エアベンダー : インタビュー
1999年、「シックス・センス」での衝撃的なブレイク以来、「アンブレイカブル」「サイン」「ヴィレッジ」「レディ・イン・ザ・ウォーター」、そして「ハプニング」と作品を発表するごとに世界中の観客を驚かせてきたハリウッドのヒットメイカー、M・ナイト・シャマラン監督の最新作「エアベンダー」が今週末公開となる。同作はアメリカで人気のTVアニメ「アバター 伝説の少年アン」を基に、「気・水・土・火」の4つのエレメントを操る救世主アンが、戦乱の世に調和をもたらすべく過酷な運命に立ち向かう姿を描いたアクション・スペクタクル。今回初めて自身のオリジナルではない原作モノの映画化に挑戦したシャマラン監督を直撃した。(取材・文:編集部)
M・ナイト・シャマラン監督 インタビュー
「僕はいま、時代遅れの恐竜のような存在になっているんだ」
——とりあえず、アメリカでの大ヒットおめでとうございます。前の2作は興行的に成功しなかったので、プレッシャーがあったのではないですか?
「前の2作が失敗しているからということではなく、常にプレッシャーはあるんだよ。もし仮に『ハプニング』『レディ・イン・ザ・ウォーター』がヒットしていてもプレッシャーはあっただろうね」
——前の2作の失敗で、ハリウッドのスタジオエグゼクティブの態度が変わったりしませんでしたか?
「『ハプニング』はたしかにアメリカでの成績はあまり良くなかったけど、インターナショナルの成績が良かったので配給のフォックスからは別のオファーがいっぱい来ているんだよね。だけど、業界全体としては、4年前くらいから予算の締め付けが厳しくなってきている。今のところ、予算を制限されて、製作を断念した映画はないけど、これから先はどうなるかわからない。すべてやりたいことは出来ないと思うよ。
——いままで大成功を収めてきたシャマラン監督にしては弱気な発言ですね。
「ちょうど僕が『シックス・センス』で登場したのが11年前だったんだけど、そのときは(ハリウッドの外部から)新しい声が聞きたいということと、オリジナルムービーを欲していた業界全体の要望が合致した、完璧なタイミングだったんだ。当時は製作費400万ドルで作って2500万ドルを稼いだら、大ヒットって言われたからね。2000万ドルの予算で作って興収8000万ドル、5000万ドルで作って興収2億5000万ドルという形も同じで、ヒット作にはいろいろな形があったんだ。だけど、いまはヒット作というとひとつのバージョンしかない。それは、3億ドル、4億ドル、5億ドルを稼がないといけないということで、本当に大きいバジェットで、大きなリターンがある作品しかヒット作と呼ばれないんだ。
そして、オリジナルの企画が通る土壌がなくなってしまったんだ。業界がそんな状態だから、僕はいま、時代遅れの恐竜のような存在になっているんだ。毎回新しいスタイル、新しいプロット、新しいキャラクターを一から創造するのは面倒ではあるんだけど、結局、僕はいまだにオリジナルストーリーにしか興味がないんだよ」
——なのに、なぜ今回はシャマラン監督としては初めてオリジナルではない原作のある題材を選んでの映画でした。
「この企画は3年前に決めていたんだ。だけど、これは『ハリーポッター』のような有名な話ではない。アメリカでは、TVシリーズでやっていたから、多少は知っていた観客もいるだろうけど、そこまで有名ではない。だから、すごくリスクがあるし、自分では今回も困難な作品をあえて選んで挑戦したという気持ちだね」
——何がこの題材を選ばせたのでしょうか?
「僕はこの題材が持つすべてのテーマが好きだったんだ。まず、子供が勇気を持って戦うということ。シェイクスピア的な王室の諍いが描かれるバックストーリーもある。そして大好きな武道が描かれている。それから、TVアニメのストーリーには、僕が大好きな宮崎駿の影響もあった。僕は宮崎が自然を描くときのアプローチがとても好きなんだ」
——宮崎駿監督は「基本的に映画は子供のために作っている」といってますが、今回、シャマラン監督は自分の娘のために作ったそうですね。
「そうなんだ。いまは10歳になる真ん中の娘が7歳だったときに、このTVシリーズにはまっていたんだ。とにかく彼女は主人公の一人、カタラが大好きで、彼女の服装を着て真似するんだね。彼女の目を通して、僕も一緒になって楽しんで見ていたのが、この映画を作るきっかけだね」
——こういった原作モノを撮ることによって、今回の映画では“シャマランらしさ”が薄まったと思うのですが、自分ではどう思いますか?
「“シャマランらしさ”というけど、それは何を持って“シャマランらしさ”というかということだよね。今回の映画では、カタラとアンが太極拳をやっている最中に、雪が降ってくるシーンなんかは、まさにシャマランらしいシーンだと僕は思っているんだけど、ちょっと分かりにくいかもしれない。それはなぜかというと、いままであまり見せたことのないオペラの雰囲気を採り入れて“シャマランらしさ”を見せているからかもね。
アンが戦争に参加して太極拳をやりながら壁を上るシーン、大波が押し寄せるシーン等々、至るところにオペラ風の演出をした“シャマランらしさ”が出ているんだ。僕自身も、これからはもっとそこを探求していきたい。かつて『アンブレイカブル』のときに、少しだけそういった側面をみせたことがあるんだけどね。この『エアベンダー』の3部作が完成すれば、観客は、“シャマランらしさ”全快の映画だって、思ってくれるはずだよ」