劇場公開日 2008年1月26日

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母べえ : 映画評論・批評

2008年1月15日更新

2008年1月26日より丸の内ピカデリー2ほかにてロードショー

山田洋次が描く底辺の人々の静かなる抵抗

一気に憲法改正までなだれ込みそうな、きな臭い空気が立ちこめていた頃に企画制作が進行していた本作は、軍靴の響きが高まった昭和10年代の庶民の暮らしを鮮やかに映し出す。質素な暮らしを送る4人家族の家に、ある日特高警察が土足で踏み込んできて、父を手縄にかけて連行する。政府を批判する文章を発表した罪だった。生活苦に追いやられ、周囲の助けを借りて生き抜いていく母と幼い娘たちの姿を、涙と笑いで包み込む。浅野忠信、鶴瓶ら家族を取り巻くキャラの配置が絶妙。声高に反戦を唱えるわけではない。何かを断念した想いが累積して心の叫びとなり、画面の奥から聞こえてくるようだ。

山田洋次にとって、家族が終生のテーマであることは言うまでもないが、言い換えればそれは常に、時の体制の中で翻弄される底辺の人々の静かなる抵抗を描くということだ。高度成長期に背を向けて放浪した「寅さん」も、腐敗した上層部を下級武士が討つ「時代劇3部作」も本質は同じ。格差が開き、底辺の切実な声が政治に届かなくなった今、本作では戦前の愚かな日本を通して、同じ過ちを繰り返すまいと警鐘を鳴らし、つつましやかな暮らしを称える。

この映画にはデフォルメがある。60代の吉永小百合が30代の母に扮するのだ。しかしそれは、すんなりと受け入れることができてしまう。今どきの30代女優では、家族のために献身的に尽くし、ひたむきに生きるあの時代の母親像を演じることは不可能だったかもしれない。清廉なイコンは年齢を超えて、普遍的な日本の聖母になり得ている。

清水節

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