ヤンキー映画」という括りで言うと、昨年に興行収入50億円を突破した「今日から俺は!!劇場版」がありますが、ヤンキー役が板についていて存在感もある磯村勇斗と鈴木伸之が本作でも登場し重要な役柄を演じています。
また、これまでは正直に言うと、ほぼ映画では注目していなかった山田裕貴と眞栄田郷敦ですが、本作で初めて非常に存在感を放っていて、これが「当たり役」というのだと実感しました。
このように、役者陣も、ただ豪華ではないというのも本作の良さだと思います。
本作は、「ヤンキー映画」に加えて「タイムリープ」物だというのも作品の魅力としてあります。
製作委員会はフジテレビ、ワーナー、講談社の3社となっています。
作品の出来としてはフジテレビ映画での比較では、こちらも少し変わった世界観の人気マンガを実写化した「約束のネバーランド」に近いのかもしれません。
「約束のネバーランド」の時は、興行収入15億円は狙えるし、さらに上振れがあるかもしれません、と書き、最終的に興行収入20億円を記録しました。
イメージとしては「約束のネバーランド」に近いものがあると思いますが、原作やテレビアニメの人気が出て女性にもファン層が広がっている最中なので、正直、どこまで跳ねるのか読みにくい面もあります。
個人的には製作委員会のフジテレビ、ワーナー、出版社の3社という枠組みと、主演の北村匠海という組合せを見ると、どうしても2020年10月30日公開の「とんかつDJアゲ太郎」という、公開前に様々なトラブルにより大変な状況になった作品を思い出してしまいます。
本作「東京リベンジャーズ」では、続編を匂わす作りにはなっていないのですが、原作やテレビアニメはまだ続いていますし、今回は中途半端な登場になっているキャラクターも存在します。
そこで、是非とも続編が作られるくらいの大ヒットをし、見事にリベンジしてほしいと願いたい作品です。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。