コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第261回

2015年5月8日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第261回:大人向けのアメコミドラマ「デアデビル」

映画界でヒットを連発しているマーベルが、新ドラマ「デアデビル」でテレビに本格進出を果たした。マーベルと言えば、すでに「エージェント・オブ・シールド」と「エージェント・カーター」を手がけているわけだが、「デアデビル」はこれまでの2作とは重要度がまるで異なる。「デアデビル」は、マーベルが同時進行で手がけている4番組の第1弾だ。今後は「A.K.A.ジェシカ・ジョーンズ(原題)」、「アイアン・フィスト(原題)」、「ルーク・ケイジ(原題)」と、それぞれ別のヒーローを主人公にしたドラマが続き、その後、4人が結集する「ディフェンダーズ(原題)」というミニシリーズに発展することになっている。この流れは、かつてマーベルが初の自社映画「アイアンマン」を成功に導いたあと、「インクレディブル・ハルク」や「マイティ・ソー」、「キャプテン・アメリカ」を同時進行で製作したうえで、オールスター映画「アベンジャーズ」を実現させたパターンと同じだ。いま、マーベルは本格的にテレビドラマに進出しようとしており、「デアデビル」は切り込み隊長の役割を担っているのだ。

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さて、デアデビルというキャラクターは、かつてベン・アフレック主演で映画化されたことがあるので、ご存じの方もいると思う。主人公マシュー・マードックは子供時代に事故に遭い失明。しかし、レーダーのような特殊な感覚を身につけた彼は、昼は弁護士、夜はクライムファイターとして巨悪と戦うことになる、という設定だ。原作にフランク・ミラーが関わっていることもあって、マーベルにおける「バットマン」的存在として知られている。そのこともあって、「デアデビル」のクリエイターは、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」シリーズのスタイルを見事に踏襲しているのだ。

毎回、傷だらけになりながら孤独な戦いをつづけるマードックの苦悩を軸に、彼を取り巻く人々とのヒューマンドラマと、邪悪な組織のクライムサスペンスが展開。ヒーローモノだから痛快なアクションはたっぷりあるけれど――盲目のヒーローのアクションはとても新鮮だ――、荒唐無稽になりすぎないのは、ロザリオ・ドーソンビンセント・ドノフリオスコット・グレンといった通好みの演技派が脇を固めているからだ。また、通常のテレビ局ではなく、米ストリーミングのネットフリックスの独占配信であることも、ダークでバイオレンスに溢れたアメコミドラマの実現に寄与していると思う。

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なにより、主人公マードックを共感できる存在として丁寧に描いているのが特徴で、とくに企画・制作総指揮のドリュー・ゴダード(「キャビン」、「クローバーフィールド HAKAISHA」)が執筆した最初の2話は秀逸だ。ゴダードはかつて「LOST」を執筆していたこともあって、フラッシュバックの使い方がとてもうまい。

僕は年齢的にアメコミ映画に夢中になれなくなってしまっているのだけれど、「デアデビル」はシーズン1を一気見してしまった。このクオリティを維持できれば、マーベルが米ドラマ界を支配するのも時間の問題かもしれない。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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