野のなななのか
劇場公開日 2014年5月17日
解説
名匠・大林宣彦監督が北海道芦別市を舞台に描いた人間ドラマで、2011年の監督作「この空の花 長岡花火物語」の姉妹編ともいえる作品。ひとりの老人の死によって郷里へ集まった家族の姿と、その老人の人生に大きな影響を及ぼした戦争体験を通し、3・11以降の日本再生のあり方を問う。芦別市で古物商を営む元病院長・鈴木光男が92歳でこの世を去り、離れ離れに暮らしていた鈴木家の人々が葬式のため帰郷する。そこへ現われた謎の女・清水信子により、次第に光男の過去が明らかになっていく。1945年の太平洋戦争終結直前、光男は樺太でソ連軍の侵攻を体験しており……。タイトルの「なななのか」は、四十九日の意。
2014年製作/171分/G/日本
配給:PSC、TMエンタテインメント
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2022年7月23日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
大岡山駅のひらがな表記は、おおおかやま、なんかそんなつまらない事を思い出すようなタイトルです
漢字で書くと「野の 七 七日」
やっぱりひらがな表記がいいですね
花咲く野原での四十九日はラストシーンにあります
舞台は北海道芦別市
富良野と旭川と滝川の真ん中辺り
札幌から富良野行きの特急に乗って2時間半
岩見沢、滝川、芦別の三駅しか止まりません
そぞろ過疎化でJR北海道も廃線だらけですがここは根室本線の駅なのでまず無くなることはないでしょう
芦別市のことは、劇中で美しい映像とと共に紹介されます
映画は3時間弱
正直、中盤まで冗長です
くどいほどの説明的な映像と台詞が延々と続きます
普通の映画なら、バサバサ編集して刈り込めます
上映時間も1時間は短くできたでしょう
そんなこと大林宣彦監督なら百も承知です
理由はふたつ
ひとつは資金の8割方が芦別市民の寄付による市民自主制作映画のようなもので、芦別市民有志主催の20年も続いた年一回の映画イベントで、大林宣彦が「校長」をつとめていた「芦別映画学校」の集大成として製作されたものだからでしょう
20年もの長い活動の集合記念写真のようなものです
そしてふたつ目は、その冗長さが芦別に生まれて育ってきた3世代の町の人々の歴史の重さと深さを観客に理解させる為です
それがあるから、後半に向けて物語が収束していく感動があるのです
お話しは2014年の現在と1945年の過去が複線で進行します
序盤で品川徹の演じる主人公が死にます
題名の七七日は、彼の四十九日のことです
葬儀やその法事に集まった親族の面々、死んだ本人の記憶で過去が語られます
1945年8月15日終戦
私達の常識はそうなっています
しかしロシアでは対日戦勝記念日は9月3日だそうです
なぜかというと、9月2日に日本が連合国に降伏文書に調印して、その翌日にソ連が戦勝記念式典を開いたからだそうです
日本とソ連とは日ソ中立条約を結んでいていたのを終戦間際の8月9日に一方的にそれを破棄して日本に宣戦布告して、満州と千島列島、そして樺太に侵攻を始めた戦争です
樺太では8月11日に侵攻がはじました
千島列島は幕末に、択捉島以南が日本領であるとロシアとの間で一旦確定しました
20年ほど後の明治になって全島日本領になります
というのも樺太は日露雑居地ということで宙ぶらりんだったものを樺太はロシア領として、代わりに千島列島は全島を日本領とする樺太千島交換条約が結ばれたからです
