山崎貴監督「鎌倉ものがたり」で得た大いなる確信
2017年12月13日 07:00
[映画.com ニュース] 「三丁目の夕日」で知られる西岸良平氏の人気漫画を、堺雅人と高畑充希の初共演で映画化した「DESTINY 鎌倉ものがたり」が、12月9日から全国で封切られ、大ヒットスタートを切った。これまでの作品と同様に脚本、VFXを兼ねた山崎貴監督が得た達成感は、想像以上に大きなものだった。(取材・文・写真/編集部)
映画は、第38回日本漫画家協会賞大賞を受賞し、累計発行部数1000万部を突破した「鎌倉ものがたり」が原作。妖怪、魔物、幽霊など“人ならざる者”がはびこる神奈川・鎌倉で鉄道模型、プラモデル、骨董蒐集など多趣味のミステリー作家・一色正和(堺)と嫁いできた若き妻・亜紀子(高畑)が、数々の怪事件に巻き込まれていくファンタジー大作だ。
11月7日に行われた完成披露試写会時、山崎監督はVFX作業を経て10月31日に完成したことを報告していたが、それ以上に「(VFXを担当した)白組史上最大のピンチを迎えた。今日完成した作品を見せられることが奇跡のよう」と語り、ホッと胸を撫で下ろしていた。長年にわたり山崎監督を取材し続けてきた筆者は、虚を衝かれた思いでこの一部始終を眺めていた。
日本VFX界の第一人者である山崎監督だが、撮影現場では積極的にスタッフの意見に耳を傾け、時にはモニター前から猛ダッシュで役者のもとへ向かい、昼食時にはものの数分で食事を平らげ誰よりも早く現場に戻ろうとするなど、人間味あふれた一面を持つ人物。現場では余裕すら感じさせる佇まいの山崎監督をして、最大のピンチとはどのようなものだったのだろうか。
「簡単に言うと、これまでと同じ時間しかないのに量がすご過ぎて、みんなが死にそうになったんですよ(笑)。顔の合成も結構大変でね、『寄生獣』をやっていたから大丈夫じゃないかと思って始めたんです。確かに技術はあるんですよ。でも、画面に同時に8体出てくるので、単純に8倍かかる。トラッキングという作業にすごい時間を取られちゃって、なかなか画が出来上がってこなかったんです。本当にやばかったですねえ」
それだけに、山崎監督は相当の達成感を得た様子。「達成感? すごくありましたよ。そもそも、終わると思っていなかったんですから。ダビングに入るまでには完成させておきたかったんですけど、その2週間くらい前にチェックをしたら『まだ100カットほど手がついていません』って。100? OKには程遠いトーンでした。久々でしたねえ、あんなテンションになったのは(笑)」
あらゆる時代を描いてきた山崎監督だからこそと言うべきだろうか、驚くべきハイクオリティで昭和40~50年代の雰囲気が漂う鎌倉を作り上げ、正解のない黄泉の国ですら、見る者にどこか郷愁を感じさせるビジュアルに仕上げている。
「絵葉書感というかね。でも、鎌倉高校前の惨劇は大変でしたよ。工事中だし(笑)。阿部秀司プロデューサーから『みんなの心の中にある鎌倉にしろ』みたいなことを言われたんですよ。ドキュメントな鎌倉ではなくて、ちょっとソフィスケートされた、鎌倉に来た人が帰宅してから思い出す鎌倉みたいにしてくれって。これが意外と大変でしたね」
「黄泉の国は、温泉地みたいな印象ですね。湯治に来ている時の古めかしい建物がいいなあって。巨大リゾート地というか、魂の保養地。死後の世界って、死ぬ時に自分が思い描いた世界に行けるような気がして。多くの人がこの映画を見て、死ぬのが怖くなくなるっていう映画を目指したいと思ったんですよ」
また、堺&高畑に負けず劣らずの豪華な面々がスクリーンを彩っている。堤真一、田中泯、國村隼、橋爪功、薬師丸ひろ子、三浦友和といった山崎組の常連から、安藤サクラ、大倉孝二、市川実日子ら初参戦の顔ぶれもそろった。そんな中でも、やはり堺、高畑の2人には驚かされる事が多かったようだ。
