役所広司、アンバサダーを引き受けた東京国際映画祭に願うこと
2020年10月23日 12:00
日本映画界を代表する俳優・役所広司が、第33回東京国際映画祭(10月31日~11月9日)のアンバサダーに就任した。毎年のように出演作が上映され、2年前の第31回では「映画俳優 役所広司」が特集企画され、好評を博した。役所が今回のオファーを受けた理由とともに、同映画祭への思いを語った。
「恐らくコロナ禍でなければ、僕にお話はなかったと思う。いつもは美しい女優さんたちが花を添えていたポジションですからね」と朗らかに笑う役所。そして、「そういう意味では『どうなんだろう?』と迷いましたが、こんな時だからこそ僕でも力になれることがあれば、という思いでお受けすることにしました」と明かす。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、各国の映画祭がオンラインでの開催なども選択肢に入れ始めているなか、東京国際映画祭は劇場での上映にこだわる。ただ、「インターナショナル・コンペティション」「アジアの未来」「日本映画スプラッシュ」の3部門を統合。「TOKYOプレミア2020」と名を変え、32本(アジア12本、日本10本、その他地域10本)を上映する。
役所「東京国際映画祭の劇場で上映するという決断、これは映画ファンにとっては非常にありがたいことだと思います。それに、映画祭の目的のひとつでもある、映画人たちとの交流というものも、リモートでは互いの連帯感を深めるのはなかなか難しいと思いますしね」。
第31回の特集企画だけでなく、過去をさかのぼってみても、クロージング作品として「清須会議」が上映された第26回では、オープニングのグリーンカーペット(当時)で三谷幸喜監督、「キャプテン・フィリップス」のポール・グリーングラス監督、主演のトム・ハンクスと談笑する姿が確認されている。第10回では「CURE」で主演男優賞、第24回では「キツツキと雨」が審査員特別賞を受賞している。
「僕が参加した作品を、世界中で最も上映してくれた映画祭じゃないでしょうか。僕が参加した監督たちの特集もたくさんやられていますし、そういう意味では国内外に向けて役者として紹介してくれた育ての親みたいな映画祭だと思います。まだ33回目ですから、世界の名だたる映画祭からすれば若いですよ。世界中の映画ファンや映画人たちから尊敬される映画祭に育ってくれるといいなあと思いますね」。
世界中の大小さまざまな映画祭に参加してきた役所だからこそ、世界になくて本映画祭にしかないものが見えているのではないだろうか。
「若くて新しい才能を発掘するという意味で、非常に良い仕事をしていると思います。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは監督デビュー作の『アモーレス・ぺロス』がこの映画祭のコンペティション部門でグランプリと監督賞をもらったこと、未だに感謝していました。以前はヤングシネマ・コンペティションという部門もありましたし、新人の登竜門というんですかね、若い人材を世界に発信しているという面では、非常に誇らしいことじゃないでしょうか。あとは、これからも続けることが重要です。ここで育って世界へ羽ばたいていった映画作家たちが、この映画祭を愛してくれて、いつでも参加してくれるようなものになっていくと、他の素晴らしい映画祭のようになっていくと思います」
ベネチア国際映画祭はコロナ禍にあって開催し、無事にクロージングを迎えた。本映画祭も感染予防ガイドラインを設けながら、試行錯誤の開催となることは間違いない。役所は映画祭の在り方について、持論を語ってくれた。
「今は世界中で、映画館に行かなくても日本映画を見られる環境にはあるじゃないですか。各国の映画記者の皆さんも、すごくよく見てくれている。日本という国はどんな国なのか、どんな人間性を持っているのか、どんな習慣があるのかを学んでいることが大きいと思う。僕らも各国の映画を見ながら、その国のことを知る。映画祭は、そういうものが集まっているところ。映画人たちが交流し、いつか一緒に仕事をしようということになっていくと、互いの国を理解するうえで良い外交手段になっていくように感じる。それが映画祭なんじゃないですかね」
世界中の映画祭を体感してきた役所だからこそ、本映画祭のこれからのあるべき姿について感じることもあるのではないだろうか。
「映画祭によって選ばれる作品にも個性が出てくるものですから、東京国際映画祭ももっと個性を出していかなければならないと思う。これまでの32回で徐々に出来上がりつつあるのかもしれない。商業的に成功する作品は重要ですが、芸術的価値の高い作品は映画祭として真摯に選び、きちんと評価していく姿勢を持っていれば尊敬される映画祭になると思う。そういう目利きと呼ばれるスタッフの存在が重要になってくると思いますし、それが結果としてどんどん素晴らしい映画祭だと言われるようになっていくんだと思います」
個人的に、注目する上映作品を聞いてみると、「深田晃司監督の特集上映ですよ。深田監督の作品をまとめて見られるというのは注目したいですし、今度の新作(『本気のしるし 劇場版』)はすごく長いらしいじゃないですか。そういうのを見られるのも映画祭ならでは。見に行きたいですねえ。オープニング作品(『アンダードッグ』)とクロージング作品(『HOKUSAI』)も見たいですねえ。楽しみな作品が本当に多いですね」と語り、ほほ笑んだ。
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