冷たい熱帯魚のレビュー・感想・評価
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人間の表と裏がひっくりかえっている
通常、人間の裏側にあって人前では隠しているであろう、最もダークな面ばかりを、表側に引きずり出して、映像化したような作品。
吹越満が演じる主人公の持つ、人間的な貧弱さと、それによって引き起こされる運命の悲哀というテーマを前提としながら、普段人が最も不快に感じること、こういうところまでは表現したくない、言いたくもない、やりたくもない、と感じるダークな側面ばかりを団子のように固めて映像化し、作品を鑑賞する者へ、「お前誤魔化してんじゃねえぞ」と、殴りかからんばかりに挑みかかってくる。監督の映像製作にかける意気込みというか、ドスの効き方には敬服せざるを得ない。
狂った薄気味悪さを爆発させる、でんでんの演技は必見。冗談抜きに気分が悪くなる。演技というよりも本当の異常犯罪者だと感じてしまうくらいの強烈なリアリティーがある。死ぬ間際に血だらけになりながら、独り言のようにぶつぶつつぶやくところがあるが、恐ろしく印象的でリアル感に満ちたシーンであった。愛人役の黒沢あすかも凄い演技力を見せている。
観終わった後、気分も悪く、すっきりしないところもあるが、一体何が起こったのかを改めてじっくり思い起こしてみたくなる作品である。
しかし、ここまでやるかというくらいに過激な映像表現で、カルト的な作品に興味ない人や、女性の多くにはおすすめできない。あらかじめ断っておくが、ホラー映画よりも怖い作品である。
園子温監督は、「ハザード」を一番最初に観て以降、興味を感じていたが、これだけの作品を製作すれば世界で注目されるのは当然であると言える。
人間の本性
園作品の中でベスト
パワーがあるね。
鬼才、いや、巨匠・園子温
「愛のむきだし」に衝撃を受けて以来、次回作が気になっていた園子温監督、また凄い作品を作ってくれた!
実際にあった連続猟奇殺人事件をモチーフに、人間の内に潜む狂気、欲をむきだしにする。
吹越満、でんでん(とにかく凄い!今年の邦画の助演男優賞は決定!)、神楽坂恵、黒沢あすか、演技の限界に挑んだ熱演・怪演もさる事ながら、園子温監督の鬼才ぶりに改めて感服。
グロ描写、エロ描写を堂々と描き、それでいて役者から秘められた演技を引き出し、KOパンチ並みのメッセージ性やインパクトを残す演出は、もはや巨匠の域。
甘ったるい映画を量産する日本映画界で、これだけ脳天にガツンと来る映画を作るのは、園子温だけ。
次回作ももう2本公開待機中。(「恋の罪」「ヒミズ」)
早く見たい!
偉大なる殺人鬼の牽引力に打ちのめされる血祭りの世界
実際に起きた凶悪犯罪をベースにした血みどろのグロテスク描写に顔を歪める場面が多かったが、最後まで狂気の世界に面白さを見いだせたのは、オーナーを演じたでんでんの強烈なキャラクターに尽きる。
普段は満点の笑顔で弁が立ち、人懐っこく接してくるが、一転、人を人とも思わず、バラバラ殺人を繰り返す残虐な鬼畜の顔が迫っていく。
オーナーの裏表の激しさが、店主を血肉を細かく切り刻む地獄に後悔の念なぞ持たせる猶予もなく引きずり込む。
仕事にセックスに金にバラバラ殺人に…
冷静かつエネルギッシュに、他人を地獄へと牽引する説得力が爆発しているのが映画における殺人鬼スターの鉄則なんやなと思う。
レクター博士然り、殺し屋1の垣原然り。
血まみれで解体した直後に笑顔でコーヒーを作ってくれと催促する。
あのキチガッた愛嬌が、共犯者として巻き添えになる人の心を掴むんやろね。
最近、戦争映画やパニックものを立て続けてきたが、その中で最も血生臭く、そして、人間臭かった。
オーナーの血祭りに打ちのめされると、ピラニアのビキニ美女喰い放題なぞ所詮、ガキの遊びである。
では、最後に短歌を一首
『水の底 血と愛嬌で 愛撫して 肉までしゃぶって 透明にする』
by全竜
日本映画界復権の狼煙
1993年に実際に起きた埼玉愛犬家連続殺人事件をベースに作られた本作。この事件は映画と同様に主に3名が関与しており、主犯のX、Xの妻Y子、Xの経営する店の従業員Zの3名。この3名で5人を透明にして完全犯罪を目論み、警察の司法取引に応じたZが証言して事件の全容が明らかになった日本の犯罪史上最も残忍な連続殺人事件です。実はZは出所後に小説家としてデビューしており、「共犯者」というノンフィクション小説でこの事件の詳細を綴っており詳しく知る事が出来ます。レア本なので難しいかもですが・・
ちなみに私はこの本を読んでから映画を観ました。ノンフィクション小説なので読まれた方は観る前にこの映画に対して少なからず思う点が生じます。それは、この映画がどこまで実際の事件に忠実なのかという点です。そしてその杞憂は見事に払拭されます。設定がドッグショップから熱帯魚店へ変更になっている点以外は、後半で吹越満演じる社本が壊れてしまうまではほぼ実際の事件通りです。劇中のセリフ「ボディを透明にする」や「子供は元気か?元気が一番」は本当にXが好んで使っていた脅し文句をそのまま引用しています。勿論、過激過ぎて隠さなければならない部分はあまり映らない様な描写にしてあったりもしますが、これは日本という土壌を考えると凄い事です。
特にこの作品で異彩を放っているのが悪役の村田幸雄を演じるでんでん。
