コラム:細野真宏の試写室日記 - 第78回

2020年6月22日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


第78回 試写室日記 【番外編】残念な映画のお金事情―この3年で「100億円以上の損失」を記録した映画ランキング:第3回

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映画は大ヒットすれば大きな利益が得られますが、逆にコケてしまうと大きな損失が出てしまいます。

この「光と影の関係」を考える上での詳細なデータがハリウッドのDeadlineで出たので、それを基に今回はコケた作品と損失額を紹介していきます。

そもそも「映画の損失とは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きな収入として劇場公開で得られる「興行収入」があります。

そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。

その一方で、映画には作るための「制作費」がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかります。通常は、この「制作費」と「P&A費」を合わせて「製作費」と呼びます。

大まかには、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」や「損失」となるわけです。

【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】

まずは、損失が100億円を超えた第5位から紹介します。

実は、このワースト5から、いくつか興味深い現象も見えてくるのです。

≫第1回(第15位~第11位)はこちら
≫第2回(第10位~第6位)はこちら


●第5位 「モンスタートラック」 損失額1億2310万ドル (123億1000万円規模)

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この作品は、知らない人がほとんどだと思いますが、それもそのはずで、日本では劇場未公開だからです。

制作費は1億2500万ドル(125億円規模)と、それなりの大作映画ですが、世界興行収入は6449万ドル(64億4900万円規模)と、制作費の半分程度で終わっています。

私は本編を見ていませんが、確かに予告編を見てみると、この作品については日本でもコケそうな雰囲気が充満していました。

日本で劇場公開をせずにDVDスルーにすると、その分、P&A費が節約できる面もあるのです。

本作の全世界でのP&A費は4500万ドル(45億円規模)ほどであり、最終的な損失額は1億2310万ドル(123億1000万円規模)と、ほぼ制作費ぶんがまるまるの赤字になってしまいました。

●第4位 「リンクル・イン・タイム」 損失額1億3060万ドル (130億6000万円規模)

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この作品は、ディズニー映画なのですが、これも知らない人が多いのではないでしょうか。

実は、本作も日本では劇場未公開作品なのです。

「五次元世界のぼうけん」という小説の実写映画化作品なのですが、こちらも予告編を見ると、ディズニー作品でありながら日本では流行らなそうな雰囲気でした。

それでも最大マーケットのアメリカなどでは勝負をかけ、制作費1億2500万ドル(125億円規模)に対して、P&A費に同額の1億2500万ドル(125億円規模)も費やしています。

その結果、世界興行収入は1億3267万ドル(132億6700万円規模)と、ギリギリ制作費を上回ることはできました。

とは言え、P&A費がかかり過ぎて、最終的な損失額は1億3060万ドル(130億6000万円規模)と、制作費が同じだった5位の「モンスタートラック」に負けてしまいました。

●第3位 「X-MEN ダーク・フェニックス」 損失額1億3300万ドル (133億円規模)

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この作品は、20世紀FOXの配給作品として最後の「X-MEN」シリーズとなりましたが、製作した20世紀FOX映画をディズニーが買収した影響などを受けた背景もありました。

まず、本作以降の「X-MEN」シリーズの製作は、同じくディズニーが買収したマーベル・スタジオが担当することになりました。

本作は、当初は2部作として考えられていたのですが、急きょ1作品でまとめる必要が出ました。

その辺りが大きく影響しているのは、例えば敵役にはジェシカ・チャステインという大物キャストを用意したのに、何だか中途半端な敵役で全く深みなどが欠けていました。

そして、ラストも「アベンジャーズ」シリーズ(MCU)と似た作りになっているとして撮り直しが必要になり、結果的に、あのような中途半端なラストになってしまったようです。

このような無理くりな状況下で作ったこともあり、本作の映画としての評価はとても低くなってしまっています。

とは言え、個別のアクションシーンなどは良く撮れていたりと、私は(経緯を踏まえたからなのか)そこまで酷い作品だとは思っていません。

さて、このような経緯もあり、本作の制作費は2億ドル(200億円規模)と、かなり巨額になってしまいました。

そして、世界興行収入は2億5244万ドル(252億4400万円規模)と制作費を上回ることはできました。

ただ、制作費が高騰したことやP&A費の9000万ドル(90億円規模)もあり、最終的な損失額は1億3300万ドル(133億円規模)という結果になってしまいました。

●第2位 「キング・アーサー」 損失額1億5320万ドル (153億2000万円規模)

