コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第39回
2021年3月12日更新
映画.comオールタイムベスト1200を2021年版に更新した件
昨年(2020年)の4月末、折からのコロナ禍で外出もままならなくなった状況を活用して、「映画.comオールタイムベスト1200」と銘打って、映画.com関係者が選ぶ名作映画を1200本セレクトしました。これがなかなか好評で、とくに最初の緊急事態宣言で映画館が営業を停止していた時期など、「配信で映画を見る際に、この1200本から選んでます」とか「気になっていたけど見逃していた映画が、追っかけで鑑賞する価値があるのかどうか分かってありがたい」など、ご自宅での鑑賞の際の作品選びに重宝いただいたようです。
そもそもこの1200本のリストは、毎年更新する前提で作りました。リリースから1年が経ちましたので、2020年に公開・配信された映画から新たに10本を選出し、2021年版としましたので、そのご紹介です。
追加した10作品は以下の通りです。日本での公開順に並べてみましょう。
「フォードvsフェラーリ」 1月10日公開「何で今さら60年代のル・マンを?」って思いましたよ。1966年のル・マン24時間レースで、常勝チームのフェラーリに挑んだフォード・チームの奮闘を描いた作品。監督は「LOGAN ローガン」のジェームズ・マンゴールド。レースのシーンがド迫力で、アカデミー賞では音響賞と編集賞を受賞しました。
「ジョジョ・ラビット」 1月17日公開SSに憧れ、ヒトラーユーゲントに加入したドイツ人少年の視点から描かれた珍しいホロコースト映画。2020年のオスカーレースを牽引しました(6部門ノミネート、脚色賞受賞)。監督でもあるタイカ・ワイティティが演じる少年のイマジナリーフレンド(=ヒトラー)が印象的でした。
「1917 命をかけた伝令」 2月14日公開第1次大戦下のフランス戦線を舞台に、重大な指令を前線の司令官に届けるミッションを担ったイギリス軍の若き兵士の決死の行程を、ワンカット撮影で描くというもの凄くチャレンジングな企画。オスカー常連のサム・メンデス監督と、名撮影監督ロジャー・ディーキンスが見事な仕事を成し遂げました。オスカー3部門で受賞。
「在りし日の歌」 4月3日公開これは渋いヤツですね。本編はちょっと長いんですけど、中国の近代(1980年代から2000年ぐらい)における一般大衆の生活がヴィヴィッドに描かれていてとても珍しい。あと、映画に対する検閲のレベルも分かります。タブー視される一人っ子政策について、どこまで描くことが許されるか。「これ、中国で上映してOKなんだ?」って意外性のあるシーンがけっこう多くて、ちょっとドキドキしましたよ。
「ストーリーオブマイライフ わたしの若草物語」 6月12日公開こちらもオスカー案件(6部門ノミネート、1部門受賞)で、当初3月27日公開予定でしたが、折からのコロナ禍で6月公開になりました。「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグ監督が、シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメら豪華キャストを集めました。コロナがなかったら、もっともっと稼げた1本ですね。
「はちどり」 6月20日公開2020年公開の韓国映画といえば、オスカー作品賞に輝いた「パラサイト 半地下の家族」が真っ先に思い浮かびますが、この「はちどり」もまた高い評価を得た1本です。個人的な記憶としては、私も参加した日刊スポーツ映画大賞の選考会で、最優秀外国映画賞を決める際に、5本のノミネート作品から「はちどり」と「パラサイト」の2本が決選投票となり、「はちどり」が受賞作に決まったことですね。
「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」 8月21日公開2020年の青春映画のナンバーワンだと思います。ガリ勉女子高生2人が卒業式直前に「遊びまくってるクラスメートたちが、軒並み有名大学に合格している事実」を知り、「私たちももっと遊ばなくちゃ」と決心し、色んなパーティーをハシゴして、色んな経験をする話。しかしLAの高校生は、本当に楽しそうで羨ましいぞ。
「TENET テネット」 9月18日公開クリストファー・ノーラン監督が、「みんな映画館に戻って来い! すごいヤツ見せてあげるから」って感じでスタジオの反対を押し切って、アメリカを除く世界中で強行公開した1本。映画は本当に凄かったけど、ちゃんと理解できませんでした。「試写室日記」の細野真宏さんが書いたネタバレ解説がめっちゃバズって楽しかったですね。
「Mank マンク」 11月20日よりNetflixで配信これは、渋いNetflix案件ですね。オスカーにも絡むかも知れない。80年前のオーソン・ウェルズの名作「市民ケーン」製作の裏側を描く1本。「マンク」というのは、「市民ケーン」の脚本家、ハーマン・J・マンキウィッツの愛称です。監督はデビッド・フィンチャーですが、彼の亡くなった父ジャック・フィンチャーの遺稿を映画化しています。何という親孝行。
「燃ゆる女の肖像」 12月4日公開このフランス映画も素晴らしかったですね。2019年のカンヌ映画祭でも話題になっていました。孤島に住む貴婦人の娘と、その娘の肖像画を描くために島にやって来る女流画家の交流。昔のヨーロッパでは、肖像画が見合い写真の役割を果たしていたんですね。ラストシーンに痺れました。
以上が、新たに加わる10本です。入れ替わりに、10本をリストから除外しました。なお「パラサイト 半地下の家族」は、昨年すでに入れています。改めてふり返ってみると、10本の中に日本映画が1本もないことに気づきます。アニメも1本もありません。ちょっと意外。選考の過程で「鬼滅の刃」どうするよって議論はありましたが。また、「続・ボラット」が選考スタッフ内であんまり人気がないのは個人的に残念でした。ゴールデングローブ賞では3部門ノミネートされたのに。
いずれにせよ、2020年は劇場公開された映画の本数が例年に比べだいぶ少なかったため、10本を選考するプロセスではあまりモメませんでした。ほんの少しだけ更新された、映画.comオールタイムベスト1200を、引き続きご活用いただければ幸いです。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi