色彩&音響設定や脚本作りの極意 「ビール・ストリート」の“設計図”を監督自ら解説!

2019年2月22日 13:00

「ムーンライト」でオスカーに輝いた バリー・ジェンキンス監督
「ムーンライト」でオスカーに輝いた バリー・ジェンキンス監督

[映画.com ニュース] 「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督が、待望の最新作を撮り上げた。2月25日(日本時間)に授賞式が行われる第91回アカデミー賞で、助演女優賞・脚色賞・作曲賞にノミネートされている「ビール・ストリートの恋人たち」が、本日から日本公開される。公開を前に来日したジェンキンス監督に、作品作りの極意を聞いた。

強いきずなで結ばれた19歳のティッシュ(キキ・レイン)とファニー(ステファン・ジェームス)。幸せな日々を送っていたある日、ファニーが無実の罪で逮捕されてしまう。

ジェンキンス監督らしい抒情的な映像で幕を開ける本作は、「ムーンライト」からより先鋭化された色彩や構図の美しさ、愛の言葉に彩られたメロウかつロマンティックな1本。「無実の罪」というシリアスなテーマも盛り込み、障害や試練に立ち向かう若きカップルの清く、血の通った愛が、見る者に切なく訴えかけてくる。ジェンキンス監督は、「『ムーンライト』もそうなんだけど、僕たちがやろうとしたことは主人公の意識、感じていることを伝えることだった。カメラワークも色彩設定も、すべてはその時に主人公が感じている気持ちを増幅させるために使っているんだ」と独自の作品世界の“設計図”について解説する。

「僕は、映画というものを、『誰かの頭の中』ととらえているんだ。観客には、キャラクターの頭の中に没入して映画を楽しんでほしい」と続け、本作のサウンドデザインについても言及。「今回は、音響効果として普通のセリフ(ダイアログ)は前から聞こえてくるように設計しているのだけど、頭の中の声(モノローグ)というのは全方向から鳴るように作っているんだ。キャラクターの“頭の中”を表現するためにね」。

ムーンライト」でも組んだカラリストを招へいして色彩表現を極限まで追求し、「ボヘミアン・ラプソディ」「ROMA ローマ」でも使用された最新鋭の撮影機材を投入して、その場の“空気”をとじ込めた流麗な映像を生み出すなど、あらゆるツールを用いて作家性のさらなる深化を図ったジェンキンス監督。その原動力は、「文学への憧憬」と「観客との対話」にあった。

元々小説家志望だったというジェンキンス監督は、「僕は、映画というのは文学を追いかけるものだと思っているんだ。本を読んでいると、全てが脳の中で立ち上がっていく。例えば、レストランで食事をしながら本を読んでいても、本当はレストランの匂いがするはずなのに、文字のにおいやその中で表現されているものを感じ始めていく。色々なものを喚起させることが、文学でできることだ」と文学への憧れを隠さない。それゆえに、映画作りにおいて“文学的な”脚本作りを重要視しているという。

「イメージの共有は、脚本からスタートすると思う。撮影監督から俳優まで、『これが監督が作ろうとしているものなんだ』と理解できるものだから。僕の脚本は他とは違っていて、とにかくその人の“感情”についてすごく書き込んでいるんだ。一般的には、脚本というのは出来事を淡々とつづった“冷たい文”が多い。その違いが、イメージの共有しやすさにつながっているのかもしれないね」。ジェンキンス監督の手法は、「ムーンライト」と本作で2本連続でアカデミー賞脚色賞にノミネートされた(「ムーンライト」では同賞を受賞)ことからも、映画界において稀有なものであるといえる。

ジェンキンス監督は、さらに自身の特長として「自分だけに語り掛けているような感覚になる」クローズアップの多用を挙げる。「ムーンライト」、そして本作で挿入される、登場人物を真正面から切り取った映像は、日本のあの巨匠の影響によるものだとか。「直接キャラクターが自分たちに語り掛けるという体験を初めてしたのが、多分小津安二郎監督の『東京物語』なんだ。理由はわからないけれど、グッと引き込まれるものを感じてね。僕もあえて観客と向き合っているような『一対一』の構図を入れることで、そういった感覚を皆さんに呼び起こすことができているのかもしれないね」。

冒頭の「キャラクターの意識」発言も、すべては観客と映画を通した“対話”を行うため。「主演のキキ・レインは、今回が映画初出演なのだけれど、カメラに向かっての演技がすごくやりにくいと言っていたんだ。彼女によれば『演技は、自分が与えて相手から返してもらうものだから』だと。その話を聞いてなるほどなと思ったのだけど、僕の作品においては、見てくださった方が、演者に何かを与えられて何かを返していく。ここでギブアンドテイクが行われる。そのため、観客はただ受動的にその作品を見るのではなく、能動的な立場や、或いは経験になっていくんだ」。いずれは4D用の作品も挑戦したい、と目を輝かせるジェンキンス監督。観客との「一対一の対話」を紡ぎ続ける若き名匠の旅路は、これからも続いていく。

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