コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第51回
2023年3月13日更新
第95回アカデミー賞雑感。A24が席巻したオスカーナイト
3月13日(日本時間)、第95回アカデミー賞授賞式が行われました。昨年に続いてドルビーシアターにフルキャパのゲストを招いての開催です。
私も、例年にならいWOWOWの同時通訳つき中継で見守っていました。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が本命視され、対抗馬不在というオスカーレースでしたが、終わってみれば完全に下馬評通り。「作品賞」「監督賞」「主演女優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」「オリジナル脚本賞」「編集賞」という7部門での受賞は出来すぎという印象もありますが、それだけ賞レースでの勢いが強かった証でしょう。
この「エブエブ」の7部門に加え、「ザ・ホエール」が主演男優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞の2冠。つまり、「A24」が9個のオスカーをゲットしたということになります。A24はニューヨークを拠点とするスタジオで、2016年に「ルーム」(主演女優賞)、「AMY エイミー」(長編ドキュメンタリー映画賞)、「エクス・マキナ」(視覚効果賞)でオスカーを受賞して注目を浴びました。そして、翌2017年には「ムーンライト」で作品賞ほか2部門で受賞しています。エッジの効いた映画をAランクの映画祭でデビューさせ、その後各国の映画祭を渡り歩いて評価を固め、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞で大きな成果に結びつけるというのが得意なスタジオです。
2022年のSXSW映画祭のオープニングを飾ったのが「エブエブ」の快進撃の始まりで、この映画祭はオスカーとはそれほど深い関連性がないはずでした。しかし、その後の躍進は驚異的で、ミシェル・ヨーやキー・ホイ・クァンなどアジア人俳優の活躍という話題もあって、映画.comでも何度もニュースにしてきました。オスカー直結の確率が高いトロント映画祭の観客賞「フェイブルマンズ」がひとつも受賞できなかったのと対象的でした。
今回、ハリウッドの老舗映画スタジオのオスカーは、ディズニーが2個(「ブラックパンサー」「アバター」各1)、パラマウントが1個(「トップガン」)、ユニバーサルが1個(「ウーマン・トーキング」)という寂しいもの。Netflixは「西部戦線異状なし」などで合計7個と面目躍如の部類です。
そのNetflix案件で、もっとも授賞式を沸かせたのは「RRR」の「ナートゥ・ナートゥ」のライブパフォーマンスと主題歌賞受賞でしょう。「RRR」は北米では劇場公開後速やかにNetflixで配信され、大人気となりました。アカデミー賞でインド映画が主題歌賞を受賞するのは史上初めての快挙です。ただし、国際長編映画賞のインド代表からは漏れていて(「エンドロールのつづき」が代表)、もしも「RRR」がこの部門にエントリーされていたら、「西部戦線異状なし」といい勝負を繰り広げたかもしれません。
ここ数年を思い起こせば、第92回でオスカーを席巻した「パラサイト 半地下の家族」は韓国映画だし、93回の「ノマドランド」は中国人女性が監督でした。今回、アジア系キャスト・スタッフ大活躍&ニューヨークのスタジオA24の躍進ということで、アカデミー賞にはややアンチハリウッド的な傾向があるなと感じます。
昨年、第94回はワーナー・ブラザースが「DUNE デューン」など7部門、ディズニーが6部門などを受賞していて、この傾向には当てはまらないとも言えますが、作品賞など主要なところはアップルTV+の「コーダ あいのうた」でしたしね。
個人的には、先の「RRR」の主題歌賞と、「ナワリヌイ」の長編ドキュメンタリー賞がツボでした。両作品ともに、昨年の個人的ベスト10に選んだ映画なので、受賞はとても嬉しかったですね。アレクセイ・ナワリヌイは引き続きロシア国内で収監されていてるので、この受賞については知らされないでしょう。しかし、妻のユリヤが受賞スピーチで元気な姿を見せていたのがとても印象に残っています。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi