あした

劇場公開日:

解説

死者からのメッセージを受け取った、残された家族や恋人たちの別れと“あした”への旅立ちを描いた人間ドラマ。「ふたり」に続き赤川次郎の『午前0時の忘れもの』を原作に、冬の尾道の海を舞台に描かれる大林宣彦の新・尾道三部作の第二作。尾道三部作(「転校生」「時をかける少女(1983)」「さびしんぼう」)は少年・少女の甘酸っぱい青春を描いたものだったが、「ふたり」に始まる新・尾道三部作は“家族”がテーマの基調となっている。出演は「今日から俺は!!」の高橋かおり、「青春デンデケデケデケ」の林泰文、「人造人間ハカイダー」の宝生舞など。

1995年製作/141分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1995年9月23日

ストーリー

小型客船・呼子丸が嵐のなか尾道沖で遭難し、乗客9名全員の絶望が伝えられてから三ケ月。残された恋人、夫、妻、家族のもとに、「今夜午前0時、呼子浜で待っている」という不可解なメッセージが次々と届く。女子高生・朝倉恵(宝生舞)は、授業中見ていたスライドのスクリーン上に恋人・高柳淳(柏原収史)からのメッセージを見つけた。恵は淳と交わした「ずっと一緒にいよう」という約束を思い出す。本当に会えるかもしれないという期待と不安を胸に、恵は呼子浜へ急ぐのだった。ヤクザの親分・金澤弥一郎(植木等)のもとには、孫からの手紙が届いていた。長年に渡って一家の長としてのつとめを果たしてきた金澤は、跡目を若い衆に譲って静かな余生を送りたいと考えていた。彼は組の若いものを引き連れて呼子浜へと出かけて行く。造船設計技師・永尾要治(峰岸徹)は、携帯パソコンに映し出された妻と娘からのメッセージを読んでいた。残酷ないたずらだと、堪えられない気持ちを部下の直子に訴えるが、永尾に思いを寄せる直子は、信じて会いに行くように促すのだった。永尾は直子の運転する車で呼子浜を目指した。水泳部員の安田沙由利(椎名ルミ)は、会社の伝言板に唐木コーチからのメモを見つけた。伝えられなかった唐木への思いを伝えたい一心で、沙由利は呼子浜へ行くことを決意する。しかし、同僚でマネージャーの小沢小百合(洞口依子)も同じメモを見ていたのだった。森下美津子(多岐川裕美)は、夢の中で夫の声を聞いた。美津子はそれを、夫の社長秘書として仕えていた布子(根岸季衣)に楽しそうに話す。布子は固い表情をしたまま、その話を聞く。会社のボートで二人は夕日の尾道水道を進んでいく。女子大生・原田法子(高橋かおり)は、友人の綿貫ルミと温泉旅行に来ていたのだが、法子の勘違いで最終便の船に間に合わなくなり、この夜を呼子浜の待合所で過ごすことになってしまった。待合所で早々と寝入ってしまった法子とルミのもとに、金澤たちの一行が到着した。供をして来た子分のなかに、小学校の時に離れ離れになってしまった大木貢(林泰文)がいるのを見て、法子は驚く。法子はあの時にもらった貢からの手紙に書いてあった“約束”をまだ覚えていたのだった。貢は複雑な家の事情で、金澤に拾われヤクザの見習いをやっていた。そこへ、朝倉恵が自転車で駆けつけて来る。続いて、死者たちとの“約束”を信じて、ひとり、またひとりと桟橋の待合所には人が集まって来た。それぞれの想いと思惑が交錯するなか、“約束”の時間は近づいていた。午前0時になり、波がにわかに騒ぎ始めると、暗い海の中から真っ白な呼子丸が姿を現わし、桟橋に停止した。その瞬間、目の前に現れたのは死んだはずのあの人たちだった。“約束”とは最愛の人に言えなかった“さようなら”を言うことなのだ。つかの間の再会を終えた死者たちは、再び船に乗り込んでいく。しかし、金澤だけは自分の命と引き換えに、孫の身代わりとなって船に乗るのだった。彼らを乗せた呼子丸は、暗い尾道の海に消えていった。

