二宮和也主演「アナログ」 ハイテクな現代社会に問う「恋愛映画の原点的な作品」のポテンシャルは?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2023年10月6日 14:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末10月6日(金)から、ビートたけし原作小説×二宮和也主演の「アナログ」が公開されます。
本作は、2つの意味で、これまでの恋愛映画とは異なっています。
1つ目は、今では当たり前のように生活の1部として浸透しているスマホなどの携帯電話。そんな携帯電話を携帯しない、レアな存在が本作のヒロインになっています。
当初は違和感が全くないとは言いませんが、本編を見ていると、そうなっている理由のようなものが分かり、特に設定に問題はないと思います。
そうなると、通常の連絡手段が取れず、今では非常に珍しい昔のような「アナログ」な手法にならざるを得ないのが新鮮です。
その結果、「恋愛映画」における原点的なものを見ることができて、今だからこそ特に響く作品になっています。
しかも、単なる「アナログ」ではなく、あくまで舞台は現代なので、ハイテクも同居しています。その共存が新しい作品となっているのが大きな特徴です。
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2つ目は、試写を見終わった後に、宣伝の人と観客との間で以下のような話し声が聞こえました。
「これって本当にビートたけしが原作を書いたの?」
これは、私自身も最初に感じた感想。きっとかなり多くの人がそう思うくらいに、良く出来た恋愛映画なのです。
そう思った背景の1つには、これまで「ビートたけし=恋愛映画」といったような印象が皆無と言ってもいいくらいの状況があったからなのでしょう。
ただ、それも当然で、この原作は、ビートたけしが70歳にして初めて書き上げた(2017年9月発売の)「大人の恋愛小説」だからです。
前述の疑問が最初に浮かんでしまうほど「素敵な恋愛映画」に仕上がっています。
本作の出来は非常に良いと思いましたが、何の情報も入れていない状況で試写を見たので「監督は誰なんだろう?」と考えながら見ていました。
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そしてエンドロールを見て驚いたのは、タカハタ秀太監督だったからです。
タカハタ秀太監督というと、「鳩の撃退法」(2021年8月公開)がすぐに浮かびましたが、同作は奇をてらい過ぎていた印象。タカハタ秀太監督の良さがそれほど表れていない気がしていましたが、「アナログ」は非常にクオリティーの高い映画に仕上がっていたのです!
本作では良い意味で独自性のあるカットが生み出されていました。編集が上手く、長々とシーンを見せるわけでもなく、切れるところはどんどん切って画面ではカクカクするシーンが散見されるのですが、それがテンポ良くカッコいい映像表現になっていたのです。
タカハタ秀太監督は、2015年のTBS年末ドラマスペシャル「赤めだか」の演出もしていて、この作品は「ギャラクシー賞」や「東京ドラマアウォード 2016・作品賞」(単発ドラマ部門)でグランプリなどを受賞したりもしています。
しかも、この作品のメインの登場人物は、二宮和也とビートたけしの2人で、本作と共通点があるのも興味深いです。
タカハタ秀太監督は、奇をてらうトリッキーな作品ではなく、本作のような地に足のついた作品で力を発揮するのでは、と思われます。
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そして、本作は、キャスティングが非常に上手く、メインの二宮和也、波瑠を筆頭に登場人物がすべて適材適所に配されていると感じました。
中でも主演の二宮和也はやはり非常に上手く、作品を引っ張る存在でした。
本作のリアリティーを生み出す背景の1つに、二宮和也が演じる主人公のインテリアデザイナーの水島悟の設定があると思います。
もちろん最新鋭の技術の中で生きつつも、現代的なCGを駆使するデザイナーではなく、手作り模型や手描きのイラストにこだわりを持つ「アナログ」なタイプであるのも自然で上手い設定です。
また、二宮和也が演じる主人公の小学校からの友人2人を桐谷健太と浜野謙太が演じていますが、この2人の掛け合いもテンポ良く面白く、3人のやり取りが非常に微笑ましく楽しいのです。
さて、本作の肝心な興行収入ですが、単なる恋愛映画であれば、よほどの事がないとヒットしにくい面もありますが、本作は独自性があるので、十分にヒットが狙えると思います。
そして、二宮和也主演映画は、演技の上手さも手伝って、興行収入が高めになる結果を生み出す珍しい存在である点も重要でしょう。
この10年くらいで見てみても、「プラチナデータ」(2013年)が興行収入26.4億円、吉永小百合とのW主演「母と暮せば」(2015年)が19.8億円、「ラストレシピ 麒麟の舌の記憶」(2017年)が11.4億円、「浅田家!」(2020年)が12.1億円、「TANG タング」(2022年)が7.85億円、「ラーゲリより愛を込めて」(2022年)が26億円超え、のようになっています。
唯一「TANG タング」だけは興行収入10億円を割っていますが、これについては作品の出来を踏まえると仕方のない面があると考えます。
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その意味では、本作は出来が良いので、興行収入10億円は突破できると思われます。
作品の雰囲気としては、“物凄く大きな括り”で言うと、直近の「浅田家!」に近い面があるのかもしれません。
まずは興行収入12.1億円が1つの目安となります。
ただ、これまで二宮和也は、純然たる恋愛映画への出演が無いのでどうなるのかは読みにくい面がありますが、作品の良さもプラスに働いて興行収入15億円は目指せるような気がします。
今の時代だからこそ響く“恋愛の根源とも言えるアナログな恋愛映画”がどのような結果になるのか、新たなマーケットの意味でも大いに注目したいと思います!
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