ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 : 映画評論・批評
2021年11月30日更新
2021年12月17日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
マーク・ラファロと主人公の弁護士の信念がリンクし深い感動を呼ぶ
世界マーケット向けに娯楽超大作を生み出し続けているアメリカ・ハリウッドの映画産業。そんなハリウッド映画のスターであり、実力派俳優のひとりであるマーク・ラファロが主演とプロデューサーを兼任して、全米を震撼させた実話に基づく衝撃の物語を映画化した。巨大企業との闘いを描いた内容のため、場合によってはスターの地位を失う危険性もありそうなもの。しかし、主人公の弁護士と同様に、不屈の精神で本作を製作したラファロの熱い思いが見る者の胸を打ち、映画の持つ力を改めて感じさせてくれる。
もちろんこれまでにも「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」など、巨大企業のスキャンダルを描いたドキュメンタリー映画は数多くある。また、アメリカのタバコ産業の不正を描いた社会派ドラマ「インサイダー」なども製作されて高い評価を受けているが、この「ダーク・ウォーター 巨大企業が恐れた男」もよく映画化することができたなと、久々に感心させられた。
環境汚染問題をめぐって、ひとりの弁護士が十数年にもわたって巨大企業との闘いを繰り広げてきた軌跡が綴られた記事を、環境活動家でもあるラファロが読んで心を動かされ、映画化を決意したという。しかし、その巨大企業とはテフロン加工のフライパンなどで有名な大手化学メーカーのデュポン社である。映画化すれば、主人公のように強大な権力と資金力によって法定闘争に巻き込まれる可能性もあったはずだ。
だが、ラファロの揺るぎない姿勢は、自ら演じた主人公の弁護士ロブとリンクしてくる。しかも、主人公の妻サラ役を演じた「プラダを着た悪魔」「インターステラー」のアン・ハサウェイをはじめ、「ショーシャンクの空に」「ミスティック・リバー」のティム・ロビンス、ビル・プルマン、ビル・キャンプら実力派キャストが集結。さらに「キャロル」「エデンより彼方に」のトッド・ヘインズ監督が、ラファロからのオファーを快諾しメガホンをとっているではないか。
本作のコピーに「真実に光をあてるためにどれだけのものを失う覚悟があるのか―」とある。自らの大切なものを失うかもしれないことを覚悟して、巨大企業の隠ぺいを暴き、弱き者を救おうとすることは並大抵の信念ではないだろう。ラファロは、そんな弁護士ロブをヒーローや聖人として演じるのではなく、プレッシャーやストレスとも闘いながら、真実をひたむきに追及する生身の人間として感動的に演じ切っている。新型コロナウィルスの感染拡大を経験した私たちにとって、水質汚染問題もまた明日自分たちにも起こり得る物語で深い共感を呼び起こすだろう。真実とは、正義とは何か、社会派の法廷ドラマとしても見応え充分である。
(和田隆)