【「ミナリ」評論】運命に翻弄されながらも異国で懸命に生きる家族の姿が静かに深い感動を呼ぶ
2021年3月21日 08:00
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ポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」が、昨年の第92回アカデミー賞で外国語映画として史上初となる作品賞ほか4部門を獲得した衝撃は未だ記憶に新しいが、韓国文化への熱狂はその後も続いているようだ。2020年1月開催の第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞を受賞した「ミナリ」は、これまでに61の受賞、185のノミネート(2月現在)を受け、世界の映画賞を席巻している。第93回アカデミー賞でも6部門にノミネートされ、波乱を巻き起こすのではないかと注目を集めている。
この作品は1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国出身の移民一家が理不尽な運命に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いた家族の物語だ。農業での成功を目指す父に「バーニング 劇場版」で印象的な演技をみせたスティーブン・ユァン、荒れた新天地に不安を抱く妻に「海にかかる霧」のハン・イェリと演技派俳優が顔を揃えた。さらに韓国で敬愛されているベテラン女優のユン・ヨジョンが毒舌で破天荒な祖母を演じ、その存在感ある演技が絶賛されている。監督・脚本は、「君の名は。」のハリウッド実写版を手掛けることでも注目を集めている韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョン。
しかし本作は韓国映画ではない。「ムーンライト」など話題性と作家性の強い作品で高い評価を得ているスタジオ「A24」と、「それでも夜は明ける」など良質な作品を手掛けてきたブラッド・ピットの製作会社「PLAN B」が、チョン監督の脚本にほれ込み、タッグを組んで作った映画だ。劇中の大半が韓国語であるにもかかわらず、このような強力な体制で、韓国人が主人公の企画が成立したのは、多様性が求められている昨今の社会情勢やそんな企画を探しているハリウッド事情も追い風となったのであろう。ユァンはブラピとともに製作総指揮にも名を連ねている。
アメリカにやってきた移民が主人公の映画はこれまでにも数多く作られているが、このタイミングで韓国出身の移民一家の映画が作られ、高い評価を受けているのは興味深い。だが、いつの時代も様々な困難に翻弄されながらもたくましく生きていこうとする家族の姿には人種を超えた普遍性があり、文化や価値観、宗教観の違いはあっても共感を呼ぶのであろう。アメリカの大地は美しくも厳しく、そこで生きていくには順応していくしかないが、一方でより自身のアイデンティティや同郷のコミュニティのつながり、そして神とは何かを問われることになる。
チョン監督は、葛藤する夫婦、親の子への愛、そして祖母と好奇心旺盛な孫の絆という3世代の家族を見つめ、所々にどこか懐かしく美しいカットを挿入しながら、運命に打ちひしがれても人生は続いていく貴さを描いている。祖母が請け負い、失い、そして子と孫に残すものが、静かに深い感動を呼ぶ。
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