グレートウォール : 映画評論・批評
2017年4月11日更新
2017年4月14日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー
これぞイーモウ!自由奔放なイマジネーションが解放された異形のスペクタクル巨編
世界遺産“万里の長城”を守る精鋭軍と凶暴モンスター軍団が激突! こんなホラ話を壮大なスケールで映像化したのが本作。「GODZILLA ゴジラ」「キングコング 髑髏島の巨神」のレジェンダリーピクチャーズ作品であり、脚本に関わったのはボーン・シリーズのトニー・ギルロイや「ラスト・サムライ」のエドワード・ズウィックらそうそうたる面子。そして中国の巨匠チャン・イーモウのハリウッド進出作でもある。
随分昔の話だが、来日したイーモウにハリウッド進出について質問したことがある。「先輩格のチェン・カイコーが『キリング・ミー・ソフトリー』を撮ったように、あなたにもハリウッドからオファーが来るでしょう?」。イーモウは静かに笑って言った。「僕はまったく英語がダメなんです。英語が上手いカイコーの作品があんな結果に終わってしまったのに、僕がハリウッドに行っても大惨事にしかなりませんよ」
しかし10数年が経ち、さらに巨匠度を増したイーモウがついにがっぷりハリウッドと組んだのだ。その結果が“惨事”かどうかは観た人が評価することだが、先のアカデミー賞授賞式でマット・デイモンが本作に主演したことを散々いじられるなど、ハリウッドでは珍品扱いされてしまっている模様。しかし昨年の「キング・オブ・エジプト」のような愛すべき底抜け超大作を望む人にとって「グレートウォール」は素晴らしいご馳走なのである。
なにが素晴らしいって、長城を守る精鋭部隊のビジュアルが素晴らしい。専門ごとに赤青黄とカラフルに色分けされた兵士たちのデザインはまるで黒澤明の「乱」ーーというより戦隊モノのノリ。しかも美女だけで構成されたバンジージャンプ部隊がいて、弓の名手のマット・デイモンがバンジーの手ほどきを受けるシーンまである。こんなヘンテコな映画、滅多に観られないでしょう!
決してイーモウがふざけてるわけではない。イーモウは文芸作のイメージが強いが、「紅いコーリャン」でも「HERO」でも「女と銃と荒野の麺屋」でもブッ飛んだ面白ビジュアルに心血を注いできた。今回はストーリー面の主導権はレジェンダリーサイドにあったはずで、だからこそイーモウは自由奔放なイマジネーションを好き放題に解き放っているのだろう。
VFXが多用されるシーンになるとイーモウらしさが減じるきらいはあるが、「これぞイーモウ!」な壮麗かつ愉快なアクションを満載した怪作・快作として確かな爪痕を残す、異形のスペクタクル巨編なのである。
(村山章)