■昭和15年の東京。野上佳代(吉永小百合)は家族と共につつましくも幸せに暮らしていた。
だがドイツ文学者の夫・滋(坂東三津五郎)が反戦思想を持つという理由で検挙され、その暮らしは一変する。
佳代は不安と悲しみを募らせていたが、ある日、滋のかつての教え子・山崎徹(浅野忠信)が野上家を訪れる。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・何とも切ない物語である。大日本帝国が大東亜共栄圏を掲げ戦争に邁進していく中、家の大黒柱である夫を思想犯として捕らえられ、必死に娘二人を育てる”母べえ”の姿。
・”母べえ”を慕う夫の教え子の山崎徹(浅野忠信)の実直な姿も、心に沁みる。
ー 彼が抱いていた美しき佳代に対する想いを秘め、家族に尽くす姿。-
・画家を目指していた夫の妹、野上久子を演じた檀れいも良い。
ー ”母べえ”が、”山ちゃんはどうなの?”と聞いた際に、”お姉さんは鈍感ね。あの人はお姉さんが好きなのよ。”と言った際の表情と、その後広島で被爆して、命を失った事が淡々と述べられる。-
・奈良からやって来た、デリカシーのない叔父、藤岡仙吉を演じた笑福亭鶴瓶も印象的である。金歯、金の指輪を嵌めながら自由に発言する姿。
ー 彼が、街中で”欲しがりません!勝つまでは!”の誤った愛国心を持つおばさん達に華美な服装を指摘された時に彼が言う啖呵が心地よい。”これは、俺が稼いで手に入れたもんや!”そして、彼が奈良に戻る際に山崎に金の指輪を渡し”警察に渡したらいかんぜ。どうせ、国の為とか言いながら懐に入れるだけや。”と言った台詞。
粗野だが、国の状況を把握していた男である。-
・だが、戦況は悪化し、夫が獄から出る事は無く、亡き人になる。そして、山崎も戦地で亡くなり、日本は敗戦する。
<今作は、近年のロシアを中心にした状況により「世界終末時計」が過去最悪の1分30秒になっている現況下に観ると、或る家族の強い絆を描いた映画でありながら、山田洋次監督が戦争に対する深い憤りを描いた作品である。
今、私達に何が出来るか、未来を託す子供達に当時の様な悲惨な経験をさせないために壮年の私達が何をすべきかを問いかけてくる作品でもある。>