サマーウォーズ : インタビュー
前作「時をかける少女」(06)で、宮崎駿らに続く次世代を担う監督として一躍注目を集めた細田守監督の最新作「サマーウォーズ」。天才的な数学の才能を持つ気弱な高校生、健二(声:神木隆之介)が、憧れの先輩、夏希(声:桜庭ななみ)の実家の陣内(じんのうち)家で過ごす夏休みに、世界中に普及した仮想空間で大事件が勃発。本作は、健二と陣内家の親戚一同が一丸となり、ひとつの事件に立ち向かう姿を描く、爽快な“アクション家族映画”だ。すでに試写を見た関係者やマスコミから前作に劣らぬ高い評価を受けている本作について、細田監督に語ってもらった。(取材・文:編集部)
細田守監督 インタビュー
「アニメーションや日本映画全体の可能性、楽しさを広げたい」
――以前「時をかける少女」をやる前に「『夏の日の少年の、ある一瞬の出来事』をやりたかった」と言っていましたが、今回は主人公を少年にしたことで、その思いはより実現できたのでしょうか?
「根本にあるのは、確かにその思いかもしれませんね。実は、アニメを作っている人はみんな、『夏の日の少年の、ある一瞬の出来事』みたいなのを描きたいんじゃないかって勝手に思ってるんです。賃金が安いとか労働環境が過酷だとか言われても、それでも一生懸命アニメをやっているのは、究極的にはそういうことなのではないかと。何の力もない少年が、あることがきっかけですごい頑張って、自分でも気が付かないうちに一回りも大きくなっているというのは、アニメにも一番向いていると思いますし。『サマーウォーズ』も、そうしたアニメーションが持つピュアなものをベースにしている気がします」
――家族の話にしようとしたきっかけは? 「時かけ」は限られた人物の話だったので、あえて人数を多く描くという挑戦があったのでしょうか?
「『時かけ』は3人の少年少女のシンプルな映画でしたから、その反動というのはありますね。正反対な、もっとにぎやかなものをやりたいと。で、いろいろな世代の人物が登場するとなると、自然と家族というのが出てきた。日本の家族映画って、今の世を反映してか、シリアスでヘビーなものが多いですけど、温かくてワイワイにぎやかな家族っていうのは、それこそ『ALWAYS 三丁目の夕日』みたいな過去のものしかないのか、現代ではすでにないのかというと、やっぱりあるんですよ。そのことを描きたかった。社会的にも家族を取り巻いた問題が増えてきていますが、だからこそ、いまでも楽しい家族ってあるんだよと発言することに意味があると思ったんです。ただ、シリアスな問題を描くほうがメインストリームになっている中、家族を楽しく描こうというのは、すごくチャレンジな企画なのではと、マイノリティ感を感じました(笑)。本当は王道だと思うんですけどね」
――現代ということ強調するために仮想空間という設定が?
「現代の家庭の風景って、たとえばテレビの横に何気なくWiiのコントローラーが置いてあったり、ベッドサイドにニンテンドーDSが転がっていたりするのが、ごく普通の光景になってるんじゃないかと思うんですよ。ネットやゲームの世界がとても身近にある。でも、身近にあるからといって、家族のありようがそう変わるわけではない。家族のやりとりがメールやネットになっているのは当たり前だから、そうした中で起こる家族の楽しさを描きたかった。対比させてどちらが良い悪いというのではなく、どちらも一緒にあって価値のあるものだと。テーマ主義的な人だと、ネットは所詮かりそめのコミュニケーションで、家族のほうがホンモノだよって、道徳の教科書のようなこと言いがちだと思いますけど、それは絶対違うなと思って、もっとみんなが実感としてもっているであろうことを、ちゃんと描きたいと思いました」
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