フランス版暴走族で孤軍奮闘 女性らしさの規範には従わない主人公描く「Rodeo ロデオ」監督、脚本家に聞く

2023年6月3日 09:00


ローラ・キボロン監督(右)と、共同脚本を担当したアントニア・ブルジ
ローラ・キボロン監督(右)と、共同脚本を担当したアントニア・ブルジ

2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員たちから絶賛され、本作のために特別に設けられたクー・ド・クール・デュ・ジュリー賞を受賞、バイクを愛する女性が男性中心主義のコミュニティの中で自身の居場所を見いだしていく姿を鮮烈に描いた「Rodeo ロデオ」が公開された。

本作が長編デビュー作となるローラ・キボロン監督と、共同脚本を担当し、俳優として本作に出演するアントニア・ブルジが来日。私生活でもパートナー同士だというふたりが、ヘルメットを装着せず全速力で走り、アクロバティックな技を競い合う、日本の暴走族も想起させるような特殊なバイカーの世界と、監督が考えるジェンダーについての意識を結び付けたという独創的な本作について語った。

※本記事は「Rodeo ロデオ」の結末の一部に触れています。未見の方はご注意ください。

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<あらすじ>
 短気で独立心にあふれたバイカーの女性ジュリアは、ある夏の日、ヘルメットを装着せずにアクロバティックな技を繰り出しながら公道を爆走する反社会的バイカー集団「クロスビトゥーム」に出会う。ある事件をきっかけに彼らが組織する秘密結社に加わることになった彼女は、男性中心主義の集団の中で自身の存在を証明するべく奮闘する。しかし男たちの要求は次第にエスカレートしていき、ジュリアは集団内での自分の居場所に疑問を抱くようになる。

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――男性的な環境の中で生きる女性を描くことが目的で、このバイク集団という設定を思いついたのですか? バイクを自由に操るも、演技経験はなかった主演のジュリー・ルドリューの存在感が見事でした。

ローラ・キボロン監督:本作は様々な要素を含めた物語ですが、私がクロスビトゥームの世界に触れたことが出発点です。彼らの活動の場に7年ほど通い詰めて、様々なことを観察しました。クロスビトゥームは一種のショーのような要素もあり、ポエティックで芸術的なものも感じました。バイクを核にして、彼らが強い連帯を築いていることにも興味を持ちました。ですから、バイクの世界がフィルム全体を成り立たせる背景のようなものとして存在します。そして、映画の準備を始めてから7年、様々な状況が変化し、4年かけてシナリオを書きました。そのなかでジュリアという主人公が、流動的でありながらも、同時にはっきりと形づくられたのです。

最初から分かっていたことは、私の中にあるジェンダーについての意識。自分は女なのか、男なのか。そして私を含む女性と暴力との関係。その部分に関しては、はっきりとしたアイディアがありました。そして主人公のジュリアを演じることになるジュリー・ルドリューとの出会いがあり、ジュリアを具現化するのに役立ちました。そんな形で物語ができていきました。最終的には私自身が持っている神話、自分がどういう人間なのか、女性の体とは何なのか、女性であることは何なのか、そういった自分の問題意識とクロスビトゥームの世界に生きる人々、ジュリーの持つ世界の3つの要素が合体してできたものです。

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――キボロン監督も実際にバイクに乗るのですか?

父がバイクレースが好きで、私も子どもの頃からバイクに乗りたいと思っていましたが、ジュリアのような運転はできません。この作品のリサーチの中で、メンバーに乗せてもらったこともありますが、あのバイクは公道で走る認可を得ておらず、非常に高価なので安易に乗らせてはもらえないのです。そしてとても危険なものでもあるので、彼らにとっては宝物のような大切なもので、メンバー同士でも簡単に貸し借りはしません。

私はこの映画のために観察したり、後ろに乗せてもらううちにバイクの持つ詩的な力を感じるようになりました。発するバイブレーション、動きが持つエネルギー、自由さ、ガソリンのにおい。そのすべてがあの世界を形作っていることが体感できるようになりました。ということで、私とバイクの世界のかかわり方は、主人公のジュリアとは全く正反対です。私はクロスビトゥームの世界に2015年に出合い、その時にはカメラマンとして、彼らを撮影する、というある程度の役割を持っていたので、すぐに受け入れられたのです。

――ジュリアのようなクロスビトゥームの女性バイカーは実際に存在しますか?