「皆さん、やりたかった方々だったから面白かったですよ。堺さん、高畑さんの2人のスキルは高いんだろうなあと思っていたら、投げた球の返し方が本当に素晴らしかった。高畑さんとか、何を投げても受け取ってくれますからねえ。結構、無茶を言ったんですよ。刑事をごまかす時はぐるぐる回ってくれとか、海老ぞって答えてみてくれとか。しかも、ちゃんとかわいい感じにしてくれて、すごいなあと思いましたね」
それにしても、ジャンルを問わない監督だ。直近5年間だけ振り返ってみても「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」「寄生獣」「寄生獣 完結編」「海賊とよばれた男」、そして「DESTINY 鎌倉ものがたり」。
「確かに、ジャンルではくくれないですよね(笑)。自分で言うのもなんだけど、逆にやれないものはないという感じはしますよね。どういうクオリティの作品になるかは分からないですけど、尻込みするようなことはないかもしれない。ただ、あんまり王道みたいなものはやりたくないんですよ。いや、やりたいんだけど、やりたくない自分がいる。変わったことをやって、ちゃんとエンタメに仕立てたいという思いがあります」
次回作は既に決まっているようで、「夏が舞台で、水着の女子48人と男の子1人という念願の企画。これまで、ずっとおっさんばっかりの映画を撮ってきたんですから、たまにはハーレムもので(笑)」。煙に巻かれてしまったが、またガラッと趣を変えた作品を携えて撮影現場へのお誘いの連絡が来ることを静かに待とうと思う。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
ホワイトバード はじまりのワンダー NEW
いじめで退学になった少年。6年後、何をしてる――?【ラスト5分、確実に泣く“珠玉の感動作”】
提供:キノフィルムズ
映画料金が500円になるヤバい裏ワザ NEW
【12月“めちゃ観たい”映画が公開しすぎ問題】全部観たら破産確定→ヤバい安くなる裏ワザ伝授します
提供:KDDI
【推しの子】 The Final Act
【社会現象、進行中】鬼滅の刃、地面師たちに匹敵する“歴史的人気作”…今こそ目撃せよ。
提供:東映
モアナと伝説の海2
【「モアナの音楽が歴代No.1」の“私”が観たら…】最高を更新する“神曲”ぞろいで超刺さった!
提供:ディズニー
失神者続出の超過激ホラー
【どれくらいヤバいか観てみた】「ムリだよ(真顔)」「超楽しい(笑顔)」感想真っ二つだった話
提供:プルーク、エクストリームフィルム
食らってほしい、オススメの衝撃作
“犯罪が起きない町”だったのに…殺人事件が起きた…人間の闇が明らかになる、まさかの展開に驚愕必至
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
文豪・田山花袋が明治40年に発表した代表作で、日本の私小説の出発点とも言われる「蒲団」を原案に描いた人間ドラマ。物語の舞台を明治から現代の令和に、主人公を小説家から脚本家に置き換えて映画化した。 仕事への情熱を失い、妻のまどかとの関係も冷え切っていた脚本家の竹中時雄は、彼の作品のファンで脚本家を目指しているという若い女性・横山芳美に弟子入りを懇願され、彼女と師弟関係を結ぶ。一緒に仕事をするうちに芳美に物書きとしてのセンスを認め、同時に彼女に対して恋愛感情を抱くようになる時雄。芳美とともにいることで自身も納得する文章が書けるようになり、公私ともに充実していくが、芳美の恋人が上京してくるという話を聞き、嫉妬心と焦燥感に駆られる。 監督は「テイクオーバーゾーン」の山嵜晋平、脚本は「戦争と一人の女」「花腐し」などで共同脚本を手がけた中野太。主人公の時雄役を斉藤陽一郎が務め、芳子役は「ベイビーわるきゅーれ」の秋谷百音、まどか役は片岡礼子がそれぞれ演じた。