コラム:細野真宏の試写室日記 - 第28回
2019年5月15日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第28回 「コンフィデンスマンJP ロマンス編」。ドラマ視聴率と映画の興行収入はどこまで連動性があるのか?
2019年5月7日@東宝試写室
まずは「10連休」の個人的なまとめから。やはり通常のGWより映画業界には圧倒的にプラスで、切れ間がないのが良かったですね。例えば「年末年始」も似たような構造ですが、多くの人たちは年末年始は「紅白歌合戦」を見る、年末年始の挨拶をする、など決まりごとのような習慣があり「切れ間」が生じてしまうのです。その一方で「10連休」というのは、文字通り束縛を感じない10日間なので人々の行動に制約は起こらず、人と映画の関係はほぼ変わらず一定を保ち続け「毎日が好調のまま」でした。
その結果、まず「名探偵コナン 紺青の拳」ですが、公開前の4月10日に考えていたように「公開日」と「10連休」が最大のポイントだったので、どちらも最高の支援要素となって、興行収入は「10連休」後に一気に75億円を超えるという結果になりました。
個人的には「10連休」に入る直前の4月26日に日本テレビが、出来が過去最高だった前作「名探偵コナン ゼロの執行人」を金曜ロードSHOW!で放送したのもかなり大きく、これで新規の観客が獲得できたと分析しています。今作品の出来は、前作に劣る面があるので最終的な興行収入まではまだ楽観できませんが、これだけの好条件が理想的に作用した結果、過去最高だった前作の91.8億円を超えてくれるのか注目ですね。
同様に、「10連休」の注目作品だった「アベンジャーズ エンドゲーム」ですが、これも絶好調な結果を出しています。この作品が日本でどうなるのか非常に読みにくかったのは、日本では、これまでの関連作品の興行収入が最高でも30億円台だったこと。そして、本作を見るうえでも重要な「キャプテン・マーベル」の興行収入が20億円規模だったこと。しかもシリーズの大きな「終わり」のため、今作は「前作」どころか「全作」を見ていないと本当の意味で最大限に楽しむことができないというハードルの高さがあったからです。
ただ、これもやはりテレビの援護射撃がかなり効いたと思っていて、まずテレビ朝日が4月27日に第1作目の「アベンジャーズ」を、5月5日に第2作目の「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」を地上波で放送し、<日本よ、ゴールデンウィークはアベンジャーズだ!>といったコピーを打ち出していたのは大きかったですね。さらには、異例なことに4月27日にはWOWOWで第3作目の「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」が無料放送という“新しいテレビの援護射撃”の形が出来、これなら新規層も開拓できるかも、という最高のバックアップ体制の下で一気に観客層が広がって、ようやく日本も世界の流行に乗る流れが出来てきました。本来、日本の映画の経済規模を考えると「アベンジャーズ エンドゲーム」の興行収入は100億円を突破するくらいが当然といったところなので、まずは興行収入50億円突破も余裕で見えてきた今回の飛躍的に好調な流れは非常にうれしい限りです。
世界興行収入も歴代2位の「タイタニック」は超えるだろうと思っていましたが、これも予想以上に早く抜いてくれて、あとは「アバター」だけですが、きっとこれも抜いてくれることでしょう。「令和元年に世界興行収入の歴代1位の作品が生まれる」というのは何とも象徴的でこれからの映画業界のマーケットの広がりを期待してしまいます。
さて、今週からまた映画業界に新たなカンフル剤が投入されそうです。
まずは1月16日から気にしていた「コンフィデンスマンJP ロマンス編」が今週の金曜日(5月17日)にいよいよ公開となります。作品の出来は、期待通り良かったと思います。
唯一懸念があるとしたら、連ドラの際の視聴率がそれほど高くはなかったということでしょうか。ただ、そもそもテレビの視聴率は、これだけ録画やネットなどでも見られる時代にそこまで大きい話なのかと少し判断しきれない面があります。
例えば、まだ視聴率がそれなりに指標として機能していた時代の「木更津キャッツアイ」は、視聴率は同じくそれほど高くはなかったですが「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」の興行収入は15億円、続く「木更津キャッツアイ ワールドシリーズ」は18億円と好調でした。
また、この「コンフィデンスマンJP」という作品は、おそらくテレビドラマの尺よりも映画向きだと思います。それは、騙し合い(コンゲーム)の世界を描いているので、尺が長ければ長いほど壮大な仕掛けが出来ますし、何より予算が大きいほどキャストも含め派手に制作陣が遊べます。
今年に入って「マスカレード・ホテル」「キングダム」と着々と評価が上がってきている長澤まさみが全く違った顔を見せるなど、役者としての幅の広さを「コンフィデンスマンJP」という作品で開花させることに成功していますし、長澤まさみ×東出昌大×小日向文世というコンビの化学反応もかなり良く、個人的にはこれがシリーズ化してくれたらうれしいな、と思える水準でした。
この作品への期待は、脚本を手掛けた古沢良太の「オリジナル作品」というのも大きくて、現時点での日本の脚本家で、彼は私のベスト3に入っています。私は普段テレビドラマは基本的に見る時間がないのですが、あまりに話題になっていたので「リーガルハイ」のSPドラマだけは見ましたが、なんでこれを映画化しないのかわからないくらいポテンシャルとクオリティーが高く、まだまだ邦画にも大きな可能性があるのだな、と感じています。
本作「コンフィデンスマンJP ロマンス編」は“フジテレビ開局60周年記念作品”ということですが、いっそのこと「フジテレビのアベンジャーズ計画」を進めて欲しいと密かに願ってもいます(笑)。
実はフジテレビ映画は「オリジナル作品」が多いのも特徴で、「踊る大捜査線」「HERO」「コード・ブルー」などはその代表格で、それに加えて「コンフィデンスマンJP」や「リーガルハイ」などが加わったりすれば、見事に過去の名作を蘇らせることもできるでしょう。今回の日本の「アベンジャーズ現象」を考えても、やはり地上波の援護射撃の意味合いはまだまだ大きなものがあると思っていて、日本でもこれらの構想をまとめられる優秀なコマ(作品・制作者)はそろそろ揃ってきた気がするのですがいかがでしょうか。青島刑事(織田裕二)×ダー子(長澤まさみ)、久利生検事(木村拓哉)×古美門弁護士(堺雅人)といったバトルなど、考えるだけで楽しそうですが。通常ではあり得ないクリエイターのコラボも可能なはずで、現場の一つは…「有頂天ホテル」でしょうか。
といったような構想の実現のためにも、「コンフィデンスマンJP ロマンス編」には続編が出来るくらいのヒットをしてほしいと思っています。まずは、古沢良太脚本のオリジナル作品「ミックス。」の興行収入が14.9億円だったので、景気良く20億円は突破してほしいところですが個人的な願望も含め注目です!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono