コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第240回

2013年10月11日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第240回:複雑な余韻を与えてくれるポール・グリーングラス監督新作

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実在の人物や実際に起きた事件が映画の題材になることはもともと少なくないけれど、ここ数カ月の間に見た映画のなかに占める割合は特に高い。題材がそのまま映画のタイトルになっている「ダイアナ」や「スティーブ・ジョブズ」はもちろん、ウィキリークスを題材にした「The Fifth Estate(原題)」やF1レーサーのジェームズ・ハントとニキ・ラウダのライバル関係を描く「ラッシュ プライドと友情」、ダニエル・ラドクリフが若き日のビート詩人アレン・ギンズバーグに扮する「Kill Your Darlings(原題)」、英作家チャールズ・ディケンズと愛人との関係を描いた「The Invisible Woman(原題)」、誘拐され南部の農園に奴隷として売られた黒人男性の回顧録を映画化した「12 Years a Slave(原題)」などいずれも実話が下敷きになっている。現時点では未見だけど、実在の株式ブローカーの回想録の映画化「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(マーティン・スコセッシ監督)や、アブスキャム事件を下敷きにした「アメリカン・ハッスル」(デビッド・O・ラッセル監督)、ナチスに奪われた美術品を奪い返す男たちを描いた「ミケランジェロ・プロジェクト」(ジョージ・クルーニー監督)なども年内の全米上映を控えている。

歴史にも時事問題にも疎い僕にとって、こうした映画は絶好の学習機会で、感心させられることも多い。その一方、どういうわけかこの手の作品に夢中になることはめったにない。事件の結末を知っていたり、実在の人物と役者との違いが気になって集中できなかったり、実話という制約があるせいで、フィクション映画と比較して盛り上がりが欠けるように感じてしまうためだ。

でも、ポール・グリーングラス監督が手がける実話モノは例外だ。「ボーン・アルティメイタム」などのアクション映画で知られるグリーングラス監督だけれど、元ジャーナリストというだけあって、実話を下敷きにした映画もコンスタントに手がけている。ハリウッドに招聘されるきっかけとなった「ブラディ・サンデー」は1972年に起きた<血の日曜日事件>が題材だし、「ユナイテッド93」は9・11でハイジャックされたユナイテッド航空93便の乗客たちを題材にしている。いずれもドキュメンタリータッチで、その場に居合わせたかのような臨場感があるため、スリリングな2時間を過ごすことができるのだ。

最新作「キャプテン・フィリップス」も、期待通りの佳作だった。2009年にソマリア沖で海賊に襲撃されたアメリカのコンテナ船を舞台に、船員の命を守るために危険な駆け引きを行うフィリップス船長(トム・ハンクス)の葛藤が描かれていく。スリリングな強盗映画として成立しているばかりか、ソマリアの海賊たちが置かれた立場も描かれているので、複雑な余韻を与えてくれる。世界への理解がちょっとだけ深まったような気がして、こうした作品を観ると実話を元にした映画も悪くないなと思う。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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