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映画レビュー

5.0暗さを深めていく1995年の日本への大林宣彦監督のエールだったのです

2023年5月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1995年公開9月公開

1995年は多くの方にとって記憶に残る年でした

なにしろ1月には阪神淡路大震災が起こり年が明けたのです
3月にはオウム真理教の地下鉄サリン事件がありました

バブル崩壊はいよいよ誰の目にも明らかとなりつつありました
大規模なリストラが一流企業でも本格化した年でした
真っ黒い夜が始まったかのような年だったのです

そんな中で、亡くなられた人、喪われたことへの想いを断ち切って、あしたへ立ち向かう元気を出そう

それが暗さを深めていく1995年の日本への大林宣彦監督のエールだったのだとおもうのです
だから呼子丸は真冬の真夜中に現れて、夜明け前に去っていくのです

だからあしたが訪れた時、登場人物達はみな晴れ晴れとしてそれぞれのいるべきところに帰っていくのです
あしたは頑張ろうと

呼子丸
死者が呼ぶ船
それに呼ばれて乗って去るのなら、退場すべきは老人であって、子供ではないのです

1995年、戦前生まれの方々が退場を始めて、日本の社会の様々なところで代替わりが起こり始めていました
団塊の世代が最年長の世代になろうとしていたのです
彼らが社会のフロントランナーに立ったことを知った不安と気負い
それが終盤の勝と篠山が肩を組んで泣くシーンに見事に表現されています

彼らが残された小さな子供や女性や若者を皆預かり、責任を持ってこの真っ黒な海に乗り出すことになったと初めて気がついたのです

呼子丸のいくところではなく、あしたへ向けて下の世代を連れて行かないとならないのです

若者達、女性達もそれぞれに新しい人生に前を向いて立ち向かおうとしています

そして21世紀
本作公開からいつしか28年も経ちました
夜はとっくに明けたはずです
でも空を厚く低く雲が覆っていて
まるで夜がまだ明けていないかのように暗いのです
それでもあしたは来ているのは間違いないのです

今度は団塊の世代の人々が退場を始めました
次の世代に代替わりが起こりつつあります

コロナ禍もオリンピックも終わりました
どうやらデフレも終わったようです
いつまでも過去に拘泥しているなら、呼子丸が今夜訪れるかもしれません

先日、念願だった尾道の観光ができました
大林宣彦監督や小津安二郎監督の尾道での数々のロケ地を巡り、さらにはおのみち映画資料館も見学することができました
兼吉渡しの渡船で向島に渡ってすぐのところには、本作の呼子港の待合室のロケセットが移設されて今も残されています
ガラス窓から中を覗くと、本作でみたままで切符売場もベンチも看板も残されていました
程よく老朽化して、白いペンキ塗装も日焼けして色褪せて本物の待合室のような風情を醸し出していました

尾道はあなたが来るのを待っています

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あき240

2.5まあまあだった

2020年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
ネタバレ! クリックして本文を読む
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吉泉知彦

4.0生きるってことをかなり強調した映画。

2018年10月29日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 序盤で椎名ルミ、高橋かおりの初々しいヌード。2人とも胸は小さい。美少女を脱がせる大林マジックを感じた。

 とにかく大林監督の下に集まる常連の俳優さんたちがいい。演技力もわざとらしいほど下手に演じさせるのか、そこが微笑ましかったりする。特に多岐川裕美、岸部一徳、林泰文などなど・・・案外、宝生舞が良かったのにビックリ。

 ヤクザの親分植木等を狙う岸部、田口トモロヲ、林。そして彼を守るベンガル、小倉久寛。大林監督に“人を殺すシーンは撮らない”ポリシーがあるため安心もできるのですが、かなり危ないところもあり。まぁそれが逆に生きることの大切さを訴えてくるのだ。
 原作は知らないけれど、これだけ登場人物が多いのに見せ場を作ってあるところが凄いとも感じる。お笑い担当の小倉とか、性欲担当の峰岸徹とか・・・寂しい人もいたけど、なぜだか希望を与えてくれる。もちろん泣き担当の植木等のパートはいいなぁ。

 小屋での高橋、林の初体験シーンなんかが恥ずかしいほど不要な部分だと感じるけど、それもクライマックスに繋がるんだと思うとしょうがないのかもしれない。

 原田知世のゲスト出演もいい。9人という人数を数えていれば想像はできたんだろうけど、なにしろ登場人物が多くて・・・

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kossy