ブラッド・ピット、「アド・アストラ」は自身の「親子関係見直すきっかけ」に
2019年9月20日 15:00

[映画.com ニュース] ブラッド・ピットが宇宙飛行士役で主演を務め、製作にも携わったSF大作「アド・アストラ」が公開中だ。来日したピットが、「今まさに人生の岐路に立っている」という本作の主人公と、自らの人生を重ねて語った。(写真・文/編集部)
映画は、宇宙飛行士のロイ(ピット)が、同じく宇宙飛行士で太陽系の果てで消息を絶った父クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)を捜す孤独な旅に出るさまを描いた。「エヴァの告白」「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」のジェームズ・グレイ監督がメガホンをとり、アカデミー賞作品賞に輝いた「ムーンライト」「それでも夜は明ける」を手掛けたピット率いるプランBがプロデュースしている。

本作は、宇宙を舞台にしたSF大作でありながら、同時に親密な人間関係を見つめたヒューマンドラマでもある。ピットは、「この物語は自分の親との関係、自分が父親として子どもたちにどう映っているのか、子育てへの責任、子どもを育てるということの大切さを見直すきっかけになった」と明かし、宇宙は「孤独を表現するのに非常に効果的な舞台」であり、あくまでも本作の根幹は、父親を探す旅を下敷きにした「ロイが自分自身を探す旅」だと語る。
クリフォードは、家族を置いて仕事に没頭し、初の太陽系外有人探査計画“リマ計画”に着任。16年前に行方不明になり、同時に伝説の宇宙飛行士となった。そんな父を見てきたロイは、常に冷静沈着で感情を出さず、宇宙飛行士としては非常に優秀な人物に成長した。一方、私生活では、すべてを捨てて任務に集中するという理由で、恋人や友人との関係を台無しにしてしまう。そんな、自分に感情があると認めることも拒むような人物が、ひとり父親を捜すなかで少しずつ変わっていく。
「ロイは非常に控えめな男で、今まさに人生の岐路に立っている。自分が傷つかないように作っていた壁が、実は自分を封じ込める牢屋のようになってしまっていて、それが本物の人間関係を築けなかったり、愛する人たちに正直になれなかったりすることの原因だとようやく気が付き始めた。そして、自分にも(素直に感情を持つことが)できるのではと、可能性を感じているんだ」

自身も父親であるピットは、クリフォードについて「自分自身の事を優先的に考えていて、自分の探求したい事に1番フォーカスしている人物。たぶん、子どもを持つべきではなかった人だね」と苦笑。「ロイは、そんな父を理解したいと思っている。父親との関係に苦悩していて、何がいけないのか、何が父親のせいで、何が自分のせいなのかわからないでいるから」と、父に認められたい、愛されていると確信したいと願う気持ちを表現できないロイの心情を分析する。
「子どもの頃は、親との関係がうまくいかないと、全部自分のせいだと感じてしまうところがあるよね。けれど年齢を重ねると、親にも良いところと悪いところがあると気が付いて、実際には何が自分のせいで、何がそうじゃなかったのか分かるようになっていくんだ」
そんな感情の機微を、ピットは静かに、そしてこの上なく繊細に演じた。「撮影に入るとき、ジェームズに『すごく抑えた演技をするから』と伝えたよ。『これはロイの内面で起こっていることを描いた物語だから、できる限り真実味を持たせたい。カメラに(演技が)映るといいんだけれど』とね(笑)。単に起伏がなくてつまらないだけに見えるかもしれないと心配だったから、もしそうなったら教えてくれとお願いしたほどだよ」。その演技のおかげで、観客はピットのささいな表情に注視し、物語の世界に引き込まれ、高ぶる感情を共有することになる。
「演技について知っていることがふたつある。ひとつ目は、役者がリアルな感情で演じていれば、それは観客にともリアルに伝わるということ。ニュース番組で実際に悲劇に見舞われた人たちを見るときのようにね」。劇中のロイのように冷静に、ゆっくりと丁寧に言葉を選びながら話すピットだったが、しばしの沈黙の後に「……あれ、ふたつ目をド忘れしちゃった……!」と衝撃告白。まさかの事態にピットも記者たちも呆然としたが、「すごくいいこと言おうとしてたのに……(笑)。ああ、どうしても思い出したい……!」と悔しがる姿に、スパースターらしからぬ親しみやすさを滲ませた。

そんな人間味あふれる人柄で(?)、自身の製作会社プランBを成功へと導いてきたピット。会社の大躍進は、「計画したわけじゃなくて、みんなと同じように僕も驚いているよ」と率直に明かす。「でもふたつの要因があると思っていて……今度は忘れないようにしなきゃ(笑)! ひとつ目は、物語を語ることへの情熱。ふたつ目は、この約20年間の映画業界の実情だ。配信サービスの台頭で時代が変わったとはいえ、本当に製作費を安くしないといけない作品か、もしくはすごく大きなバジェットのアクション大作しか製作できなかった。その中間層で、作家性は高いが映像化できないという作品を抱えたアーティストの友人がたくさんいて、幸いにも僕は彼らの背中を押せる立場にあった。そして、そんな作品を世に出すことができたんだ。今があるのは、アーティストを助けたいという気持ちや、彼らへの愛、何よりも彼らの素晴らしい物語のおかげだよ」
今回の来日を前に、プロデューサー業で手腕を発揮するピットが、俳優を引退する意向だというインタビュー記事が米ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された。本人に今の心境を尋ねると、「そもそもその記事を読んでいないから、自分が何を言ったのかはっきり覚えていないんだ。ただ、(映像作品の)物語は若者にフォーカスしたものが多いし、そういう意味では(演じられる役がなくなっていくことは)自然なこと。確かに、年とともにほかのことに興味が沸いて、学びたいとも思っている。もっと静かな、表に出ないことをね。でも、俳優をやめるわけじゃないよ(笑)!」と、“引退説”をきっぱりと否定してくれた。
インタビューが終了して写真撮影の段になっても、ピットは答えられなかった“ふたつ目”を「これは1日中気になっちゃうよ(笑)!」と考え続けたものの、結局時間切れに。無念の表情を浮かべながら、感謝の言葉を残して去って行った。筆者は、1日どころか一生気になる……と肩を落として取材部屋をあとにしたが、思い直した。劇場へ行けば、きっとわかる。ピットだけが知る答えを、「アド・アストラ」のなかに見つけられるはずだ。
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