コラム:細野真宏の試写室日記 - 第53回

2020年1月7日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第53回 試写室日記 「パラサイト 半地下の家族」。映画は国境の壁を超えられるのか、アカデミー賞確実の非常に出来の良い作品の日本での行方は?

2019年12月13日@京橋テアトル試写室  配給元:ビターズ・エンド

やはり、ここ数年の「カンヌ国際映画祭」は変わってきた気がします。

かつては、「カンヌ国際映画祭」で受賞した作品であっても、実際に見てみると「あれ?」という感じの作品が少なからずありました。

ところが、前回の2018年あたりから変化の兆しがみられる気がしています。2018年の「パルムドール」(最高賞)を受賞し、日本でも大いに話題となり興行収入45.5億円を記録した是枝裕和監督の「万引き家族」に続き、2019年にパルムドールを受賞したのがポン・ジュノ監督の本作「パラサイト 半地下の家族」なのです。そして、どちらも、過去の「カンヌ国際映画祭」らしからぬ(?)作品で、非常に良く出来ていて、面白いのです。

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私は、是枝裕和監督作品については、日本の興行収入で無視され続けている時も、(もちろん作品の出来次第ですが)一貫して絶賛してきました。その一方で、私はポン・ジュノ監督作品についての日本での興行収入については、割と妥当だと思っていました。

そこで、まずは日本ではそれほど馴染みが無いような気がするポン・ジュノ監督作品について紹介していきます。

ポン・ジュノ監督の名前が出始めたのは、2003年の「殺人の追憶」。韓国で大ヒットを記録し、アカデミー賞の韓国版にあたる「大鐘賞」で作品賞と監督賞と、(「パラサイト 半地下の家族」でも主演を務める)ソン・ガンホが主演男優賞を受賞しました。確かにこの作品は割と良く出来ていましたが、シリアス路線だったこともあり日本での興行はパッとしないものでした。

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そして、2006年の「グエムル 漢江の怪物」は、韓国の観客動員数が過去最高を記録し、“CGを駆使した良く出来た怪物もの映画”と、かなり前評判は高かったのですが、私には「なんちゃってハリウッド映画」のようにしか見えずに、やはり日本での興行はパッとしませんでした。

次の代表作は2009年のウォンビン主演の「母なる証明」で、この作品については私は割と気に入っていてブルーレイディスクも持っていますが、おそらく多くの人は知らないであろう作品の部類で、こちらも日本での興行はパッとしないものでした。

そして次が、2013年の韓国・アメリカ・フランスの合作で「初めての英語作品」であり製作費も高いSFアクション・スリラー映画の「スノーピアサー」で、「アベンジャーズ」シリーズで有名なクリス・エヴァンスを筆頭に、ティルダ・スウィントンオクタヴィア・スペンサーといったアカデミー賞受賞陣も出演した大作でしたが、日本の週末動員ランキングではベスト10にも入れず、興行収入も1億円にさえ届かない8900万円で終わってしまいました。

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といった感じで、私には「ポン・ジュノ監督作品」と言われても、それほどテンションが上がらない理由はあったのです。なので、あえて期待をせずに「パラサイト 半地下の家族」を見てみましたが、正直、かなり驚きました。

本作「パラサイト 半地下の家族」に関しては、文句なくアカデミー賞級の傑作です!

ようやくポン・ジュノ監督が覚醒をしたようで、過去の作品では、あまり感じられなかったユーモアを取り入れつつ、しかも、これまでの社会派という立ち位置は変えずに、リアリティもある作品でした。

本作は、ポン・ジュノ監督も呼び掛けているように、「ネタバレ厳禁」な作品で、しかも、この作品に関しては、一切の予備知識は要らないと思います。

私が本作を一言で評価すると、「社会派エンターテインメントであり、リアリティを持ちながら無理なく自然とストーリーが進むのに、展開の振り幅が大き過ぎる奇跡的な作品」という感じでしょうか。

作品のポテンシャルとしては、アカデミー賞の「国際長編映画賞」(昨年までは「外国語映画賞」という名前で、今年から名称変更)の受賞は確実だと思われます。

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それにしても、本作での発見は、タイトルにもあるように、「半地下」という住宅の存在です。

本作を見るまでは知らなかったのですが、実は韓国に限らず、日本でもそういう作りの賃貸住宅はあるのですね。

日本においても、家賃が安いのが魅力のようです。

さて、本作「パラサイト 半地下の家族」の興行収入ですが、どうも配給元は相当に高い興行収入を期待しているらしいのですが、私は15億円くらい行ければ十分すぎるほどの成功だと思っています。

本作は、今週の1月10日(金)より全国ロードショーですが、12月27日(金)からTOHOシネマズの日比谷と梅田の2館で先行上映が行なわれていて、前評判を受け割と順調に推移しているようです。

作品の出来が非常に良いのは確かなので、これからアカデミー賞のノミネート、授賞式など盛り上がるタイミングがあるため、果たしてどのくらいまで本作の面白さが一般の人たちに広がっていけるのか興味深いものがあります。

とは言え、日本と韓国は決して国の関係性が良好ではないため、作品の出来とは関係なく、国籍だけで避けてしまう層も確実にいるとは思います。

ただ、私は、エンターテインメント作品については、あくまで「作品の出来」で判断すべきだ、という立場です。

この先、国の関係性はトップの交代などによっても変化していくでしょうし、ずっと関係性が良くない、というのは、決して経済的にも良いことではありません。

私は、それぞれの国民がエンターテインメントの世界で評価し合い、そうした私たちの一歩で世論にも確実に変化が起こっていくものだと信じています。

この国境を超える力こそが、エンターテインメントの最大の力だと思っています。

そういった意味からも、是非、アカデミー賞級の非常に出来の良い作品を、気軽に体験して楽しんでほしいと願っています。

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筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来14年連続で完売を記録している『家計ノート2024』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2024年版では「物価高騰時代にお金を増やす方法」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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