「ライオン・キング」公開30周年 アニメ映画の“王”その魅力を解説 【8月10日は世界ライオンの日】
2024年8月10日 14:00
本日8月10日は、野性ライオンの保護を呼びかけるために制定された「世界ライオンの日(World Lion Day)」。この記念日にちなみ、この記事では2024年に公開30周年を迎えたディズニー長編アニメ「ライオン・キング(1994)」の色あせぬ魅力をご紹介する。故郷を追われた主人公シンバの葛藤と成長を描いた本作は、第67回アカデミー賞2冠(作曲賞・主題歌賞)、第52回ゴールデングローブ賞作品賞(ミュージカル・コメディ部門)に輝くアニメ映画の“王”の名にふさわしい名作だ。公開30周年を記念し、9月20日~26日の1週間限定で、2D吹き替え版のリバイバル上映も決定している。
現在も上演中のブロードウェイミュージカルを経て、19年には、ジョン・ファブロー監督(「ジャングル・ブック」)が、新たにフルCGで映画化した「ライオン・キング(2019)」が公開され、世界興行収入約16億6000万ドル(約2423億円 1ドル=146円換算/8月7日時点)の大ヒットを記録。24年には、シンバの父・ムファサ王の始まりの物語を描いた「ライオン・キング ムファサ」が公開される。いまもなお受け継がれる“生命の環”、その原点が「ライオン・キング(94)」である。
主人公のシンバが、さまざまな出会いと苦難を経験しながら、“生命の環”の一員として、自分のいるべき場所、あるべき姿を探し出す成長物語である「ライオン・キング」。その重要なエッセンスとなるのが、ムファサの死だ。愛する父が命を絶たれたのは、自分の責任だと思い込み、ジャングルに逃げたシンバは、一度は過去を捨て去ることで、自分の生きる道を歩みだそうとする。
そんなシンバが我に返るきっかけとなるのが、生前ムファサが息子に託した教訓だった。自分の行動と決意に、自ら責任を持つこと。その重要性に目覚めたとき、シンバは王位を取り戻すために、故郷への帰還を果たすのだ。また、ヒヒの魔術師・ラフィキは、過去から逃げるのではなく、そこから学ぶことの価値を説き、シンバの成長を促した。“生命の環”において、死を死で終わらせないというメッセージ性に加えて、家族、責任、贖罪をテーマにした、シェイクスピアの「ハムレット」にも通ずる力強いストーリーテリングは、ディズニーアニメの新たな可能性を切り開くことになった。
主人公のシンバを筆頭に、その父であるムファサ、ムファサの弟で、ヴィランでもあるスカー、ラフィキ、シンバが出会うティモンとプンバァ、そして、幼なじみのナラと、記憶に残る愛すべきキャラクターたちの存在も、「ライオン・キング」を特別な作品にしている。
成長したシンバを演じるマシュー・ブロデリックをはじめ、声優陣の演技も絶品だ。例えば、その威厳溢れる声で、ムファサに命を吹き込んだジェームズ・アール・ジョーンズは、「スター・ウォーズ」シリーズのダース・ベイダーの声でも知られ、映画史に名を刻むふたりの“父親”を演じた名優。また、最高のコメディリリーフを担ったティモンの「何しろってんだ? フラダンスでも踊れってのか?」というセリフは、声優を務めたネイサン・レインのアドリブで、これを気に入った演出チームが、本編に取り入れた。さらに、スカー役のジェレミー・アイアンズ、シェンジ役のウーピー・ゴールドバーグら、実力派キャストが集結し、物語に確かな説得力を与えている。
忘れてはいけないのが、エルトン・ジョンとティム・ライスがタッグを組んだ名曲の数々だ。「サークル・オブ・ライフ」「愛を感じて」「ハクナ・マタタ」――これらの楽曲は、キャラクターや物語はもちろん、観客の心までも躍動させ、アフリカの大地を歩む冒険をより豊かな体験へと昇華させた。ライスといえば、作曲家アラン・メンケンとの“黄金コンビ”で知られるが、当時メンケンが多忙だったため、ライスは当初、スウェーデンのポップグループ「ABBA」とのコラボレーションを模索した時期もあったという。
また、映画の冒頭を飾る印象的な歌声は、南アフリカ出身のミュージシャンであるレボ・Mによるもの。スコアを担当したハンス・ジマーとは、「パワー・オブ・ワン」(92)で仕事をともにした縁があり、再タッグが実現した。ズールー語による歌唱は、たった1度のテイクがそのまま採用されている。サウンドトラックは全米だけで約770万枚を売り上げ、「世界で最も売れたアニメ作品のサウンドトラック」として、ギネス世界記録にも認定されている。
サバンナの雄大な自然、そこに息づく鮮やかな生命を、スケール感たっぷりに描いた映像美も「ライオン・キング」の魅力だ。また、作品を象徴するヌーの大群の暴走シーンは、従来のアニメ技法と、当時本格的な導入が始まったCGI技術の融合で、生み出されている。デジタルで生み出された複数種のヌーをコピーし、互いにすれ違うことを避けながら、渓谷を突進するプログラムが開発され、わずか2分半のシーンを完成させるのに、約2年の歳月が費やされた。
また、カメラワークとズームで背景が伸縮しているように見せる「ドリーズーム」を駆使し、現場の混乱とシンバの恐怖を表現している。ドリーズームは、古くはアルフレッド・ヒッチコックの「めまい」、スティーブン・スピルバーグの「ジョーズ」などに用いられ、ピーター・ジャクソン監督の「ロード・オブ・ザ・リング」にも使用された技法だ。こうした伝統と革新の融合が生んだ「ライオン・キング」は、動物を主人公にしたディズニー作品として、「バンビ」に匹敵する傑作の地位を獲得した。
物語やキャラクター、音楽に映像美と、魅力を挙げるとキリがないが、何より「ライオン・キング」が愛され続ける理由は、世代を超えて誰もが共感できる普遍性にある。先ほど紹介した家族、責任、贖罪はもちろんのこと、アイデンティティの喪失と奪還、環境や社会への適合、家族とコミュニティの重要性など、目まぐるしく移り変わる現代社会にこそ、避けては通れないテーマが随所にちりばめられている。
またムファサとスカーの対比によって、リーダーシップに関する教訓を受け取ることもできる。知恵と慈愛を重んじ、ときには大義のために困難を選ぶムファサに対し、スカーの統治は利己的で欺瞞に満ちており、結果的には破滅へと導かれてしまう。己の弱さゆえに力を求めた結果でもあり、「周りの誰かが手を差し伸べれば、違う運命を歩んでいたのかも」と考えると、新たな気づきを得られるはず。もちろん、私たちひとりひとりが、過去・現在・未来を通して“生命の環”の一員であることを忘れてはいけないだろう。
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