過去に名悪役だとされるのは「ダークナイト」のジョーカーや「ノーカントリー」のアントン・シガーなどがよく挙げられますがそれに並ぶ、いやそれ以上の存在感を出しています!でんでんは元々滑舌の良くない俳優で、しかも村田は詐欺師の側面も持つキャラクターなので演じる上で欠点とも言えそうなのですがそれがかえって妙なリアル感を醸し出し、一見人の良さそうな風貌からの二面性などで「隣にいそうな殺人鬼」という今までにいなかった新しい恐怖の象徴を作り上げています。
村田に人生を狂わされる社本役の吹越満も終盤までは狂言回し的な要素が強いがガラリと変わる瞬間からの演技はこの映画のもう一つの見所です。社本は特殊な人間ではなくどこにでもいる平凡な中年のおっさんですが、平凡が故に観ている側が「やり返せよ!」と思っている通り、いやそれ以上の事をやってしまうので溜まりに溜まったストレスを一気に吹き飛ばす爽快感があります。
女性陣も黒沢あすかと神楽坂恵は中途半端な美人ですが隣に住んでいそうな感がありすごく良いです!しかもエロさが下手なピンク映画よりも十分にあるので惹きつけられますし、ある種の危うさが画面一杯に広がっていて緊張感も常に持続させる効果も生んでいます。
事実に基づいた日本映画がよく陥りがちな地味な雰囲気と演出が一切なく、一般的に観れば地味なキャストですが初めからラストまで観る者をグイグイ引き込む、いや道連れを強いる力を持つ映画です。テーマは重く残虐で賛否両論ある作品だと思いますが、R-18ならではの無類のエンターテイメントであると断言出来ます!
園監督は、社本の最後の行動を自分はまともだと思っている人全てに対し、正常と異常は表裏一体できっかけさえあれば善にも悪にも簡単に変貌出来るのが人間だという裏テーマをしっかりと出してくれているなと唸りました。
映画産業が活性化している国の特徴の一つとして事実に基づいたクライムサスペンスが多く生まれている事が挙げられます。一昔前は日本映画もそうでしたが、近年は韓国の勢いが凄く、「殺人の追憶」や「チェイサー」、「母なる証明」など事件性と娯楽性を両立させた作品が多く生まれています。日本映画も有名な作品だと「復讐するは我にあり」や「TATOO<刺青>あり」、「顔」などは実在の事件を扱った映画です。ちなみに園監督は「冷たい熱帯魚」のキャストやスタッフに対してクランクイン前に「復讐するは~」を観て撮影に臨むように指示されたようです。
現在の日本映画界は一見すると様々なジャンルが作られていて元気に見えますが、実際はTV局やお笑い事務所が主体のバカな映画が量産されるシステムが確立されてしまい、質の良い映画が埋もれてしまう状況が続いています。韓国やタイ、スウェーデン等は最近特に良作が多く、世界的に見れば日本は危機的状況です。その状況を打破出来るのが今作の様な猛毒を持ったエンターテイメント作品です。園監督の様な独自性を持った方がもっと頭角を表してくれく事を切に願います!!
という事で、小説「共犯者」を読んでから気の合う仲間(友達も小説を読んでいるとなおベター)と一緒に観た後に飲みながらあーだこーだ感想を述べ合うのがオススメです。但し、知らない人が聞くと危ない話をしている人に見えるのでしみったれた所を推奨しますw
でんでんに始まり、でんでんに終わる
見方を変えれば、「文〇省推薦映画」
「愛のむきだし」で世界的に高い評価を獲得した園子温監督が、吹越満、でんでんという個性満ち満ちる俳優陣を迎えて描く、サスペンス映画。
「嘘は、いけません」「我慢は、してはいけません」通っていた小学校で、年齢不詳の教師が私に教えてくれた。この文句がまだ現代においても通用するのならば、本作は実際のところ、極めて健全な映画なのかもしれない。
冒頭から、嘘や見せかけに寄り掛かる不健全な人間が乱れ出てくる。目の前の曖昧な幸せ、安心のためにどれだけ無理をしているのかが一目で分かる無機質な人間達が、笑顔を振りまいて現れてくる。
本作は、暴走と妄想の赴くままに作られているように思えるが、実は何度も推考に推考を重ねて組み立てられたような、明確なリズムを刻んで描かれている。
自分の行動が嘘で塗り固められていることに気付かないまま、毎日を過ごす人間がつくる比較的穏やかな序盤。その不健全な偽りと憎悪に気付き、怒号と艶やかな歓喜、そして叫びによって猛進していく中盤。そして、全ての仮面が剥がされ、剥き出しになった感情と本能を静かに、ドキュメンタリーの如く見つめる終盤。
そう、終盤にこそ物語の本質がある。中盤の猟奇的殺人のくだりに熱が注がれているように思えるが、その先だ。その先にある自分の本性を理解してしまった主人公、社本の衝動と落ち着きが本作の強烈な気味悪さと痛々しさの源になっている。
「嘘を超えて、我慢を超えて、自分らしく生きたいという貴方・・じゃあ、そうしてごらんよ。こうなるから。」そんな作り手の無邪気な、陰湿な笑顔と主張が観客の心を傲慢に痛めつけてくる。でも、その結末はストレスから開放された健康な人の姿。健やかな安心と、安らぎが見え隠れする。何とも、憎々しい皮肉である。
では、本作は子供に薦めても良いのか。終盤、大人同士のとある行為を非難した子供が、社本にぶん殴られて気絶する場面がある。このシーンが強引に書き殴られたその瞬間から、この映画は成年のための映画となったのだ。恐らく。
久しぶりに、吐き気を覚えた映画である。
エログロの向こう側
エログロの向こう側を見てしまった!
こんな狂気見たことない。
園子温監督、やってくれたなあ。
最後まで見てわかったが、このお話はずっと社本の視点なのだ。
多くを望まず、娘にも妻にも思ったことを言えない弱い男。
しかし、自分は善良だと信じている。
弱いから善良だというのは一つの偏った価値観。
全く真逆の性格と思われる村田。
しかし彼は言う。
『お前は昔の俺そっくりだ』
社本が”変身”するシーンは見もの。
完全にあちら側に行ってしまった。
しかし、これが社本の本質なのかもしれない。
いや、誰もがあの異様な状況にさらされればこうなのかもしれないが。
ラスト、娘、美津子の言動にはっとさせられた。
視点が変われば全く違ったものの見え方がしてくるのだな。
それにしても、でんでんの怪演に圧倒され、黒沢あすかのエロさにぞくぞくさせられた。
吹越満の変身ぶりも見事。
派手な役者を使っている訳ではなく、煽るような音楽もない。
なのに画面から少しも目が離せなかった。(目を背けたくなるシーンはいっぱいあったけどw)
万人に受け入れられる作品ではないが、ものすごいパワーで見るものを圧倒する作品でした。
一見の価値あり。見どころは人間心理。
シネ・リーブル池袋で観てきました。
男性向きの映画だろうなと思っていのですが、
わりと女性客も多かったのが意外でした。席はほぼ満席。
予告編を観ればこの映画の性質はほぼ理解できますが、
猟奇殺人を取り扱った、スプラッター、エロ要素満載の大人の映画です。
そんな過激な部分が目につく映画ではありますが、
それはこの映画を構成する要素の一部に過ぎず、
緻密な人間描写やストーリーなど、
この作品の本質的な面白さは別にあると感じます。
吹越さん演じる主人公「社本」は、どこにでもいそうな
平凡で、真面目で、ささやかな幸せを望んで生きている気弱な男。
その彼が、でんでん さん演じる「村田」の巧みなペースに飲み込まれ、
とてもとてもヤバイ状態へ(家族もろとも)引き込まれてしまいます。
自分ならどうするだろう?と思わず考えずにはいられない場面ですが、
主人公と同じ状況におかれたら、
自分も同じ道を歩まされたかもしれないと思えて本当に怖くなります。
この映画の怖さは、まさにこのような人間心理にあるのだと思います。
正直スプラッター的要素は、観ているうちにだんだん慣れてきます。
それもそれで怖いですが…
悪人役の村田ですが、これがなかなか憎めないキャラクター。
いわゆる詐欺師キャラなんですが、
とにかくハイテンションでよく喋る。
「こんな人、いるよな~」なんて、可笑しくなりつつも、
巧みな話術、人心掌握術で、人の心をもてあそぶさまは、
少し憧れてしまう部分でもあります。
話が進むにつれ、この村田が、
主人公のメンター的存在になってくるんですが、
「殺人」を抜きにすれば、なかなかイイこと言っていて感心します。
というわけで、観終わった後、それなりに得られるものもあり、
一見の価値あり。といった映画でした。
おしゃれなミステリーを期待して行くと……
埼玉の愛犬家連続殺人事件をモチーフにしてる。日本にも昔はあった実録犯罪モノ、最近の韓国映画のそれに刺激を受けたという。
愛犬のブリーダーを高級熱帯魚に置き換えた。
熱帯魚店を舞台にしたことで、映像的に美しくなっているが、おしゃれなミステリーを期待してカップルで行くと、見終わったあと気まずい雰囲気になりかねない。
R18なのは、エロさだけでなく「悪魔のいけにえ」を彷彿とさせるグロさも半端じゃないから。
再婚した妻とグレた高校生の娘と暮らす主人公の社本(吹越満)の救いようないダメさが最後まで続く。癒されたのは、園子温監督の鬱だけ…。監督の狙い通り井筒和幸監督の「ヒーローショー」を見たときのような後味の悪さを感じさせてくれる。
社本はぼく?
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