女性はほとんどいません。2017年にバイヤという名のバイカーの女性に出会いました。彼女は特別な存在感はあるのですが、奇妙な面もあって、また小型のバイクに乗っていたこともあり馬鹿にされていました。しかし、彼女はそのように扱われてもアグレッシブで、嘲笑をはねのける強さを持つ人でした。でも、私が彼女のことを知った夏の終わりにどこかにふっといなくなってしまって、そのバイヤという女性の存在からジュリアという主人公をイメージすることができました。ジュリーに会ったのはその後なのですが。ですから、バイヤの一種の亡霊のようなものが、ずっと頭に残っていて、ジュリアというキャラクターに結実したと思います。

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――主演したジュリー・ルドリューはインスタグラムで発見されたそうですが、彼女は実際にバイクに乗っていたのですね。

ジュリーもクロスビトゥームの世界が大好きで、ルールも良く知っていました。バイクがもたらすセンセーションやアドレナリン、スピード、それを怖がったりしないのです。そういった女性に出会えたことは本当に貴重でした。彼女は寝室にオートバイを置いています。彼女自身が孤独を感じている人で、生きている理由そのもののような存在だったからでないでしょうか。

――アントニア・ブルジさんにうかがいます、今回、共同脚本ということでどのように物語を作っていったのですか?

アントニア・ブルジ:今回初めて共同執筆しました。私たちが出会ったのがちょうど6年前。ローラがFEMISを卒業したばかりで、短編は撮っていましたが監督として駆け出しの段階でした。出会ってから一緒にバイクの集会に行くようになったので、最初から二人の間にクロスビトゥームの世界がありました。そしてふたりで暮らしていく中で、女性とは何か、カップルとは?といろいろ話し合ったり、政治的な取り組みに参加し、様々な本を読んだりして、この物語を一緒に深めていったという経緯があります。今後もこういった形でふたりで一緒にやって行きたいと思っています。

――あなたは女優として、クロスビトゥームのチームの一員であるドミノの妻を演じました。男性に依存する女性の弱さを表すようなキャラクターでした。

私が演じたオフェリーという女性は、夫の監視下にあり、閉じ込められている女性です。そういった女性を描くことによって、ステレオタイプなあらゆる女性的なものが体現されていると思います。長い髪、母性など、女性なるものの表象を描きましたが、彼女がジュリアと出会うことによって、ジェンダー、男と女の表現の仕方に関しても割れ目が生じて、ありきたりなステレオタイプな見方をずらすような動きが出てくるのです。

一見、男性に依存するタイプの女性に見えるような設定ですが、徐々に彼女の深みや複雑さが生まれてくると思います。しかし、ドミノの行動が彼女から力を奪ってしまった。その結果、自立することができなくなり、ドミノが彼女を弱い存在にしたとも言えます。しかし、彼女の中にも怒りや暴力性はあって、そこはジュリアの中にも重なるような部分があると思います。オフェリーにも潜在的には自分を変えたり、解き放つ力があるように描いたつもりです。

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――“女性同士”という言い方が正しくはないかもしれませんが、ジュリアとオフェリーの心が通い合ったように見えても、悲しい結末が訪れます。

ローラ・キボロン監督:ジュリアはある意味での自殺行為に及びます。再生もほのめかされてはいますが。あのシーンでオフェリーが同意していたらジュリアもあんなことをせずに済んだのです。しかし、ジュリアがオフェリーにプレゼントのように残したもの、あれは象徴的な意味でもオフェリーに対して自分を解放する力、もっと他の可能性があることをオフェリーに対して残したと言えるのです。

――本作製作においてジェンダーについて考えたということですが、公開後、男性や女性で感想が異なることはありましたか?

ローラ・キボロン監督:バイク仲間の男性たちからは好評でした。それはリアリティを持ってバイクの世界が描かれていたからです。ジュリアにとって、オートバイなしには何もできない、そういったことを理解してくれていると評価してくれました。しかし、ジェンダーの問題となると彼らは少し居心地の悪そうな感じもありました。

そもそもこの私の作品の客層は多い順から、数人で見に来るバイクの仲間たち、シネフィルで作家主義的な作品が好きな割と高年齢の人々、フェミニストやクィアの方、そして男性です。興味深いのは女性はジュリアがなぜあんな行動をするのかすぐ理解してくれるのですが、男性はあの主人公に対して居心地の悪さを感じるようです。大抵、映画の中の女は男を誘惑するような存在で、若い男の子と恋に落ちる……など、そういう話に慣れていると、ジュリアのような人物が出てくると、それまで自分が信じていたものが覆されて、自己同一化できないことがあるようでした。

特に年配の男性にそういう傾向があるように思いました。大半の男性はジュリアの持つエネルギーに圧倒されたようです。私は映画を作ることで分断を作りたいのではなく、観てくださった方がいろんなことを考えて、それを伝えていってほしいのです。

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