ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー : 映画評論・批評
2018年6月19日更新
2018年6月29日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
若きハン・ソロを描いた冒険劇は、ロン・ハワード映画を華麗に踏襲する
正史の合間を縫い製作されている「スター・ウォーズ」(以下:SW)スピンオフは、同ユニバースを拡張していく意義もさることながら、旧作ファンの希求を満たす企画といえるだろう。前回の「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」(16)は、SWの重要モチーフであるデス・スターの設計図奪取に着目し、ミッション遂行や艦隊戦といった本来のSWの魅力を存分に引き出していた。
今回の「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」は、己れの裁量と価値観だけで広大な銀河を渡り歩くタフガイ、ハン・ソロ(オールデン・エアエンライク)の若き日にアクセスし、「ローグ・ワン」を凌ぐ熱量でSW史の空白を埋めていく。印象的な名の由来や、相棒チューバッカとの出会い、愛機ミレニアム・ファルコンを悪友ランド・カルリジアン(ドナルド・グローバー)から入手した経緯など、伝説的人物の起源が細部にわたって可視化されるのだ。そして単に既知された設定の裏付けに終始するのではなく、混沌とした帝国統治の時代に、生まれるべくして生まれたアウトローの冒険劇を、新キャラクターを交えて大胆に活写していく。
何にも増して感慨深いのは、本作の監督がロン・ハワードという点にあるだろう。「ダ・ヴィンチ・コード」(06)を起点とするラングドン教授シリーズで知られる巨匠は、かつてジョージ・ルーカス監督の青春映画「アメリカン・グラフィティ」(73)に出演し、また彼が製作を指揮した冒険ファンタジー「ウィロー」(88)を手がけるなど、ルーカスのヴィジョンをサポートしてきた戦友だ。そんなハワードがSWの世界にタッチするというのは、それだけで特別な感慨が押し寄せてくる(ワーウィック・デイビスの出演は、そんな両者の友情の証だろう)。
同時に監督は「バニシング in TURBO」(77)や「ラッシュ プライドと友情」(13)など、折に触れ披露してきたカーアクション属性をフルボリュームにして、冒頭から始まるソロの逃走劇や「ケッセルを12パーセクで飛んだ」というSWファンの論争下にあるファルコン号の最速伝説を堪能させてくれる。リドリー・スコット作品でおなじみピエトロ・スカリアの切れ味鋭い編集や、ジョン・パウエルによる正調かつ猛々しいスコアのサポートを得て、まさに職人技の集結ともいうべきSWを見せるのだ。そんな正鵠を得た布陣によって、なぜソロが「スター・ウォーズ」(77)で利己主義から正義へとターンしたのか、映画は合点がいくよう設計されている。
前任の監督であるクリストファー・ミラーとフィル・ロード(「LEGO(R)ムービー」(14))の更迭や、期待したほどには振るわなかった全米興行成績などネガティブな情報が先行したが、作品自体はディズニーという品行方正なブランドの枠内で、よくぞここまで「お尋ね者の賞金首」の破天荒な出自に迫ったものだと感心させられる。
(尾﨑一男)