コラム:細野真宏の試写室日記 - 第51回

2019年12月24日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第51回「男はつらいよ お帰り寅さん」。日本の映画の興行収入が歴代1位となった記念すべき年に50周年。そして、新たなる希望

2019年12月5日@松竹試写室

今年2019年は、1月の第18回で想定したように日本では「歴代最高の興行収入」を更新することになりました。

そんな記念すべき年の最後の週末12月27日(金)から公開されるのに相応しい作品が、本作「男はつらいよ お帰り寅さん」だと思います。

今から50年前の1969年に第1作目の「男はつらいよ」が公開され、本作でちょうど第50作目となる「男はつらいよ」シリーズ。

もちろん、作品名を聞いたことのない人は少ないとは思いますが、実際に映画を見たことのない人は意外と多いのかもしれません。

それは、1996年に「寅さん役の主演・渥美清さんの死去」という残念な状況になってしまったため、1997年の第49作目「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」をもって製作がとまっていたからです。

そんな「男はつらいよ」シリーズですが、生みの親である山田洋次監督によって「50周年で第50作目」となる記念すべきタイミングで遂に新作が誕生しました!

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私の中での山田洋次監督のイメージは、クリント・イーストウッド監督のように毎年名作を生み出し続ける特別な存在で、作品では近年の、第76回アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされた「たそがれ清兵衛」、興行収入41.1億円を記録した「武士の一分」、吉永小百合主演作「母べえ」「おとうと」「母と暮せば」、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した「小さいおうち」などがすぐに頭に思い浮かびます。

ただ、本作「男はつらいよ お帰り寅さん」は、巨匠・山田洋次監督の「88作目の監督作」で、「男はつらいよ」の50作目なので、1961年の監督デビュー以来、「男はつらいよ」以外では38本作っていることを意味します。つまり山田洋次監督は、監督作の優に半数以上が「男はつらいよ」と共にあったのだ、ということを今さらながら知り、驚きました。

そんな巨匠が半生を費やした作品であったにもかかわらず、実は、私はこれまで「男はつらいよ」を見たことがなく、本作「男はつらいよ お帰り寅さん」で「男はつらいよ」デビューとなったのです。

マスコミ試写会は、比較的早く9月には回っていましたが、私は最後から2番目の回に見てみました。

噂では聞いていましたが、当日も人が殺到し試写室は早い段階で満席となりました。

そして上映が始まり、熱気に包まれた会場からは暖かい笑いが度々起こり、エンディングが終わった時に拍手まで起こっていました。

マスコミ試写会は、初期の方だと関係者もいたりして形式的な拍手はたまに起こったりしますが、今回の拍手は自然発生的だったと思います。

往年の「男はつらいよ」ファンは、寅さんの大ファンであるサザンオールスターズ桑田佳祐さんが最初にテーマ曲を歌うことに少し抵抗もあるようですが、私のような新規の人間には世界観が広がって面白い試みだと思えました。

物語の舞台は「現代」で、吉岡秀隆氏が扮する小説家になった「満男」を軸に描かれていて、回想シーンなどで「寅さん」が登場しますが、「“渥美清”という俳優は国民から愛されるような良い役者だったんだなぁ」としみじみ感じさせてくれます。

さすがは、「一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズ」としてギネスブックにて世界記録を認定されただけのことはありますね。

もちろん本作も面白いのですが、回想シーンで出てくる「男はつらいよ」シリーズの数々の名シーンを見て、「男はつらいよ」というのは実はこんなに面白い作品だったのか、と気付かされました。

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かつての日本では、年末年始にお参りの後に「男はつらいよ」を見に行くというのが恒例行事になっていたようですが、それにも納得でした。

ちなみに、興行収入は、前作の49作品までの累計で900億円を記録しています!

そして、この「男はつらいよ」シリーズは、ちょうど50年前の1969年から2000年の前までの「ありのままの日本の姿」を映し出している、というのは、実は経済的な視点からも大きな意味があると思います。

それは、日本では1991年の「バブル崩壊」によって「失われた20年」やら「失われた30年」といったような悲観的なイメージワードで語られることが多いのですが、実際に「今」と「当時」を比較して見てみると、現在の凄まじい利便性などの進化の「現実」を実感できるからです。

これらは「タイムマシーン」があれば簡単なのですが、現実では不可能ですよね。でも、まさに「男はつらいよ」シリーズの原風景は、そんな「タイムマシーン」のような意味合いもあるのです。

さらに、この“奇跡的な作品”を完成に導いたのは、技術革新によって生まれた「4Kデジタル」による修復作業で、「現在の登場人物」と「寅さん」が見事に同化しているのです!
 同時に、これまでの「男はつらいよ」シリーズ全作が「4Kデジタル」により修復され蘇りました。

このところ、映画(DVD・ブルーレイ) の人気ランキング(価格.com)で、寅さんのトランクを模したケースに入っている「男はつらいよ 50周年記念 復刻“寅んく”4Kデジタル修復版ブルーレイ全巻ボックス」がずっと上位にいることからも、「男はつらいよ」シリーズの底堅い人気を感じています。

本作の「ラストシーン」を見ると、かつての名作が現在に復活したこともあって、とても感慨深いものがあります。

おそらく山田洋次監督は、これが遺作となっても悔いなし、といった作品なんだと思いました。

今年は日本で「映画の興行収入が歴代最高を記録した年」になりましたが、この先も映画業界が成長していくためには、新たな観客が増えていくことも重要な課題としてあります。
 そんなこともあってか、本作「男はつらいよ お帰り寅さん」は、松竹系のシネコン(SMT)やユナイテッド・シネマ系列、109シネマズ系列などでは、公開日の12月27日から2020年3月31日まで(1月9日までの映画館もあるようなのでホームページなどで確認を)、中学生以下の観客は「100円」(税込)で見られるようにしているのです!

こういった試みは、未来への投資でもあって希望が持てて良いですね。

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ちなみに、これまでの「男はつらいよ」シリーズでは、今なお活躍し続けている錚々たる女優陣が登場していますが、回想シーンで私が一番驚いたのは、寅さんの妹役の「さくら」を演じる倍賞千恵子さんの美しさです。

これまでは、昔の美人というと、今の「美」の基準とズレることが多い印象がありますが、「さくら」は、現在の女優として登場しても存在感と美しさがあって、今でも大人気になると思えたほどでした。

他にも、吉永小百合さんはずっと変わらないイメージがありましたが、さすがに寅さんの時と比べると変化を感じられたりと、妙な安心感もありました。

などなど、いろんな発見があるのも、この“50年”という日本映画史的な貴重な歴史の重みでしょうか。

さて、肝心の興行収入ですが、「中学生以下100円」といった画期的な未来への投資を含めて考察が難しい面もあります。とは言え、作品自体の出来はとても良いので、まずは興行収入10億円を突破すると同時に、過去作の「男はつらいよ 50周年記念 復刻“寅んく”4Kデジタル修復版ブルーレイ全巻ボックス」などの売り上げも含めて、「男はつらいよ」という名作を見事に蘇らせてほしいと思っています。

そして、往年のファンから子供らへの継承なども合わせて、新たな映画ファンを生み出し、この先も映画業界が成長していくことを期待したいところです。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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