コラム:細野真宏の試写室日記 - 第92回

2020年9月23日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


試写室日記 第92回 アカデミー賞最多ノミネートは確実?「TENET テネット」をネタバレありで徹底解説!<1>

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9月18日(金)からハリウッドの復活をかけた超大作映画「TENET テネット」が公開され、早くも公開5日で興行収入7億5299万6550円億円を記録し、目標興行収入20億円が視野に入ってきています!

さらには、上手くいけば1年前の「ジョーカー」のような社会現象的なブームが起こるかもしれません。

そこで、口コミとリピーターの存在が重要になりますが、実際に見た観客からは圧倒的に「難しい」といった声が多いようです。

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その結果、初回を見た人は以下の3つの層に大きく分かれているようです。

「1.分かるようになるために何度も映画館で見たい」
「2.ネタバレ解説を読んで、仕組みを理解してから映画館でもう一度チャレンジしたい」
「3.理解して楽しむのは無理そうなので諦める」

この3つのパターンは人柄がよく表れていて、どれが正解というわけではないのでしょう。

ただ私から言えることは、この「TENET テネット」という作品については、かなり考え尽くされた映画なので、「3.理解して楽しむのは無理そうなので諦める」はもったいないと思います。

あえて分かりやすく言えば、今回のアカデミー賞では、音響や撮影などの技術的な部門だけではなく、「脚本賞」のノミネートは確実と思えるほど良く出来ています!

配給元としては、「アカデミー賞の審査委員たちに、脚本の内容を完璧に理解してもらえるようなロビー活動」が必要だと思います。

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そこで今回は、「2.ネタバレ解説を読んで、仕組みを理解してから映画館でもう一度チャレンジしたい」と「3.理解して楽しむのは無理そうなので諦める」の“一番多いと思われる層”に向けて、「TENET テネット」という作品を最大限に楽しめる仕組みを徹底的に説明したいと思います。

ただ、「2.ネタバレ解説を読んで、仕組みを理解してから映画館でもう一度チャレンジしたい」のタイプでも幾つか種類があり、どの程度のネタバレを知りたいのか、が分かれます。

そのため、ここでは3段階でネタバレ解説をしようと思います。

1時限目は、「映画内で紹介されている仕組み」の確認です。

2時限目は、「登場人物の紹介と役割」の整理です。

3時限目は、「ストーリーの全貌」の解説です。

何時限目まで読むのかは「各自の状況」に合わせてください。(全部で3時限までの講義とします)

なお、物理的な解説部分は、どうやらパンフレットで解説されているよう(公開から4日目と5日目に映画館の売店を覗いても両日とも売切れだったのでまだ確認はできていません)なので、パンフレットの売り上げ貢献のため、ここでは物理的な解説は、できるだけ簡潔にしておきます。

では、1時限目は、「映画内で紹介されている仕組み」から確認しておきましょう。

●最初の方で出てくる「研究所にあった遺物」とは?

未来から送られてきた「逆行する弾丸」を含む様々な残骸のこと。来るべき戦争に備えるためのもので、未来からのメッセージのようなものです。

●「TENET」 とは?

人類を滅亡から救うために作り上げた作戦のコードネーム。(「TENET」 という言葉は直訳すると「主義」「信条」「原則」といった意味になります。この言葉の由来には、クリストファー・ノーランらしい幾つかの遊び的な意味【「ラテン語による回文」や「10分(TEN)」にかけたもの等】もありますが、それは知らなくても物語を理解する上では関係ないです)

●「スタルスク 12」とは?

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ロシア人の悪役「セイター」の出身地で「シベリアの架空の都市」。ソビエト連邦が建設した軍事・研究施設が並ぶ「閉鎖された都市」であり地図にも載っていません。放射能により、人が近づけない廃墟という設定です。(これは大まかに「チェルノブイリ」辺りをイメージしているのかと思われます)

●「時間逆行装置」とは?

これが一番のカギとなるものです。

未来から送られてきた「時間逆行の装置」で、これが現在の「オスロ空港の倉庫」や「スタルスク12にある基地」など、いくつかの場所に存在しています。

これを使えば、未来から「時間逆行」をして、未来の「逆行する弾丸」などを現在に持ち込めます。

また、未来から「時間逆行」をすれば、「未来の人」さえも現在に移動できるわけです。

●「時間逆行装置」のルールとは?

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時間が逆行している時に「時間逆行装置」から外に出て「自分が逆行する」際には、次の現象に注意する必要があります。

・外界の、あらゆるものが逆行するので、空気を肺に取り込めないため「酸素ボンベ」が必要となる。

・例えば熱は、逆行すると、火は(熱量が逆行することで)氷に変化する。

・「防御スーツ」を着用せずに(過去の)自分と直に触れ合ってはいけない。「粒子の対消滅」が起きて自分が消滅してしまうから。

ただし、「時間逆行装置」で過去に戻り、その後で普通に(逆行をしない状態で)外に出れば、時間は順行する(時間等は前に流れる)ので、酸素ボンベ等は不要になります。

●「時間逆行装置」と、「回転ドア」が置いてある「部屋」の特徴とは?

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「時間逆行装置」は「回転ドア形式」になっていて、「順行」(時間が前に進む)と「逆行」(時間が逆に進む)のそれぞれの部屋があります。

そして、「時間逆行装置」が置いてある「順行」と「逆行」の2つの部屋はセットになっていて、「ガラスで仕切られた2部屋」という形になっています。

「赤い部屋」は時間が「順行」している部屋であることを示しています。

「青い部屋」は時間が「逆行」している部屋であることを示しています。

そして、「赤い部屋」では、通常の酸素が流れています。

また、「青い部屋」では、逆行する酸素が流れています。
(赤が「順行」で、青が「逆行」。この覚え方は、熱を思い出せば良いと思います。「順行」の時は火は「赤」です。一方「逆行」の時は熱量が逆行し氷の「青」に変わります)

●「時間の逆行」と「タイムトラベル」は同じもの?

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結論から言うと違うものです。

「タイムトラベル」は「ドラえもん」の「タイムマシン」の世界で、「わずかな時間で昔などにジャンプができる」のです。

一方の「時間の逆行」は、「時間のジャンプができない」のです。

つまり、1年前の過去に逆行するためには、同じ1年間という時間が必要となって、順行と同じ時間をかけて逆行していきます。

そのため、1年間の逆行をしても1年分が若くなるわけではなく、あくまで普通に1才分の年齢が上がることになります。

●「アルゴリズム」とは?

9個に分割された世界を破滅に導くための道具を操る“手順”。ロシア人の悪役「セイター」は9個の道具をすべて集めようとしていて、メインとなった「プルトニウム241」の争奪戦は、その最後のピースでした。

「セイター」は、この未来の破壊兵器で、時間の流れ自体を逆行させることによって、今ある地球上のすべての生物を消し去ることを目論んでいます。

>2時限目「登場人物の紹介と役割」へ

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来14年連続で完売を記録している『家計ノート2024』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2024年版では「物価高騰時代にお金を増やす方法」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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