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フランソワ・オゾンが若い世代に鑑賞を勧めるファスビンダーの傑作は? 「苦い涙」インタビュー

2023年6月3日 08:00

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フランソワ・オゾン監督
フランソワ・オゾン監督

フランスの名匠フランソワ・オゾンが、ドイツのライナー・ベルナー・ファスビンダー監督が1972年に手がけた「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」を現代風にアレンジし、美青年に恋する映画監督の姿を描いたドラマ「苦い涙」が公開された。巧妙なストーリーテリングと魅力的な配役で、人間の心の光と闇をあぶり出し、卓越した芸術的表現で毎回異なるジャンルの傑作を生みだすオゾン監督が、オンラインインタビューに応じた。

画像2(C)2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION (C)Carole BETHUEL_Foz
<あらすじ>
恋人と別れたばかりで落ち込んでいた有名映画監督ピーター・フォン・カントのアパルトマンに、親友である大女優シドニーがアミールという青年を連れて訪ねてくる。艶やかな美しさのアミールにすっかり心を奪われたピーターは、彼を自分のアパルトマンに住まわせ、映画界で活躍できるよう手助けする。
――「焼け石に水」(00)に続く、ファスビンダー作品の映画化です。20年以上経た今、なぜこのタイミングで本作を作ったのですか?

私が元々ファスビンダーがすごく好きだということもありますが、コロナ禍のロックダウン中に本作のアイディアが浮かびました。以前と同じような形での撮影は難しかったので、一カ所で展開する物語を作れないかと考えたのです。ファスビンダーの原作では6人の女性が登場しますが、私は既に8人の女性が出てくる映画を作っているので、男性のみの作品を作ってみました。そして、このファスビンダーの作品は彼の自画像により近いものではないかという直感がありましたので、主人公を男性に置き換えました。

――コロナ禍が生み出した賜物ということで、撮影はどのように進みましたか?

一か所だけで撮影したのでシンプルですし、役者の数も少なかったので、撮影現場そのものがロックダウンされていたような状態でした。居心地良く、調和の取れた状態で撮影できたので、若い俳優は現場で寝泊まりして、家に帰りたくないと言うキャストもいました。

画像4(C)2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION (C)Carole BETHUEL_Foz
――この物語のカギとなる魅力的な青年、アミールを演じたハリル・ガルビアの起用理由を教えてください。

オーディションです。当初はもっと年齢が上の俳優を考えていました。ファスビンダーは年長の俳優を好むと思ったからです。しかし、面接した俳優たちはこの役を演じることをためらいました。そして年齢を下げて募集したところ、この世代はセックスやホモセクシャルに対しても自由で抵抗のない考えを持っていたので、ハリルは楽しんで演じてくれました。

――あなたの作品には毎回スター級の女優が出演します。今回のイザベル・アジャーニはどのように決まったのですか?

以前からアジャーニが好きで、面識もありました。「まぼろし」の時に彼女に声をかけましたが、最終的にシャーロット・ランプリングが演じることになりました。今回は、それほど大きな役ではありませんが、スターであり、ユーモアのある役柄だったので、とても楽しんで演じてくれました。

画像3(C)2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION (C)Carole BETHUEL_Foz
――ファスビンダーも自作で音楽を効果的に使いましたが、あなたの今作「苦い涙」も歌詞から物語の展開を示唆するような音楽劇の一面があります。今回、レオス・カラックス監督の「アネット」にかかわったクレモン・デュコルが参加していますね。

クレモンはとても才能があり、ファスビンダーが用いた60年代ドイツの歌も扱えると考えました。その歌は、オスカー・ワイルドの歌詞で、かつてジャンヌ・モローが歌った歌です。今回それをイザベル・アジャーニに歌ってもらいました。

――今作や「焼け石に水」など、あなたの作品を通してファスビンダーを知る人も多いと思います。ファスビンダーの一ファンとして、あなたは、リアルにファスビンダーに触れてこなかった若い世代に、どのような作品を薦めますか?

まずは、このリメイクをした「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」のオリジナルの映画を見てほしいです。ファスビンダーは数多くの作品を作っているので、そのほかにおすすめしたいのが「不安は魂を食いつくす」「リリー・マルレーン」「ベロニカ・フォスのあこがれ」「マリア・ブラウンの結婚」などです。今挙げた作品以外にもいろいろと発見してほしいです。

画像5(C)2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION (C)Carole BETHUEL_Foz
――今作も愛について描く作品です。長いキャリアの中で、その描き方や監督ご自身の考え方は変化しましたか?

若い時には理想しかありませんでしたが、幸いなことに変化しています(笑)。例えば1985年に作った「まぼろし」は当時30代の私が抱いていた愛のイメージです。この映画は50代になって撮りましたので、様々なことを経験してその考えの変化が出ていると思います。

――この映画の原作は25歳のファスビンダーが書いた物語です。当時の彼より成熟しているあなたにとって、ファスビンダーの描く愛に若さを感じたということですか?

いえ、ファスビンダーの驚くべきところは、25歳であっても非常に成熟した考えを持っていたことです。私が25歳だったらこんな作品は作れないと思います。

画像6(C)2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION (C)Carole BETHUEL_Foz
――ファスビンダーは37歳で死去しました。あなたは彼より長いキャリアを築いていますが、もしファスビンダーが生きていたらどんな話をしたいですか?

まずは私の作品を見てほしいです。そして、ドイツとフランスという2カ国は戦争で戦った過去があります。しかしフランス人監督が、ドイツ人監督の作った作品からインスピレーションを得ることがあると、彼に知ってほしいですね。私の「婚約者の友人」という作品は、両国の戦争がテーマになっていますが、私は非常にドイツの文化を愛しています。

――「婚約者の友人」以外にファスビンダーに見てほしい自信作はありますか?

全部です! ファスビンダーは40作を残していますが、わたしは20作ほどしか作っていないので、すべて見てもらえると思いますから(笑)。


今作「苦い涙」の公開を機に、今月から7月にかけて「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」や、「不安は魂を食いつくす」などファスビンダーの傑作がリバイバル上映される。オゾン監督の作品と共に、早逝した名匠の遺した傑作群をぜひ体験して欲しい。

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