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これまで何度か映画化されている「キング・アーサー」ですが、この作品は、原題が「King Arthur Legend of the Sword」と聖剣エクスカリバーに重きを置いたものになっていたので、邦題は当初「キング・アーサー 聖剣無双」といった感じで差別化されていました。ところが別の問題が生じて、最終的には普通に「キング・アーサー」となりました。

本作の監督は「ロバート・ダウニー・Jr」×「ジュード・ロウ」の共演で話題となった名作「シャーロック・ホームズ」シリーズを成功に導いたガイ・リッチーで、同作と同じワーナー配給作品です。

どうやら本作は「全6部作」という壮大な構想のシリーズの第1作目として製作されたようなのです。

そのため、深掘りし過ぎたのか、なかなか入り込みにくい作品で、多額な制作費のおかげでアクションシーンは派手でしたが、どうして映像化したのかさえ分かりにくい、「優れた点を見つけるのが困難な作品」になっていました。

その結果、アメリカでも期待外れの結果となり、日本でも興行収入は 3億700万円程度しか稼ぐことができませんでした。

制作費が1億7500万ドル(175億円規模)と、それなりに力を入れた大作映画でしたが、世界興行収入は1億4867万ドル(148億6700万円規模)となり、制作費さえも下回ってしまいました。

さらにはP&A費の7300万ドル(73億円規模)もあり、最終的な損失額は1億5320万ドル(153億2000万円規模)という非常に残念な結果で終わりました。

当然のことながら、当初のシリーズ化構想は消滅しました。

ただ、やはり映画の世界が面白いのは、通常の世界では、ここまでの赤字を出してしまえば、ガイ・リッチー監督の信頼は下がって今後が厳しくなるはずですよね。

ところがガイ・リッチー監督は、次はディズニーで「アラジン」を監督し、世界的に大ヒットを記録し、見事に返り咲いているのです!

このように映画会社は複数あるので、本当に才能があれば復活のチャンスは意外とあるものなのです。

●第1位 「移動都市 モータル・エンジン」 損失額1億7480万ドル (174億8000万円規模)

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この作品は、知っている人もいるでしょうが、知らない人も意外と多いと思います。それには興味深い経済合理性が関係しているのです。

まず、この映画は、あの「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督が脚本や製作で参加し、監督はピーター・ジャクソンの愛弟子クリスチャン・リヴァースで、本作で長編映画初監督を果たしました。

原作は、世界を60分で崩壊させた戦争によって人々は「都市ごと移動する」という大掛かりな設定で、その「移動都市」に乗りながら人間が荒廃した土地に資源を求めていく数百年後を描くSF小説「移動都市」シリーズ4部作の第1作目を映像化しています。

私は、この映画のプロジェクトを知った時に、これは注目すべき大作が出てくるのだな、と思っていましたが、日本では知らない人も多いかと思われます。

それは、まず2018年12月14日という勝負作が公開される時期のアメリカで大規模に公開されましたが、P&A費は1億2000万ドル(120億円規模)と、制作費の1億1000万ドル(110億円規模)を上回る異例なまでの宣伝費を使って勝負に出ました。

ところが、やはり作品の出来が良くなかった面は否定できず、興行的には盛り上がらずに終わってしまったのです。

日本でも2019年3月1日という、勝負作が公開される時期に公開されたのですが、配給元の東宝東和の采配で小規模公開になったのでした。

私は、当初、本作の日本での公開規模を知った時に「なぜこの超大作映画を小規模公開に?」と不思議に思いましたが、この判断は「これ以上、傷口を広げないためにも必要な措置」だったのでしょう。

そのため、日本では本作の存在を知られていない確率が高くなっているわけです。

このような日本での的確な対応などもありましたが、世界興行収入は8318万ドル(83億1800万円規模)となり、制作費1億1000万ドル(110億円規模)さえも下回りました。

これらの結果、最終的な損失額は1億7480万ドル(174億8000万円規模)という、制作費を大きく上回る結果に終わりました。

個人的に残念なのは、ピーター・ジャクソン監督は、本作では監督はしていないものの、「ロード・オブ・ザ・リング」以降は、それほど目を見張るほどの結果を出せていないことです。

才能ある監督だと思うので、何かしらの大作映画で復活してほしいと思っています。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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