そこからさらに30年経って日露戦争の結果、樺太の南半分がロシアから割譲され日本領となります
1945年は、それから丁度40年後のことです
樺太の南半分には日本人の町が幾つかでき、軽便鉄道も敷かれたそうです
そこで生まれて育ってそこが故郷である人もいる訳です
8月11日、樺太の真ん中にある国境をソ連軍は南下して侵攻を始めます
もちろん駐留していた日本軍は防衛行動をします
8月15日になってもソ連軍の侵攻は止まらず、現地の日本軍には自衛戦闘が命じられ戦闘は続ました
25日になってほぼ樺太の日本領全てがソ連軍が占領して戦いは終結します
劇中で、武装解除の連絡が届いてないとかの会話がありますが事実はこういう時系列です
そして8月15日を過ぎた18日であるにも係わらず、千島列島の最北端の占守島(しゅむしゅとう)にも侵攻が始まっています
つまり日本の降伏など眼中にない単なる侵略であったということです
まして千島列島は、平和的な外交条約で正式に日本領として双方で納得づくで確定していた領土であるのですから
樺太には当時40万もの日本人が暮らしていたそうです
ソ連軍の侵攻が始まって緊急疎開が始まり10万人の人々が島外に避難できたそうですが、30万人もの日本人が取り残された訳です
今ではロシアの国民です
仕事も財産も日本語さえ奪われてしまったのです
島外への避難の最中でも避難船が攻撃を受けて三隻が撃沈されて避難民1700人が死にました
陸上でも無差別攻撃が行われて2000人もの民間人が死んだそうです
この時何が起こったのか、詳しく知りたい方は、1974年の映画「樺太1945年夏 氷雪の門」をご覧下さい
2018年の吉永小百合主演の映画「北の桜守」もあります
本作の劇中で、芦別はロシア領か?日本領か?という会話があります
あれは本当ならソ連軍は北海道にも侵攻して、留萌と釧路を直線で結んだスターリンラインというもので、北海道を東西に分断占領する作戦構想であったことを指しています
芦別はその直線上にある町だったのです
そうならなかったのは、アメリカがそれに反対して樺太と千島列島だけを黙認したからです
そして樺太や占守島の日本軍が激しく抵抗して自衛戦闘を行い、ソ連軍に大きな損害を強いたこともあるようです
2022年の夏
1945年から77年後
ウクライナで同じことが起こっています
北海道の人々はロシアへの制裁や非難、ましてやウクライナへの防衛装備の提供について、少し内地の私達とは違ったトーンでいるように感じます
ロシアの脅威は遠い海の向こうの事ではないからでしょう
晴れた日には、劇中の台詞のように海峡の向こう側に島影が見える程近いのです
その向こう側にロシア軍は身近にいて、つい最近も威嚇をしてくるのですから
本作で描かれたようなおぞましい戦争の悲惨は何百、もしかしたら何千もウクライナで起こっているのでしょう
戦争は嫌です
絶対に起こしてはなりません
それが本作のメッセージです
こんな悲劇はあってはならないのです
それを情感をたっぷり込めて私逹の心の奥底に届けてくれます
なななのか、四十九日
故人は初七日を迎えてから7日ごとに、生前に犯した罪を閻魔様によって裁かれ、四十九日をもって来世の行き先が決定されるそうです
親族や故人と縁の深かった人々が、故人の成仏と極楽浄土へ行けることを祈る法要が四十九日です
そして、それまで喪に服していた遺族が日常生活にもどる日ということでもあります
ラストシーンの花の咲く野原はその法要が終わり墓に納骨して、全部終わったと登場人物逹が伸び伸びとくつろいでいるところです
戦争は嫌だと思っていても、勝手に攻め込んでくるなら私達はどうしたらいいのでしょうか?
