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崩壊した近未来を生き抜く元警官マックスの活躍を描いたバイオレンス&カーアクション映画『マッドマックス』シリーズの第4作、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)のモノクロ版。
監督/脚本/製作はジョージ・ミラー。
○キャスト
マックス・ロカタンスキー…トム・ハーディ。
フュリオサ大隊長…シャーリーズ・セロン。
ニュークス…ニコラス・ホルト。
トースト・ザ・ノウイング…ゾーイ・クラヴィッツ。
イモーーーターーーンッッ!!
V8!V8!V8!V8!V8!V8!V8!V8!
…はい。一応これはやっておかないとね。儀式みたいなもんだから。
という訳で、公開から約10年、すでにカルト映画と化した名作中の名作『怒りのデス・ロード』をモノクロに編集し直したこのVer.2.0とでも呼ぶべきシロモノを鑑賞。
そもそも、ジョージ・ミラーはアルフレッド・ヒッチコックの「日本人が字幕を読まなくてもわかる映画を創れ」という金言を胸に本作の制作に臨んでいる。セリフを極限まで少なくし、その代わりにアクションそのものを用いて物語を進行させるというこの映画の文法は、『大列車強盗』(1903)や『駅馬車』(1939)といったサイレント時代の西部劇を踏襲したものであると考えて間違いないだろう。
それに加え、マックスのキャラクター造形に『七人の侍』(1954)や『用心棒』(1961)などの黒澤映画のエッセンスが色濃く反映されているのも見逃せない。
事程左様に、ジョージ・ミラーがモノクロ時代の映画を偏愛しており、本作にそれが大きく反映されている事は火を見るより明らかである。
わざわざ『デス・ロード』のモノクロ版を制作する意味があるのか?などと思う人もいるかも知れないが、古典から大きな影響を受けている事を踏まえて考えると、このバージョンの誕生は当然の帰着だと言えるのかも知れない。
オリジナル版とこのモノクロ版。色味が変わっただけで内容は全く同じなのだが、受ける印象にはかなりの違いがある。
中国の古事には、天才画家の描いた龍が生命を宿し天へと昇っていった、というものがあるが、本作を鑑賞した際にまずこれが頭をよぎった。ジョージ・ミラーの描いた水墨画が独りでに動き出し、それがスクリーン上を縦横無尽に動き回っているかのような錯覚を覚えたのだ。
まず、色が抜き取られた事で、オリジナル版にあった荒々しい暴力性は薄まった。アクション自体は全く同じもののはずなのに、本作のそれはグラフィックアートの連なりの様に感じられ、まるで実在感がないのである。
これは一長一短であり、アクション映画としての快楽は残念ながら減退してしまっているものの、ファンタジー性や芸術性は引き上げられている。本作の鑑賞で得られる感情は、一流のアニメーションや流麗な漫画のコマ割りを見た時の感動に近いような気がする。
凄まじいアクションが展開される本作においてそこを犠牲にしてまでアーティにする必要があるのか?と言われれば自分もうーん…なんて考え込んでしまうのだが、まるで異なるタイプの映画に化けているのは事実であり、それだけでこのモノクロ版が作られた意味はあると言って良いだろう。
もう一つ言いたいのは、オリジナル版とモノクロ版では着眼点に違いが生まれるという事である。
どこまで行ってもサンドベージュの砂漠が続くのだから、オリジナル版では必然的に観客の目はキャラクターの方へ向く。ウォー・ボーイズの白い肌やコーマドーフ・ウォーリアーが吹き上げる真っ赤な炎のインパクトは強烈だし、5人の美女の輝きは無味乾燥な砂漠だからこそ余計に際立って見える。
しかし、モノクロ版になるとキャラクターの印象は途端に弱くなる。砂漠も肌の色も衣装も炎も同じ色な訳だから、どれだけインパクトのある見た目をしていても背景と同化してしまい、それほどの驚きは得られない。
だが、モノクロ版ではキャラクターの代わりに、砂漠の砂や夜の闇など、オリジナル版では背景を務めていたものが強く主張をし始めるのだから面白い。
風に踊る砂の一粒一粒は、水木しげるの描く点描画のよう。モノクロで見ると、その砂漠の不定形さが一層不思議なものとして観客の目に飛び込んでくる。まるで砂漠が一つの大きな生き物のようなのだ。
闇にしてもそうで、画面を覆う真っ黒い影が意志を持った存在のようにキャラクターを取り囲む。その印象は色に満ちたオリジナル版とは全く違う。より不気味で不安なものとして、崩壊した世界にトグロを巻いているのである。
必然、闇が深まればそれを照らす光も強くなる。前半の山場、砂嵐に飲み込まれ周囲が真っ暗な闇に覆われる中、地面に落ちた発煙筒の光のみが画面を照らすシーンの美しさにはついつい息を呑んでしまった。この砂嵐の場面はオリジナル版に比べると何が起きているのか分かりづらいものの、光と闇のコントラストがとにかくカッコ良い。このモノクロ版のハイライトは間違いなくここだろう。
ミラー監督は「これが最も良いバージョンである」と断言している。本当は劇場公開もこのモノクロ版を上映したかったのかも。
個人的にはこの意見に同意しかねるものの、良い悪いという範囲を超えた新しさをこのバージョンは内包している。
よりディープに、よりファンタジックに、そしてよりサンディに深化した『デス・ロード』。完璧だと思われた作品に更に一押し、これぞ正に”画竜点睛”である!V8!V8!!