何故いま「東京ラブストーリー」? プロデューサーが制作背景から意図までを告白
2020年3月8日 12:00
[映画.com ニュース] 1991年に国民的な人気恋愛ドラマとして社会現象にまでなった「東京ラブストーリー」が、29年ぶりに再ドラマ化というニュースが、1月24日に全国を駆け巡った。大袈裟な表現ではなく、オンライン上では「ちゃんとすれ違えるのか?」など賛否両論が巻き起こった。今作の再ドラマ化を制作したプロデューサー、アットムービーの森谷雄氏は「すれ違えますよ!」と胸を張る。何故いま、再び東京ラブストーリー」なのか、話を聞いた。
まず、1991年の日本について振り返ってみると、「バブル景気の終焉と失われた10年の始まり」という表現に尽きる。肌感覚としては、まだまだ景気に関して楽観的に捉える人が大勢を占めていた。伝説的な大型ディスコ「ジュリアナ東京」が流行したのも、この年のことだ。映画界に目を向けると、話題作は邦画では「就職戦線異状なし」「おもひでぽろぽろ」「波の数だけ抱きしめて」など、洋画では「プリティ・ウーマン」「ターミネーター2」「ゴッドファーザー PARTIII」「ダンス・ウィズ・ウルブズ」「バックドラフト」などが挙げられる。
柴門ふみ氏の代表作ともいえる同名原作漫画は、88年から「ビッグコミックスピリッツ」(小学館刊)で連載され、全4巻で完結している。東京を舞台に、永尾完治(カンチ)、赤名リカ、三上健一、関口さとみの恋愛模様を描いているが、原作はキラキラした要素よりもリアルな世相を取り込んだ大人の読み物として認知されている。一方、91年のドラマ版は織田裕二、鈴木保奈美、江口洋介、有森也実らが共演し、「カーンチ!」「セックスしよ!」「わたしの好きは1個しかない」など、数々の名セリフに女性視聴者たちは虜になった。そして、小田和正のオープニング曲「ラブ・ストーリーは突然に」はあまりにも有名だ。
「沙粧妙子-最後の事件-」「天体観測」「東京湾景」など、フジテレビ黄金期のドラマを数多くプロデュースしてきた森谷氏は、「複数のメディアが使っている“リメイク”という言葉に引っかかる」と口火を切る。「リメイクじゃないんですよね。柴門さんの原作を、僕らなりにドラマにしている。とはいえ、最も輝いていたときの連続ドラマの金字塔ですから、それを見ていた人たちからどう見られるのかというのを意識しないわけにはいかないんですよ」。
FOD、Amazon Prime Videoで配信される今作では、“2020年の東京”を舞台に伊藤健太郎がカンチ、石橋静河がリカ、清原翔が三上、石井杏奈がさとみに扮している。いかにして、企画が立ち上がったのだろうか。驚くべきことに、森谷氏が初めて企画書をフジテレビに提出したのは約7~8年前にさかのぼるそうで、当初から地上波連続ドラマ以外での映像化にこだわっていた。
「フジテレビ時代の師匠(91年版のプロデューサー・大多亮氏)に、無謀にも企画書を出しました。これを新しい役者でやるんです!と。そのまま預けっぱなしにしていたら、3年くらい前にフジテレビの方がいらして、『東京ラブストーリーをやる場合は、森谷さんとやるようにと指示が出ました』と。そこからは、苦労の連続でしたよ。僕は映画という形でもいいと思ったし、とにかくテレビ以外でやりたいと企画を出していました。ちょうど配信の波が来たこともあり、一気に動き出しました」
再ドラマ化が発表されてからの大きすぎる反響は、もちろん森谷氏のもとにも届いている。「携帯がない時代のドラマを現代に置き換えて、今だったらLINEで簡単に連絡が取れる、どんな恋愛が起きるの? って皆さんおっしゃるじゃないですか。いやいや、起きますし、すれ違います。ちゃんと今回もドラマのファーストシーンからそれをやっています。『東京ラブストーリー』ってキラキラしたものだと思っている方が多い。原作を読むとめちゃくちゃ普遍性が高くて、愛に対して深く考えています。だから、完全に月9バージョンを忘れよう、もう見ちゃいけないと思ったんです」。
かくして2020年版の「東京ラブストーリー」は既に撮影を終えているわけだが、どのような作品に仕上がったのか聞いてみると、ある作品の名前が出てきた。
「今泉力哉監督の『愛がなんだ』を見た時に、いまラブストーリーを作ると、こういう感じになるんだと感じました。要は、今の若者がする恋愛って、それなりに現実的でそんなにキラキラしたもんじゃないなということ。それは、そもそも柴門さんの原作が持つ深みが表現しています。『私たち、どういう関係なの?』と思いながら、そのまま関係を続けてしまう姿を描いた『愛がなんだ』が若い観客に受け入れられたわけです。こういうものが見たかったよね…というものが出始めている感触はありますね。そこに『東京ラブストーリー』を投げてみたとき、どういう反応があるか興味深いですね」
キャスティングに関しても、相当難航したことは容易に想像できる。なかでも、リカ役は最後まで決まらなかったパーツだという。
「既に何本も主演をやられているような女優さんたちからは、ことごとく断られました。そんな中、高崎映画祭で三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』を見て、一瞬で“この子だ!”と。石橋静河さんの持つ雰囲気は、原作のリカにめちゃめちゃ合っていると思ったんですよ。実際に演じるとなったら、ご本人はこれまでにないくらいプレッシャーを感じていたようで、現場では役のことばかり考えていましたね。本当に素晴らしかった。そもそも、キャスティングに3年かかっているんですよ。29年前を知っている人、生まれちゃっている人は『ちょっと無理です、織田さんとか保奈美さんとか』って尻込みする。それに、まだ『配信なんですか?』という目線もある。カンチ役の伊藤健太郎くんは、何年か前にうちの会社の忘年会に来ていて一緒に飯を食った時、なんか素朴で面白いやつがいるなと思って記憶に残っていたんですよ」
そして、主題歌についても聞かないわけにはいかない。こちらも、容易にはいかないようだ。
「配信ドラマの地位が未だ低いんですかね。レコード会社からも、アーティストからも『え?配信なの?』と言われてしまうようです。レコード会社の考え方も、まだまだ地上波が優位なんですね。個人的な意見ですが、今って誰も知らないアーティストだけど、Youtubeで曲を発表して何百万回転しているような人もたくさんいるわけじゃないですか。そういうアーティストと組んだ方がずっと配信ドラマとの親和性があると思うんですけどね」
その後も、地上波と配信のすみ分け、果たすべき役割と意義、抱えている問題点など話題は尽きることなく取材は進んだが、詳細はまた別の機会に。FODオリジナルドラマ「東京ラブストーリー」は、三木康一郎、永田琴、山本透が演出を務め、北川亜矢子が脚本を担当する。4月29日からFOD、Amazon Prime Videoで配信スタート。