非戦の誓いを建てたからといっても相手は相手の都合や利害や自分勝手な理屈で動くのです
私達は、どうやら本作のラストシーンのさらにその先にいるようです
まるで喪中あけです
戦争の服喪の期間が終わったのかも知れません
厳しい現実の世界に否応なく戻らないとならないようです
七七日、終戦から七七年
何か字面が似ています
2021年5月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
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青い空は動かない、
雲片ぎれ一つあるでない。
夏の真昼の静かには
タールの光も清くなる。
ー夏の日の歌 中原中也
大林宣彦特集で特別上映があったので、近くの小劇場にて鑑賞しました。
鈴木光男を軸に、人間の生き死にについてを、全16章仕立てで描いた、約3時間の超大作。
舞台は、星のふる里芦別 かつて炭鉱で栄えた町
北海道らしい、高原のような風景と自然がとても美しい。
雪・新緑・星・山桜・草花
四季折々の自然の中で営まれる、鈴木光男を取り巻く親戚の、なななのか(49日)までのあれこれ。
映画始まってすぐの、病院での看取りのシーン。
展開は掴めるけど、早口で本編とは関係のないような会話の数々。
全然頭に入ってこず、
「ヤバい、これはかなりの難解映画だ。今の自分には、まだわからないかもしれない」と。
ようやくわかり始めたのは、初七日での戦争についての話のあたりから。
そこからは、一気に反戦色が強くなっていきました。
それでも謎は深まるばかりで、そもそも信子とは何者なのか?綾野との共通点は?などなど。
クライマックスのなななのかのあたりから、伏線が回収されていき、坊さんの一言「輪廻転生ですな」で、そうか、そういうことか、そういうことなななのか!となりました。
大林監督の静かな怒り。
炭鉱から観光へ。原爆から原発へ。
泊原発はじめ、日本には山ほどの原発があります。
時計はあの14:46で止まっていた。
ある意味、まだ戦争は終わってないのだろうか。
とはいえ、今は平和な時代。
ありがたいことに、日本では。
核廃絶へ。監督のような戦争経験者の方々が亡くなってきてしまっている今、戦争を知らない私たちが記憶し、しっかりと後世に伝えていかなければならない。
品川徹さんの、畳み掛けるような光男の辛い過去。
忘れたいけど忘れられない、それが戦争。
そして、彼らにとっては戦争が青春。
過去の辛い記憶のパートから、いきなり平和な現代パートに引き戻されるのも良い展開でした。
演出や撮影も秀逸で流石です。
切り替えやズームアウトなど、不思議な含みを持たせていました。
現実的だけど御伽噺のような、不思議な世界観。
映画観終わってから、現実世界に戻ってきても、戻った気がしませんでした。
大林監督作は、まだほとんど観れていませんが、日本をよく理解していらっしゃって、最も日本らしい映画を撮れる監督だったんじゃないでしょうか?
赤も印象的でした。
情熱の赤、血の赤、夕陽の赤、そして日の丸の赤。
暖色の使い方が上手いからこそ、あったかい映画になるのかな。
約3時間、観入ってしまいました。
大林ワールドに吸い込まれる。
長いどころか、まだまだ観たいと思えるほど。
途中眠くもなりましたが、音楽と芦別の自然の景色が美しかったから。
これは、観れば観るほど味が出てくると思う。
まずは、中原中也を読んでみたいと思います。
追記:主題歌を担当したパスカルズ(野の音楽隊)はドラマ『凪のお暇』の曲を担当した人たちだそうです。なるほど‼︎
2021年5月1日
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元病院の医長光男を演じた品川徹さんの抑えた深みのある演技が秀逸。
看護師信子を演じた常盤貴子さんの凛とした美しい表情と演技に魅了されました。
大林監督の優しさと激しさ、色彩の美しさ(独特な「赤」の取り入れ方が巧い)に魅せられました。ラストで一気に全てが繋がる余韻を残す作品。
映画館での観賞
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長い映画であったが、田舎に帰った時のように、たまり溜まった情報を短い時間で棚卸ししてやり取りしているがごとく、興味は最後まで持続した。振り返れば、若い時代の青い体験に取り憑かれた爺が、92歳を全うするにあたって、先立った2人の子供と妻のことは一寸も顧みずに昇天するという、通念からは咎められるような話であったことに気づく。しかし、人とはそういうものという開き直りは心地よくもある。
柴山智香の位置付けが気になるところである。過去に取り憑かれた者と対比的な現世に欲を求める者かな。
震災からもうすぐ10年。少し色褪せてきた記憶をなぞってみる。
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