【コラム/細野真宏の試写室日記】「ライアー×ライアー」。王道の恋愛映画で、人を呼べる新たなスター誕生となるか?【新型コロナと制作費の関係】
2021年2月18日 20:30
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
まず、邦画、洋画を問わず、出演者だけで映画をヒットさせるのは基本、不可能な現実があります。
とは言え、ジャニーズが象徴的ですが、コアなファンの多い俳優が出ると、ヒットにつながりやすい事例があるのも事実だと思います。
例えば、いまジャニーズで最も勢いのあるKing & Prince(キング アンド プリンス)の平野紫耀はその筆頭でしょう。
2018年11月9日に公開された「ういらぶ。」ですが、私の試写段階での感覚値は「興行収入の面では、正直キツそう」といった印象でした。
公開規模も215館と、それほど期待されているわけではないのか、と思えました。
ところが、同日公開だった「ボヘミアン・ラプソディ」が週末ランキングで初登場1位なのは当然として、2週目の超大作「ヴェノム」に続き、3位にランクインしたのです!
これには、正直驚きました。まさに平野紫耀という俳優の人気の高さを物語る象徴的な数字でした。
そして、次に主演した2019年9月6日公開の「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」では、私は作品の出来を踏まえ、「興行収入10億円を何とか突破できるくらいかな」というレベルを想定していました。
ところが、こちらは興行収入22.4億円となり、想定の2倍以上の結果をもたらしました。(この作品については、平野紫耀に加え、橋本環奈との化学反応の影響もあったと思います)
このように、まだまだジャニーズは、人を呼べるスター的な俳優を輩出しやすい傾向にあるようです。
そんな中、King & Prince(キング アンド プリンス)に続けとばかりにSixTONES(ストーンズ)とSnow Man(スノーマン)というジャニーズの2グループ・アーティストが2020年1月22日に同時CDデビューして映画業界でも注目を集めています。
Snow Manが主演を務めた映画「滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie」は、舞台的な映画で特殊な形態とはいえ、すでに興行収入20億円規模を記録しているのです。
そして、今週末の2月19日(金)公開の「ライアー×ライアー」では、SixTONES(ストーンズ)の松村北斗が主演します。
この「ライアー×ライアー」が注目されるのは、平野紫耀主演の「ういらぶ。」と同じくアスミック・エースの配給作品となっている点です。
しかも「ライアー×ライアー」の公開規模も249館で「ういらぶ。」とほぼ同じなのです。(「夏への扉」が公開延期となった影響で、当初の221館から急きょ微増しました)
では、松村北斗主演の「ライアー×ライアー」のポテンシャルはどのくらいかというと、2月14日時点での前売りチケット販売数は約5万枚で、コロナ禍であるにもかかわらず「ういらぶ。」とほぼ同水準の売れ行きとなっているのです!
さらに作品の出来ですが、私は「ライアー×ライアー」のほうが良いと思っています。
本作「ライアー×ライアー」は、「翔んで埼玉」や「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」の徳永友一が脚本を担当しています。
そして、その脚本を、“誰もが知っている”「NO MORE 映画泥棒」を作っている耶雲哉治監督が、シーンに合わせて様々な手法で映像化できているのです。
割と無理がありそうな設定でしたが、演技がしっかりしている分、不自然さを感じにくく、かなり自然に流れていきます。
主演の松村北斗は、見た目は無表情系な感じですが、本作では状況に合わせて意外な表情を見せるのも見どころの一つだと思います。
また、森七菜は過度な潔癖症の地味系女子大生という変わった役柄ですが、同様に森七菜も普段は見せない演技をし、私は本作によって良い意味で森七菜のイメージが変わりました。
かつては、どこもかしこも「恋愛映画」状態でしたが、そういう粗製乱造期間を通り抜けて、今では王道系の本作や、エッジの効いた「花束みたいな恋をした」など、厳選され、作られるべくして生まれた映画だけが残っている感があります。
なお、本作は、新型コロナウイルスの影響を考える上でも重要な意味があるのです。
第3波で恋愛映画ブームを作っている「花束みたいな恋をした」は、撮影期間が2020年1月上旬~2月下旬と、撮影では新型コロナウイルスの影響をギリギリ受けていないような状況でした。
本当にギリギリだと思えるのは、主役の麦と絹が電車に、たまたま一緒に乗っているところで、よく見ると少しだけ「マスク率」が高いシーンがあります。(平時だと、電車内でマスクをしている人は1%もいないでしょう)
つまり、少しマスクをする程度での予防措置で対応可能な状況だったわけです。
このように、「花束みたいな恋をした」は撮影の際ではラッキーだったと言えると思います。
その流れでいうと、本作「ライアー×ライアー」は撮影が2020年7月上旬~8月上旬に行われ、まさに制作の際に新型コロナウイルスの影響が直撃しているのです。
その結果、撮影時に「コロナ専任要員」「PCR検査費」「コロナ保険」など、平時では必要のない「コロナ対策費」も制作費に上乗せしなければいけなくなるわけです。
邦画の場合の撮影期間は、1か月~1か月半くらいが平均的ですが、「コロナ対策費」だけで通常600~800万円規模のお金が必要になってしまいます。
さらには、「夜のロケ自粛」によって撮影経費が無駄に増えたり、「ロケ現場の貸し渋り」などが起こっていたりと、制作現場はかなり大変な状況にあるのです。
ただ、これらは、映像上の見た目では一切わからないのが「プロフェッショナルな仕事」として流石だと思います。
このような意味からも、制作の時点から公開に至るまで、ずっと新型コロナウイルスの影響を受けている新作には、何とか「現場の多くの努力が報われるような成績」を残してほしいところです。
さて、本作「ライアー×ライアー」の最初の注目点は、週末の土日で「ういらぶ。」の(土日の)興行収入1.7億円を超えることができるかどうかでしょう。
「ういらぶ。」と比べて不利なのは、「コロナ禍」であるのは言うまでもなく、何といっても「緊急事態宣言」まで出されている厳しい状況にある点です。
「花束みたいな恋をした」のように恋愛映画がヒットしやすくなっている今、「ライアー×ライアー」がどこまでいけるのか。そして平野紫耀に続き、松村北斗も人を呼べる新たなスター誕生となるか大いに注目です。
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。